田辺三菱製薬は１月14日、上野裕明取締役常務執行役員が代表取締役社長に就くトップ人事を発表した。就任は４月１日付。三菱ケミカルホールディングス（HD）の完全子会社化に向けた手続きが進められるなか、新体制でスタートを切る。同日、大阪本社で会見に臨んだ上野取締役常務執行役員は、「持続的成長が可能なグローバルヘルスケア企業への変革を遂げていきたい」と強調した。三菱ケミカルＨＤが有する素材やデバイス、デジタルなどのテクノロジーと融合させ、「従来の治療中心のビジネスからその前後の未病、予後のケアまで、ビジネスの裾野を広げる」ことに意欲をみせた。上野取締役常務執行役員は、「グループ企業との協業があっても、医薬品、医療を中心とした企業であるということには変わりはない。しかし、それだけに止まるということではない」と述べ、グローバルヘルスケア産業へと変革する決意を示した。

◎「まさに正念場」　環境厳しさ増すも「だからこそチャンスもある」

「まさに正念場」―。上野取締役常務執行役員は現状をこう語った。田辺三菱製薬は、多発性硬化症治療薬・ジレニアの特許をめぐりノバルティスと係争中であることが影響し、2020年３月期見通しの連結純利益は86.6％減を見込む。中期経営計画を2018年11月に下方修正したが、「見直した数値をいかに実現するかが課題」となる。一方で、20年度は新たな中期経営計画のスタートにも当たる。「2030年をターゲットに、あるべき姿を掲げながら、我々がいかに変わっていかなければいけないかを明確にし、それに向けて新たな中期経営計画を立てていきたい。課題を解決しながらも、我々が目指す姿に変わっていくという２つを同時にやっていかなければならない」と話す。

国内市場は少子高齢化を背景に薬剤費抑制の圧力も強まっている。上野取締役常務執行役員は、「だからこそ、逆にチャンスもある。市場がシュリンク（縮小）するということだけでなく、いかに広げていくか。予防・未病から予後までどのように参画できるか」と述べた。高齢化が進展し、健康寿命の延伸が国家的課題となるなかで需要の高まる、未病・予防や治療後のケアなどの新規市場に足場を築く、攻めの姿勢を強調する。

◎素材、デバイス、デジタルとの組み合わせで価値が広がる

上野取締役常務執行役員は、ビジネス機会の拡大に向けたキーワードとして、①医薬品とテクノロジーの融合、②ビジネス裾野の拡大、③グローバル化―をあげる。

医薬品のモダリティが、従来の低分子から抗体医薬、さらには核酸医薬、遺伝子治療へと拡がりを見せるなかで、「様々なテクノロジーを駆使し、これまで薬のなかった疾病にまで手が届くようになった」との見解を表明。「素材やデバイス、デジタルという情報との組み合わせで価値が広がることが今まさに起こっている」との認識を示した。三菱ケミカルＨＤの傘下に入ることで、「グループ企業が持つ素材やデバイスと組み合わせることがよりやりやすくなるという期待がある」と述べた。医薬品と、素材や人工関節などの技術とを組み合わせることで、投薬の簡便化や、これまで投与できなかった部位への投与、さらにはデジタルメディスンの実現にも期待をよせる。すでに、三菱ケミカルＨＤ各社とは議論に着手しており、早期の具体化に意欲を示す。

◎グローバル化に注力

もう一つ、重視するのが、グローバル化だ。ALS治療薬・ラジカヴァについて米国で自販体制を構築するなど取り組みを進めており、まずは米国を中心に既存事業の最大化を目指す。さらに三菱ケミカルＨＤとのシナジーで、中国をはじめとしたアジアや欧州などに、「製品、領域を組み合わせてどのような展開をするか考えていきたい」と述べた。

現代表取締役社長の三津家正之氏は４月１日付で、取締役に就く。三津家社長は、「医薬事業の方向性は明日のことを考えてばかりではいけない。５年先、10年先の姿からバックキャストし、打ち手を考えていかないといけないという時代に入っている」との見解を示した。創薬をはじめ、社内外のネットワークを通じたオープンイノベーションの重要性が増すなかで、後継者を選んだと語った。

上野裕明氏は、1958年（昭和33年）９月８日生まれの61歳。1983年東京工業大学大学院理工学研究科修了、同年４月に三菱化成工業（現・三菱ケミカル）に入社。田辺三菱製薬のCMC本部長、創薬本部長を歴任し、2019年から取締役常務執行役員。