中外ベンチャーファンド 米ボストン開設後1年半で4件の契約締結 投資先の買収やIPOまでフォローも
公開日時 2025/06/16 04:52

中外ベンチャーファンド(CVF)プレジデントのジョン・ガストフソン氏は6月13日開催の「中外製薬オープンイノベーション説明会」で、2024年以降に528件の投資機会を評価し、中外製薬のR&Dを補完し得る4件の戦略的契約を締結したと明かした。具体的なポートフォリオは、①Leal Therapeutics社、②Hyku Biosciences、③UK拠点の企業(非公開)、④Stylus Medicine-の各社が有する創薬技術。ガストフソン氏は、「CVFを通じ、中外製薬のR&Dが世界中の最先端イノベーションに触れる機会が増加することになる」と強調。「今後も投資できるベストな補完的技術を探す。IPOまたは買収までをCVFがフォローアップしたい」と意欲を示した。
2024年1月に米マサチューセッツ州ボストンに設立したCVFは、中外製薬のR&Dに補完する新興バイオテック企業を発掘・評価して、パートナリングすることをミッションに掲げる。説明会でガストフソン氏は、「いまは未着手の領域でも、今後2~5年後に中外製薬の研究開発に資するものをみている」と強調。投資規模は2億米ドル。目標として、1年間で3社、1社あたり2000万米ドルの投資を目指していると明かした。なお、投資地域は主に米国で、欧州、日本も含む。戦略としては、初期段階のバイオテック企業への投資を想定しており、「前臨床を想定するが、その後の買収やIPOまでフォローアップしていく」とも強調した。
CVF設立から1年半の活動の成果に触れた。ガストフソン氏は、「世界で100社以上のベンチャーキャピタルと面談し、特に新興企業に目を向けて検討してきた」と指摘。「その間に528件の投資機会を得ることができ、その結果4件の契約締結に至った」と報告した。
◎Leal Therapeutics社 「ゲームチャンジャ―になり得る技術有する」
契約締結したLeal Therapeutics社は、ASO(アンチセンスオリゴヌクレオチド)を用いてアルツハイマー病など中枢神経系疾患対象の精密医療の開発に特化したバイオ企業で、ベースとなるテクノロジーとして、抗体とASOの結合でBBB(血液脳関門)を貫通するような技術を持っているという。ガストフソン氏は、「この技術を使うことで硬膜内に注射を行うことなく薬剤を届けることができる。まさにゲームチャンジャ―になる」と強調した。
◎Hyku Biosciences、Stylus Medicineに期待 非公開のUK拠点企業の技術にも注目
2社目のHyku Biosciencesは、病気の進行を促進するタンパク質を強力に不活化する新規使用機序を持つ低分子治療薬の開発に取り組む企業。ガストフソン氏は、「新たなターゲットに目を向けるもの」と説明した。もう1社のUK拠点の企業については、「非公開」としながらも、健康な細胞が空間技術(Spatial omics)を使ってどのように疾患細胞になるのかというところに目を向けている」とだけ明かした。4社目のStylus Medicineについては、「遺伝子療法の会社で、遺伝子治療が現在抱える安全性や毒性、そしてペイロードのサイズをより大きなものにして治療効果の精度をあげていくというものだ」と紹介した。
◎井川智之研究本部長 「ボストンでプレゼンス向上」自社技術で外部への情報発信も

中外製薬の井川智之研究本部長はこの日の説明会で、「我々はこれまで国内でオープンイノベーションを推進してきたので、米・ボストンエリアでのプレゼンスが十分ではない」との認識を披露。CVFの設立意義に触れながら、「ボストンでのプレゼンスが向上することによって世界中でイノベーションを起こしているアカデミア、スタートアップなどのトッププレーヤーが中外製薬とパートナーになりたいと言ってもらえる」と期待感を示し、「中外製薬が有している技術を更に磨き、外部に発信するような取り組みが求められている」と力を込めた。