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運転免許制度で日本てんかん学会や患者団体  特定病名の法令記載に反発の動き

公開日時 2013/02/20 04:00

2011年4月に栃木県鹿沼市で病歴を無申告で免許を取得していたてんかん患者がクレーン車操作中に発作を起こして6人が死亡した事故を受け、現在、運転免許制度や意識喪失を伴う疾患などによる罰則新設を検討していることしている法務省法制審議会刑事法(自動車運転に係る死傷事犯関係)部会(部会長:西田典之・学習院大学法学部法学科教授)に対し、日本てんかん学会などの関連医学系学会や患者団体が特定病名を法令に記載しないよう改めて求める動きが活発化している。背景には、対象と考えられている疾患や障害が多様性に富み、単純な疾患名の明記が患者差別につながりかねないという懸念があるためだ。


現在、同部会では、過度な飲酒状態での運転など悪質な運転により引き起こされた事故を念頭に平成13年の刑法改正で設けられ、立証困難なケースが相次いでいる「危険運転致死傷罪(刑法208条の2で規定:最高刑懲役20年)」と「自動車運転過失致死傷罪(最高刑・懲役7年)」の中間に位置する新たな罪を設ける方向で改正議論が進行している。1月16日に開催された同部会では事務局試案として、酒や薬物、病気の影響などで正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で運転し、死亡事故を起こした場合に15年以下の懲役、負傷事故を起こした場合に12年以下の懲役とする罪の新設を提案した。


現在、免許を与えることを保留できる疾患としては、運転道路交通法90条で「幻覚の症状を伴う精神病」「発作により意識障害又は運動障害をもたらす病気」「自動車等の安全な運転に支障を及ぼすおそれがある病気」としていずれも政令で定めるとしており、道路交通法施行令第33条では具体的に「統合失調症」「てんかん」「再発性の失神」「無自覚の低血糖症」「躁うつ病(躁病、うつ病を含む)」「重度の眠気の症状を呈する睡眠障害」などをあげている。今回の事務局試案でも対象疾患では同様のものが提示され、このまま改正が進む可能性が高いとされている。


◎日本てんかん学会は2月7日付で法制審部会長宛で要望書提出


これに対し日本てんかん学会(理事長:兼子直・医療法人清照会湊病院北東北てんかんセンター長、元弘前大学医学部長)は2月7日付で要望書を西田部会長あてに提出した。要望書ではてんかん患者の大半は、治療により運転適性を有する状態を維持しているとして、正常な運転に支障が生じるおそれがある状態の定義に関する医学的議論がないまま病名のみを挙げて刑罰の対象とすることは、てんかんを有する人がすべて危険であるような誤解を与えるとともに、不当な差別や偏見を助長しかねないとの懸念を表明。そのうえで改めて①法案に特定の病名を挙げない②自勤車運転過失致死傷罪と危険運転致死傷罪の中間類型に相当する悪質性に関する議論を深めること―を要望した。


また、今回の部会議論の基礎となった警察庁の「一定の病気等に係る運転免許制度の在り方に関する有識者検討会(座長:藤原靜雄・中央大学法科大学院教授)」が2012年10月に取りまとめた提言に対し、今年1月、特定の病名を上げることは差別助長につながるとの批判声明を出していた日本精神神経学会(理事長:武田雅俊・大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室教授)も2月4日付で西田部会長および部会委員宛の要望書を提出した。


同学会は「正常な運転に支障が生じるおそれ」について、てんかんの発作による意識障害(喪失)に至る場合では、発作の抑制状況、病態に対する本人の認識、服薬の有無などが刑罰適用での無責任性・危険性への認識の要件として議論されているにもかかわらず、統合失調症や躁うつ病では同様の議論が行われていないことを問題視。同時に統合失調症、噪うつ病では(1)急性精神病状態にあっても意識障害は認められず、てんかんその他の意識障害を伴う疾患と同列には考えられない(2)服薬状況についても病気の症状と相関しない(3)病気への認識についても精神疾患特有の病識の問題があり、無責任性の要件とすることはできない―というてんかんとの違いを指摘した。その上で今後の議論にあたっては精神医学、精神科医療の専門家に対するヒアリングを行い、その上で個々の状況を検討し、適用の可否を判断するべく十分な議論を行うよう求めた。


一方、現在の部会議論には患者団体からも要望書が提出されている。1月15日には社団法人・日本てんかん協会(会長:鶴井啓司)が新罰則で対象となる病気について「発作を伴う病気」と限定しないよう求める要望書を提出(既報)したほか、同協会をはじめとする61の障害(者)関係団体により構成されている特定非営利活動法人・日本障害者協議会(代表:勝又和夫)も2月8日付で要望書を部会に提出した。同協議会は要望書の中で、法律で特定の病名を記述することは一定の障害や疾病のある人が重大事故の前提となるかのように誤解を肋長する可能性があるとの関連団体の強い懸念に言及し、関係各団体などによる要望の尊重を求めている。


 

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