国がん等研究グループ 受動喫煙が肺がんの遺伝子変異を誘発すると証明 予防法の開発に期待
公開日時 2024/04/17 04:51
国立がん研究センターなどの研究グループは4月16日、受動喫煙が肺がんの遺伝子変異を誘発することを証明したと発表した。患者の受動喫煙歴と遺伝子変異の関係を調べた結果、受動喫煙を受けて発生した肺がんでは、受動喫煙を受けずに発生した肺がんに比べ、より多くの遺伝子変異が蓄積していた。また、能動喫煙とは異なるメカニズムで変異が誘発されていることも明らかになった。受動喫煙が肺がんの危険因子であることはすでに知られているが、受動喫煙と遺伝子変異の関わりが明らかになるのは初めて。グループでは、「受動喫煙によって変異が誘発されるメカニズムが明らかになったことで、炎症を抑えるなど受動喫煙に対する新たな肺がん予防法の開発が期待される」とコメントしている。
◎受動喫煙によりゲノム変異がより多く蓄積
国がんや東京医科歯科大学による研究グループは、国がん中央病院で手術を受けた非喫煙者女性291人と、喫煙者女性122人の肺腺がんについて、ゲノム全体の変異を同定した。
100万塩基中の遺伝子変異数(中央値)について、全遺伝子解析できる全エクソンシークエンスでみたところ、自分はたばこを吸わないものの受動喫煙歴がある女性は1.44で、同じ非喫煙者で受動喫煙歴がない女性の1.29を上回った。能動喫煙者の女性では1.99で、能動喫煙ほどではないが、受動喫煙によって肺がんのゲノム変異が蓄積することがわかった。
◎受動喫煙 喫煙者と異なるメカニズムで変異誘発
また肺がんのドライバー遺伝子変異として知られるEGFR変異の頻度についてみたところ、受動喫煙の有無による変化はなかったものの、変異数が多い患者を抽出して全ゲノムシークエンスで調べたところ、APOBEC型と呼ばれる変異の割合が高いことが分かった。
同変異は、DNAの変異導入機能を持つ酵素として機能し、ウイルス感染などに対する宿主防衛機能として発現が誘導されるもの。同変異の割合の中央値は能動喫煙者で0%だったのに対し、非喫煙者で受動喫煙歴がある女性では15.6%に上った。同じく非喫煙者で受動喫煙歴がない女性は7.32%だった。
さらに同変異の多くは、がん組織内で均一に存在するドライバー遺伝子変異とは対照的に、不均一に存在していた。このため受動喫煙により誘発された変異は、腫瘍細胞の発生そのものではなく、不均一性を増加させることで初期の腫瘍細胞の悪性化を促進していると推察されたという。
◎メカニズム推定で新たな予防法に期待
会見で国立がん研究センター研究所ゲノム生物学研究分野の河野隆志分野長は、「不均一ながん細胞が多いと、がん細胞が生き残る割合が増えるということが多く報告されている」と指摘。そのうえでAPOBEC型変異の誘発に中心的な役割を果たすAPOBEC3B遺伝子の発現が高いがんは抗がん剤が早い段階で聞かなくなることや、患者の予後を悪くすることが知られているとし、受動喫煙を回避するとともに「例えばAPOBEC型変異を阻害する薬や予防法があれば、初期のがん細胞が悪性化するのを防ぐようなことが期待できるのではないか」と期待を寄せた。