鈴木前医務技監 「アウトカムベース」の支払方式を提案 岡本前財務次官「データで客観的チェックを」
公開日時 2021/06/10 04:51
第4回ヘルスケア・イノベーションフォーラム(日本イーライリリー、PhRMA共催)が6月9日、オンラインで開催された。医療提供者側のシステム・イノベーションを論じた前厚労省医務技監で国際医療福祉大学副学長の鈴木康裕氏は、現行の医療行為ごとに定めた診療報酬の支払方式を「アウトカムベース」の評価に見直す考えを提案。これに前財務省事務次官で日本生命保険相互会社特別顧問の岡本薫明氏は、「フリーアクセス、自由開業制、そして出来高払いに慣れたシステムの中で、トータルで要する医療費がやってみないと分からないということが一つの問題だった」と賛同した。岡本氏は、データに基づいて客観的にチェックできるシステムをしっかり構築することが医療保険全体の将来の安定性につながると強調した。
◎「運動指導や栄養指導、薬剤で治療しても良い。ただし結果は補償する」
この日のフォーラムは、「医療保険制度の持続可能性とイノベーションの果たす役割」をテーマにディスカッションが行われた。鈴木氏は、「保険制度のサスティナビリティを確保するためにはイノベーションが絶対に必要だ」と強調。腕時計型ウェアラブルデバイスによる患者データのモニタリング(PHR)や、患者の行動変容につながる治療アプリの開発、さらには疾病予防や未病を取り入れた民間保険商品の開発などに新しいテクノロジーが応用され、それら実践によって、医療者側の働き方や様々なシステムの変革などに寄与していることを紹介した。
その上で、医療提供者側のシステム・イノベーションに触れた鈴木氏は、「基本的な医療機関の支払いは行為ごとだ。例えば診療して処方せんを1回書いて幾ら支払うという形」と紹介しながら、これを「一定期間後に血糖値をこれくらい(の水準)まで保つといったアウトカムベースの支払い方式とする。その間(医師や医療従事者)は、例えば運動指導や栄養指導、薬剤で治療しても良い。ただし結果は補償する」と述べ、「こういう形でプロバイダーに対しインセンティブを与えるイノベーションも必要だ」との考え方を披露した。
◎岡本前財務次官「エビデンスベースのシステム移行は非常に重要なこと」
前財務次官の岡本氏は、「エビデンスベースのシステムに移行することは非常に重要なことだと思っている」と応じた。さらに「鈴木氏の指摘にあったように、政府に加えて、保険者の役割も重要になってくる。その時データに基づき地域差がどこにあるのか、どこにコストがかかっているのか、こういったことをチェックすることが必要だ」と強調。「医療分野でのマイナンバーカードの活用や、電子カルテ、オンライン診療の議論がようやく進み始めた中で、医療システム全体がより効率的な形になるよう、データに基づいて客観的にチェックできるシステムをしっかり構築することが制度全体の安定性につながる非常に重要な点だと思っている」と述べた。
◎日本糖尿病学会・植木理事長「統一規格でデータ集積できる電子カルテの整備を」
オンラインから参加した日本糖尿病学会の植木浩二郎理事長は、「PHRとEHRがシームレスに連結して、医療者側は患者の情報を得て適切にアドバイスする、あるいは患者が検査データにいつでもアクセスでき、患者自身がその意味を知ることで行動変容を起こすことが非常に重要だと思う」と述べた。ただ一方で、電子カルテの標準化やPHRの標準規格が未整備となっていることを指摘し、「政府の役割として、処方データや検査データを統一した規格でデータ集積できる電子カルテを構築して欲しい」と政府側に強く要請した。
◎PhRMA・リックス会長「(デジタル)投資、システムの効率性は重要だ」
米国研究製薬工業協会(PhRMA)のデイビッド・A・リックス会長は、「こうした投資、システムの効率性は重要だ」とこれまでの議論に理解を示しながらも、「その中で医薬品のみがヘルスケア全体の中で価格が下落する唯一のものとなっている」と指摘した。一方でデジタルソリューションに対して製薬産業も高い期待感があるとの認識を示し、「AIで日々のデータを収集・解析できれば、病気の予兆を発見できる。患者がいつどの量の医薬品を服用するかも判断できるようになるのではないか。より良いアウトカムにつながるだろう」とも見通した。その上でリックス会長は、「デジタル治療は規制環境も整ってきたが、どんな価格設定になるのかが明確ではない。デジタルがシステムにどうつながるかで価値が決まる。どう使うべきか。報酬制度を考える時ではないか」と述べ、政府側に注文をつけた。
これに対し鈴木氏は、「ノン・ファーマシューティカル・インターベンションというプログラム医療機器、禁煙アプリなどもこれから増えてくる。その時にどのような基準で承認するか、価格設定するかのシグナルを早めに業界に送ってあげないといけない」と応じた。