トランプ大統領 AZ製品の薬価引下げ合意 直接交渉はファイザーに続き2社目 書簡送付17社の対応注目
公開日時 2025/10/14 04:53

米トランプ大統領は10月10日(現地時間)、アストラゼネカの製品について最恵国待遇価格(MFN価格)まで薬価を引下げることで同社と同意したと発表した。米政府と個別製薬企業の直接交渉で薬価引下げを合意したのは、ファイザーについで2社目。アストラゼネカは同日、トランプ大統領との合意について、米国内で実施する研究開発・製造拠点の整備等に500億ドルを投資する方針を発表した。これに伴い医薬品関税も3年間猶予される。トランプ大統領は7月末に主要製薬企業17社に書簡を送り、メディケイド向け薬価の引下げや割引価格での直接販売を要求していた。医薬品価格をめぐる議論は相互関税の政府間交渉の枠を超え、グローバルメガファーマと米政府が直接協議するステージに入ってきた。
米政府はアストラゼネカとの合意を受け、全州のメディケイドプログラムで「数億ドルの節約につながる」と強調した。コスト削減効果は、COPD治療に使用される配合吸入薬のBREZTRI AEROSPHERE(ビレーズトリエアロスフィア)は直接購入する患者に取引価格の98%相当の割引が適応されるほか、喘息症状や発作の治療に使用される配合吸入薬AIRSUPRAは、直接購入する患者に取引価格の96%に相当する割引価格で提供されるとした。
一方、アストラゼネカ側は、合意の具体的条件は「非公開」としながらも、定価から最大80%割引の直接消費者販売を提供すると公表した。また、ファイザーと同様に、「TrumpRx.gov」の直接購入プラットフォームに参加し、同社から割引価格で医薬品を購入できるようにする方針を明らかにした。
◎AZ パスカル・ソリオCEO 次世代新薬開発で「米国の先駆的な役割を守ることにつながる」

同社は、今後5年間で米国内の医薬品製造および研究開発に500億ドルを投資し、2030年までに総売上高800億ドルの達成に貢献すると強調。50%は米国で創出される見込みとした。パスカル・ソリオ最高経営責任者(CEO)はトランプ大統領と同席したメディアブリーフィングで、「新たなアプローチはイノベーションと次世代医薬品の開発における米国の先駆的な役割を守ることにもつながる。いまこそ他の裕福な国々がイノベーションへの資金提供を強化することが不可欠だ」とコメント。また、「バージニア州シャーロッツビルに新しい施設を建設しており、慢性疾患とオンコロジーのパイプラインを支える高度な医薬品原料を生産する予定で、バージニア州の施設では3600 人の雇用が創出される」と強調した。
◎トランプ大統領が製薬企業17社に送った書簡 製薬業界が経験した政府交渉とは全く異なるステージに
医薬品関税をめぐる議論は、グローバルメガファーマとトランプ大統領による直接交渉の様相が強まってきた。トランプ大統領は7月31日付で、主要製薬企業17社(アッヴィ、アムジェン、アストラゼネカ、ベーリンガー、ブリストルマイヤーズ、イーライリリー、EMD Serono、ジェネンテック、ギリアド、GSK、J&J、メルク、ノバルティス、ノボ、ファイザー、リジェネロン、サノフィ)に書簡を送っている。

トランプ大統領の書簡では、製薬企業17社に対し、①メディケイド患者一人ひとりに最恵国価格を提供する、②米国で提示されている価格よりも有利な価格で他の先進国に新薬を提供しないことを規定する、③先進国で入手可能な最高価格以下の価格で中間業者を介さずに患者に直接医薬品を販売する手段をメーカーに提供する、④海外での収益増加が米国の患者と納税者に対する価格引き下げに直接再投資されることを条件として、貿易政策を利用してメーカーによる国際的な価格引上げを支援する―の各事項を求めている
◎「対応拒否」の場合 あらゆる手段を講じると通知
一方で、「対応を拒否する」場合、米政府は「米国民を不当な薬価設定慣行の継続から守るため、あらゆる手段を講じる」とも通知している。
医薬品価格をめぐる議論は政府間交渉の枠を超え、いよいよ製薬企業1社ごとに直接協議する様相が強まってきた。トランプ大統領が書簡を送ったグローバル企業17社に日本の製薬企業は含まれていない。ファイザーに続いてアストラゼネカもトランプ大統領との協議を通じて薬価の引下げに応じ、米国内への追加投資を相次いで発表している。これまで製薬業界が経験した政府交渉とは全く異なるステージに入ったといっても過言ではない。