PhRMA パテントリンケージ制度の見直し「有用性に疑問」 後発品申請時点で特許権者に通知する制度構築を
公開日時 2025/05/07 04:50
米国研究製薬工業協会(PhRMA)は5月2日、後発品の承認審査において、先発品の特許権を考慮する“パテントリンケージ制度”の改善に向けた厚労省の改革案について、医薬品の安定供給などの面から「制度の有用性に疑問を持っている」との意見書を公表した。厚労省は、特許抵触の有無の確認にあたり、中立的立場である医薬品特許の専門家の意見を反映させる仕組みの構築に向けた検討を進めている。PhRMAは「後発品またはバイオ後続品の申請が行われた時点で、かつ承認前に特許権者に通知する制度」の必要性を主張。厚労省の改革案では、「先発企業が抱える主要な懸念に対処していない」としている。特許権をめぐっては、特許侵害訴訟による販売差し止めなどにより、安定供給に影響が出ることが懸念されている。
◎中立的立場の専門家の意見を聴取する意見照会制度の導入を検討 厚労省
現行制度では、後発品の承認審査に際し、厚労省が先発品の特許(いわゆる物質特許及び用途特許)と後発品との関係性についての見解を双方から徴取したうえで、特許抵触の有無について確認を行い、承認の可否を判断している。一方で、当事者間の見解に隔たりがあり、厚労省が確認することが困難であるケースが増えているという。また、特許抵触の有無の判断は裁判所が特許権侵害訴訟等で行うが、23年5月の知財高裁判決によると、後発品の承認前の段階では、後発品が先発品関連特許を侵害していないことの消極的確認訴訟は訴えの利益を欠くとして却下(門前払い)されるという。このため、厚労省は「後発品の承認審査の過程で特許抵触の有無を確認する際に、司法判断を参照することは期待できない」といている。一方で、特許抵触の有無の確認にあたり、中立的立場である専門家の意見を聴取する仕組みが存在しない。
このため、厚労省は研究班を設置し、承認審査において考慮すべき特許の範囲等を明確化した上で、専門家への意見照会制度の導入について、検討を進めている。この方向性については、昨年5月の厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会で了承されていた。
◎PhRMA 「特許紛争解決まで後発品を薬価基準収載に掲載しない対応を取るべき」
PhRMAは、「厚労省が後発医薬品またはバイオ後続品が先発医薬品の特許の範囲内にあるか否かを判断できない場合にのみ利用されることを意図していることは評価する」としたうえで、「日本における先行バイオ医薬品の特許が適切に尊重されること、及び国内の患者が医薬品の安定的な供給を受けられることを確保するかという点については、その制度の有用性に疑問を持っている」と主張した。
また、厚労省の改革案では、「裁判所による判断を遅らせ、承認された、又は既に上市された製品が法的措置を受け、場合によっては市場から撤回される可能性があることから、市場における不確実性を生み出すリスクがある」と指摘。「このような“リスク付き”の後発医薬品の上市が増加した場合、特許権者が専門委員の判断に異議を唱えるために裁判所に訴えることになり、訴訟の数が増加するでしょう」、「特許権者は法的手段が制限されるおそれがあることから、機密情報の開示を求められるプロセスに協力する可能性は低い」などとも指摘した。このほか、運用面についての課題も列挙した。
そのうえで、「当協会は、後発医薬品またはバイオ後続品の申請が行われた時点で、かつ承認前に特許権者に通知する制度を構築するために、厚生労働省がすべての関係者と連携することを強く求める」と主張。「通知は、特許権者が特許侵害の可能性を評価して必要に応じて適切な法的措置を講じるために、十分な情報と時間を提供するものであるべき」として、後発品の申請時点で特許権者に通知がなされる必要性を強調している。また、「特許紛争が生じた場合、医薬品の安定供給確保のために厚生労働省は、その紛争が解決するまで後発品を薬価基準収載に掲載しない対応を取るべき」とも主張している。