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中医協診療側・長島委員「欧米と日本は前提となる制度が違う」 “欧米並み”の薬価求める業界にクギ

公開日時 2023/09/21 06:30
中医協診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)は9月20日の中医協薬価専門部会で、製薬業界が欧米並みの薬価を主張したのに対し、「営利企業の経営論理」と指摘したうえで、「特に、日本の国民皆保険を継続させるところでは、そもそも欧米とは仕組みが違う。欧米の論理をそのまま持ち込むというのは考えていただく必要がある」と苦言を呈した。日米欧製薬団体はこの日の意見陳述で、ドラッグ・ラグ/ロスについて改めて薬価制度に要因があると指摘。日本製薬工業協会(製薬協)の上野裕明会長が「欧米と同等の価格が期待できる仕組みであれば、国内外の格差を理由としたドラッグ・ラグ/ロスが解消する」などと主張していた。

日米欧製薬3団体は、ドラッグ・ラグ/ロスの解消に向けて、「国内の薬価が想定しやすく、わかりやすい制度にすること、欧米と比べて遜色ない薬価が期待できること、上市後の薬価が予見でき、薬価引下げのリスクが低いことが重要。これらを複合的に実現して、日本で事業性が見通せる薬価制度にする必要がある」と主張した。24年度薬価制度改革に向けては、薬価収載時に、革新的新薬を迅速に導入するための薬価算定、有用性加算などの評価を拡充するほか、新薬創出等加算や市場拡大再算定の見直しも要望した。革新的新薬を迅速に導入するための薬価算定としては、先駆加算に準じた補正加算の新設と、海外で想定される価値評価を踏まえた価格調整を訴えた。

◎診療側・長島委員「日本には日本ならではの良さ」 承認から一定期間で保険適用

診療側の長島委員は、「アメリカでは、製薬企業が自由に価格を設定できるものの、医薬品のアクセスが、患者さんの経済力によって左右される。一方、日本では国民皆保険制度の下、国民負担の軽減と医療の質の向上の観点から、きめ細かい薬価の評価方法を定めている。このように、そもそもの前提が異なっている。これを比較する場合には、十分に留意する必要がある」と指摘した。さらに、「日本には日本ならではの良さがある。例えば薬事承認から一定期間内で迅速に保険適用し、保険適用後は広く国内で使用可能になることなどは、他の国にはない、日本市場の大きな魅力ではないかと考える」と述べ、日本市場のメリットを強調した。

これに対し、欧州製薬団体連合会(EFPIA)の岩屋孝彦会長は、承認から原則60日間で収載される日本のルールを「美点」としたうえで、「実際の投資に対するリターンを考えたときに、我々の医薬品であれば売上のほぼ全てが皆保険制度の中での売上で、薬価は非常に重大な影響がある。欧米等と遜色のない薬価をつけていただくということが必要であるということについては変わりない」と述べた。

米国研究製薬工業協会(PhRMA)のシモーネ・トムセン在日執行委員会委員長は、「日本には薬事承認後に直ちに薬価で償還できる。非常に迅速にできるということは日本の強みだと思う。しかし、アメリカやヨーロッパでも同様な迅速さがある」と指摘。「日本の制度はドイツと似ていると感じている。つまり公的な支払いの仕組みがあるからだ。承認後に実際の薬価がどうなるか、そしてどのような形で薬価が維持されているか、ということが重要だ」と述べた。なお、ドイツには特許品を含む参照価格制度が導入されていることが一般に知られている。

◎診療側・長島委員「通常にも増して、プラス評価を求める要望ばかり」

診療側の長島委員は、「通常にも増して、今回のご意見は、新薬、後発品ともに“プラス評価”を求める要望事項ばかりのように見える。その財源についてはどのようにお考えなのか」とも質した。

◎日薬連・岡田会長「薬価から多くの財源を捻出」 出口を考える

日本製薬団体連合会(日薬連)の岡田安史会長は、「これまで社会保障関係費の伸びの抑制として、国民の命と健康を守る医薬品の薬価から多く(財源)を捻出してきた実態があると認識をしていて、それが今日の問題につながっているという認識を基本的に持っている」と主張。「イノベーションにさらに切り込むことは、ドラッグ・ラグ/ロスの状況を一層深刻化させる。また、基礎的医薬品の価格低下というのは、安定供給不安というのをさらに悪化させる可能性がある。国民皆保険を持続性のあるものにしていくという趣旨については十分、我々も認識をしているが、このままでは国民皆保険に必要な医薬品について非常に大きな課題を抱えたままになると思っている」と続けた。

一方で、すべての品目について引上げを求めているのではないとしたうえで、「例えば古くから収載されていて、診療ガイドラインにはもう記載がなく、医療上の必要性が低下しているものについては薬価収載し続けるかどうかも含めて、その“出口”を考える時期にきているというふうに考えている。そういった観点も含めて、ぜひ我々としては、そのメリハリというものについて、特にサイエンティフィックな観点を含めて、議論いただきたい」と主張した。

診療側の長島委員は、「営利企業の経営論理として、欧米と比べて遜色ない薬価とか、薬価引き下げのリスクが少ないこと求めるのは企業としてはそうでしょう」と述べたうえで、「ただし、欧米と日本では制度がそもそも違う。特に日本の国民皆保険をしっかりと継続させるというところでは、そもそも欧米とは仕組みが違うので、欧米の論理をそのまま持ち込むというのは考えていただく必要がある」と指摘した。

これに対し、EFPIAの岩屋会長は、「実際に薬価導入するときにも欧米の価格は参考にされている。そういう観点で言えば薬価の水準についてもきちんと欧米の制度を参照していただくということで、論理的には破綻していない」と反発した。

なお、診療側の長島委員は、海外4か国における新薬の薬事承認から保険適用までの期間や薬価の予見可能性について事務局側に整理することを求めており、厚労省保険局医療課の安川孝志薬剤管理官は、「準備できる範囲で調査中。新薬の議論の際にできるものを提示していきたい」と応じており、今後、“欧米並み”をめぐる議論となりそうだ。

◎製薬協・日本に既存薬ない品目は39品目 「保険に早期導入する必要性のない抗感染症薬も」

製薬協は、日本にドラッグ・ロスが86品目あるとしており、中医協の診療・支払各側から、日本に必要な医薬品が何品目あるか、詳細な分析を求める声があがっていた。

製薬協は、86品目のうち、日本で当該疾患の既存薬がないのは39品目に上ると説明した。
ただし、この中には、エボラウイルスやマラリアなど、日本に存在しない感染症の治療薬なども複数含まれており、日本市場に真に必要なドラッグ・ラグの医薬品の数は明確に示されていない。製薬協の上野会長は日本で必要な品目について問われ、「医療従事者の方あるいは患者様にとって、その品目が必要かということだと思い、私どもから申し述べるのはこの場では適正ないと思っている」と話した。

支払側の松本委員は、「必ずしも保険診療の中に早期に導入する必要性の高くない抗感染症薬も含まれている」と指摘。そのうえで、「指定難病であるとか、既に未承認薬検討会の対象になっているものも多数含まれている。こうしたその他のものも含めて日本に導入すべきとの判断が一定程度ついたものについては、薬価制度で評価するという現在の枠組みがそれほど間違っていない。引き続き現行の枠組みの中でどのような対応ができるのか検討すべきではないか」と指摘した。

◎新薬創出等加算 企業指標・区分撤廃要望も慎重論相次ぐ

新薬創出等加算について製薬業界は、「企業指標・企業区分については撤廃し、薬価を維持すべき」、「小児用医薬品などの医療上必要性の高い医薬品、およびドラッグラグ・ロス解消に資する日本で早期上市した品目については、現行の品目要件に追加すべき」と主張した。7月の業界意見陳述では新薬創出等加算に代わる、シンプルに薬価を維持する新たな制度を提案していたが、「基本的な考え方として、最終的に目指すのは特許期間中の薬価維持ということには変わりはない。ただ、やはり段階的にどう実現していくかという中で、喫緊の課題であるドラッグ・ラグ/ロスを解消するために、まずは新薬創出等加算における品目要件の追加や、企業指標等の撤廃というものを提案させていただいた」と説明した。

診療側の森昌平委員(日本薬剤師会副会長)は、「制度の趣旨や薬価制度の抜本改革における見直しの経緯も踏まえた上で、慎重な議論が必要」と指摘した。

支払側の松本委員は、「一律に薬価維持するということは、企業の開発姿勢、あるいは個別の医薬品の価値が反映されずイノベーションの評価に必ずしもつながらない考えている。新薬創出等加算による特許期間中の評価そのものを否定しているわけではないが、新薬創出等加算の累積控除のタイミングについてもあわせて議論させていただきたい」と述べた。

これに対し、日薬連の岡田会長は、「長期収載品の価格だけが削減するという議論だけが走るのではなくて、あくまでも新薬の評価とともにそれが特許満了したときには、その価格も含めてということを申し上げておりますので、ぜひこのバランスを持って議論していきたいと、それによって財政的には十分バランスが取れると考えている」と述べた。

◎原価の開示難しさを主張「委託先は高い秘匿性」

このほか、中医協で原価計算方式の開示度が低いことに対する指摘が上がったことに対し、サプライチェーンが複数の国にまたがり、「外国の委託企業にこれら全ての経費について根拠となる情報を開示させることは極めて困難」などと説明した。製薬協の上野会長は、「自社だけで製造している例は極めて少なく、様々な委託先を使っている。委託先はそれぞれどういう価格で出しているかについて高い秘匿性を持っており、ほとんど開示していただくことはない」として、国内、海外ともに原価の開示が難しい状況を強調した。

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