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【FOCUS 製薬企業のビジネスモデルに変化の兆し MRの生産性向上は不可避に】

公開日時 2020/07/01 04:52
製薬企業のビジネスモデルに変化の兆し―。ミクス編集部は製薬各社の業績分析を行った。内資系企業を支える主力品の国内売上をみると、20年前の生活習慣病薬全盛期に競い合うように誕生した1000億円超のブロックバスターはもはや姿を消し、逆に500億円超、300億円超の中型品を複数持ちながらロングスパンで成長を目指す収益モデルが主流となってきた。一方で収益源を海外に求め、テクノロジー企業との協働を模索する動きも活発化している。こうした状況から国内収益モデルは量から質への転換が進み、自社MRについては、過去の「施設数×コール数=SOV」から、製品規模に見合う生産性向上型への転換が図られている。引き続きMR数の最適化が継続されることが示唆された。(Monthlyミクス編集長 沼田佳之)

国内の医療用医薬品の売上ランキング(ミクス編集部調べ。ミクス7月号掲載)によると、トップがキイトルーダ(MSD)の1284億円、2位がリリカ(ファイザー)の1015億円で、1000億円超の製品はこの2品目のみとなった。なお、3位はアバスチン(中外製薬)の956億円と、ここまでは外資系企業が上位に名を連ねる。4位にはオプジーボ(小野薬品)の873億円、5位にリクシアナ(第一三共)の830億円と続くものの、トップ売上のうち500億円超の製品は17品目で、うち内資系企業は6社(武田薬品、第一三共は2製品)に限られていることも分かった。

◎直近5年間の製品売上の変化 各社主力品のシフトが顕著に

内資系企業の収益構造の変化を見る目的で、2019年度と14年度の製品別構成と売上高を比較した。武田薬品は14年度業績で500億円超の製品が3品目あったのに対し、19年度は2品目に減らした。ただ、シャイアーとの統合を経て、100億円超の製品売上は改善しており、国内業績に早くもアライアンス効果が出た格好だ。一方、アステラス製薬は14年度業績で500億円超の製品が1品目(ミカルディスファミリー)あったものの、19年度は500億円超のカテゴリーが無くなった。逆に100億円超の全製品売上を加えてみても14年度業績を下回っていた。エーザイは14年度のトップ売上を稼ぎ出したアリセプトから、19年度はヒュミラに譲ったものの、こちらも100億円超の全製品売上でみると14年度業績を下回った。

第一三共だけは唯一、14年度業績における500億円超製品2品目を19年度は3品目に拡大。さらに100億円超の全製品売上高も14年度を大きく上回る業績を確保していた。

◎MR数 20年前は「施設数×コール数」 現在は製品に応じた生産性を重視

このように製薬企業の収益を支える製品売上高はここ数年で大きく変化している。この背景には生活習慣病薬に代表されるブロックバスターの相次ぐ特記切れや、政府主導の後発品使用促進策によるマーケット変化、さらには2016年度以降、断続的に行われている薬価制度抜本改革など外的要因に伴う環境変化によるところが大きい。さらに、革新的新薬の立ち位置もプライマリケア領域から、難治がん、中枢神経、希少疾病などスペシャリティ領域にシフトし、市場規模もマスからニッチへと移り変わっていることも無視できない。

製薬企業の収益構造改革は、この5年足らずで大きく動きだした。シリコンバレーを中心にIT技術が普及し、AI(人工知能)やビッグデータを活用したデジタルトランスフォーメーション(DX)による生産性向上が企業にとっての命題となってきた。人材面でも、働き方改革を主眼とする社内人事制度の見直しも急ピッチで進んでおり、アジャイルな組織、筋肉質な体制などと呼ばれる社内構造改革が進んでいる。

MRの生産性も同様だ。今回の新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う在宅勤務や外勤自粛は、こうした構造改革の波をより高めたと言える。MR数については各社とも削減の方向性を打ち出している。ここにきて注目されるのは、製薬各社の収益モデルの見直しに伴い、MRの人員体制や組織作りに関する概念が変わったことだ。いまから20年前の営業体制は、「施設数×コール数」でMRの採用人数を決めていた。全国10万件の開業医、8500件の病院にMRを配置し、毎日コール数をあげることで製品売上を伸ばす戦術が用いられた。ところが、先述したように主力品の立ち位置がニッチかつスペシャリティ領域に変わり、訪問する医療機関や専門医の数も限られていることから、人数よりも質を重視する方向に舵を切っている。また、MR数については、製品のポテンシャルを最大化するためには、生産性を維持向上させるのに必要なMRを置けばよいとの判断に変わった。例えば、500億円超の製品を最大化するには、MR一人当たり2億円を稼げる体制を確保すればよいとの経営判断ができる。であればMR数は250人で十分ということになる。あくまで単純計算だが、これを複数製品でシミュレーションすると、製薬各社ごとに最適なMR数を弾くことができるという訳だ。加えてデジタル技術や、最近流行りのリモート面談などでMRが顧客にチャネル型アプローチできると、MR数の効率化はさらに加速することになるだろう。

製薬企業にとって、コスト構造改革は待ったなしの状況にある。すでに、生産性向上で生み出されたリソースを創薬技術獲得のためのアライアンスやヘルスケア分野進出の投資に充当するという発想も強まってきた。国の薬剤費抑制策は緩むことは無い。16年移以降の薬価制度抜本改革で政府が製薬産業に突き付けたキーワードは「産業構造改革」である。であるならば、製薬各社も医薬品を主軸にしたヘルスケア業界への進出を模索する動きは今後もさらに活発化するだろう。保険・損保業界や自動車・家電・エレクトロニクスなど他産業との協業、アカデミアやベンチャー、投資家を巻き込んだオープンイノベーションへの投資は避けられそうにない。

※本内容の詳細なデータおよび分析についてはMonthlyミクス7月号を参照ください。また、ミクスOnlineからデータのダウンロードが可能です。DLファイルはこちら
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