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小野薬品 三重大学医学部奨学寄附金問題で調査報告書公開 贈賄事案の全容明らかに 社長・関係役員等を処分

公開日時 2021/08/06 21:30
小野薬品は8月6日、三重大学病院をめぐる贈収賄事件で同社社員2人が有罪判決を受けた問題で、外部弁護士による調査委員会報告書と今後の対応を公表した。贈収賄事件のきっかけとなった奨学寄附金については、2021年度は中止を決定。22年度以降は「これまでと異なる研究助成方法を検討する」とした。学会への寄付・一般寄付は継続するが、公平性や独立性を高めた寄付業務の運営を行う。このほか社長への処分として月額報酬30%・3か月間自主返納するほか、関係専務執行役員の執行役員への降格、事件関係者も社内規定に基づく処分を行った。

同事件は、三重大学病院の臨床麻酔部の元教授に薬剤を多数発注してもらう見返りに現金200万円を提供したとして、小野薬品の社員2人が贈賄罪に問われた。津地方裁判所は6月29日に、いずれも懲役8月、執行猶予3年の有罪判決を言い渡した。

◎「三重大学医学部奨学寄附金問題に関する外部調査委員会」報告書


同社は、今年1月に贈賄罪で社員2人が三重県津地方検察庁に逮捕されたことから、翌2月に外部弁護士3人による調査委員会を立ち上げ、事実関係の調査、原因の究明などに取り組んできた。この日公開されたのは「三重大学医学部奨学寄附金問題に関する外部調査委員会報告書」(公開版)と題するもので、総ページ数は49頁に及ぶ。

◎調査で判明した贈賄事実

外部調査委員会報告書では、「調査によって判明した本件贈賄事実の概要」をまとめている。それによると三重大学病院を担当していたD課長は、2017年12月ごろにA教授(当時准教授)から「4月には自分が教授に昇進することが確定的であること、研究費が不足している」ことなどを聞かされる。加えてA教授から「自分はオノアクトに注目しており、その販売増加に資する意欲がある」ことが伝えられる。さらに、国立循環器病センター時代の後輩医師を研究のために三重大学に呼び寄せる予定だが、研究費が足りないなどと言われ、奨学寄附金の要望を受けるようになった。

◎「これはビジネスチャンスである」

D課長は、「これはビジネスチャンスである」として、三重営業所のF所長と中部営業部のC部長に「奨学寄附金を拠出すればオノアクトの販売実績が上がる見込みがある」と伝えている。ただ、この時点でC部長は、奨学寄附金の年度(2017年度)の枠がすでに埋まっているため、この要望に対して無理であると難色を示していた。同社の場合、プライマリー部門の奨学寄附金には本社枠と支店枠があり、拠出先の規模り込みはすでに完了していたのだ。

ところが17年12月末に本社で開催された全国営業部長会議で、「本社の寄付金枠が余っている」との指示が各営業部部長に出される。この指示を聞いたC部長は、三重大学医学部への寄付金拠出も可能ではないかと考え、決済ルートにあるプライマリー製品企画部のE部長とも相談の上で、レポートの作成に動きだす。C部長は、このレポートを出すことで、「三重大学医学部への奨学寄附金の拠出が小野薬品の会社全体の売上に貢献すると見込める具体的な事情や拠出の必要性を訴えることが必要だ」と判断したとしている。レポートの作成の実務はD課長に指示した。

◎「A先生から条件次第ではOAを全国大学1位にしてあげると・・・」


レポートの作成過程のやり取りが報告書に残されている。レポートの初案には、「A先生から条件次第ではOAを全国大学1位にしてあげると言って頂いています」との文言もある。また、この時点で、「4月から新たに医局体制を組むにあたり、奨学寄附(200万円)をしてほしい、と懇願されています。A先生からは、“私は必ず結果を出す男です”との言葉を得ており・・・」などの記述もあった。

C部長はこれを確認した上で、D課長に、本社の納得を得やすいものにしようと考え、レポートの修正を指示。初案の内容に加えて、市場規模(月間)、全麻酔件数、現在の実績などを追記する。この内容で本社との内諾の取り付けに向けたやり取りが行われた。この段階で、Aが教授になることは確実であることや、重要な案件としてスピード感をもった対応が良いだろうという内容のメールが送信されている。

一方で、D課長は三重大学病院においてオノアクトの処方がどの程度可能なのかを具体的に計算する「症例積み上げ表」の作成にも取り組んでいた。例えば、心臓手術1症例において、術中と術後にオノアクトを使用したら、処方数が何バイアルとなるか、同手術が何件見込めるかなど、症例ごとに、処方数と症例数を積算して算出されたオノアクトのバイアル数などが記載されている。

◎「メール見てもらいましたか」、「いいよ、あれで通して」


外部調査委員会報告書では、こうした一連の作業過程について、「三重大学医学部への拠出を危ぶむ指摘もこれを制止するような動きはなく、むしろC部長、D課長らにおいては順調に拠出に向けた話が進んでいるとの認識であった」と指摘している。報告書では、奨学寄附金の拠出が事実上決まる場面について、C部長は、E部長に口頭で「メール見てもらいましたか」とたずねたのに対し、「いいよ、あれで通して」との回答を得たという内容を報告しており、この言葉をもってC部長は「本社の了解が得られたものと理解した」との認識を報告書に記述している。

なお、E部長の供述について報告書では、「一貫して本件についてC部長から本社の予算余剰枠からの奨学寄附金拠出の候補になり得るかどいうかの相談を受けた記憶はなく、ましてや奨学寄附金拠出を了解した記憶もない旨述べている」と記述した。

調査委員会は、「当時、多数のメールを受信していたE部長が個々のメールの内容まで確認していなかった可能性もなくもない」と指摘している。ただ、C部長からE部長を宛名の筆頭とするメールが送信され、E部長の部下が返信している事実や、E部長らの事前承認を経たことを前提に中部営業部が行動している状況からすれば、「当該メールを確認したか否かにかかわらず、拠出を了承していたことは疑う余地はない」と結論づけている。

◎A教授 症例積み上げ表をメールに添付 「ICU症例でぶん回したい」


奨学寄附金がオノアクトの売上に及ぼした影響についても触れている。A教授が18年3月22日に臨床麻酔部のスタッフに送ったメールが残されている。メールでは、「小野薬品が200万円をいれてくれることになった」や、「なんとか小野にはうちの主力になってもらいたいので、オノアクト使用量全国トップを目指したい」-など。D課長の作成した「症例積み上げ表」もメールに添付し、「・・・ICU症例でぶん回したい」や、「以上は公には話しづらいんで。とにかく研究でのし上がりたいので、背景を理解してうまくやってくれ(原文ママ)」などと記載されていた。

報告書では、「このことから、本件の奨学寄附金拠出の見返りとして、A教授やB准教授らが不正手段を使ってまでオノアクトの売上増に協力し、その結果、三重大学医学部におけるオノアクトの処方量及び売上金額の増大につながっていったことが見て取れる」と強調している。

◎B准教授 使用するしないに関わらず50mgバイアルのオノアクトを溶解 そして廃棄

なお、B准教授は、18年4月頃から、自らが担当する手術以外の手術において、使用するしないにかかわらず、50mgバイアルのオノアクトを溶解して準備をするような工作を行っていた。さらに10月頃には150mgバイアルについても溶解して準備するなど、「その多くが廃棄される事態になっていた」という。なお、この事実については、D課長もC部長も全く認識していなかったと述べている。

◎売上増加を見込んで寄付金提供に動いた彼らの行為が正当化されるものでない

外部調査委員会は一連の事件についての問題点をまとめている。「A教授の不正行為がなければ事件も発覚せず彼らは罪に問われることもなかった。ある面で彼らはA教授らの暴走に巻き込まれた犠牲者という面もないではない」と指摘。ただし、「A教授から執拗に奨学寄附金の要請があったとしても、売上増加を見込んで寄付金提供に動いた彼らの行為が正当化されるものでない」と断じた。

一方、小野薬品のMRについては、「取引誘引のための奨学寄附金の提供が禁止されていることは一定程度周知されている」としながらも、「どのようなやり取りがあれば取引誘引にあたるのか、さらに進んで、それが刑法上にいう請託があったことになるのかどうか、判断がつきかねる者は少なくない」とした。

◎MRにとってグレーゾーンの中で起きた事件

社内ヒアリングにおいては、「目標金額を出して奨学寄附金の申し込みをするレポートは直ちに撤回させるべきであった」と断じる者がいた一方で、「第3者供賄というような犯罪行為に該当するとは思いもよらず、むしろ通常の、MR活動だと思ってレポートを作成した者もいる」とし、その意味では、「本件はMRにとってはまさにグレーゾーンの中で起きた事件であるといっても過言ではない」と指摘した。調査委員会は「この事件は奨学寄附金と取引誘引との微妙な関係にある小野薬品だけで解決すべき問題ではなく、業界全体として検討すべき課題でもあることを浮き彫りにした事件であろう」と強調している。

◎奨学寄附金制度の適切な運用方針の提言


何より優先すべきは、「これであれば取引誘引にあたらない」という明確な基準のない中で、従来同様に大学に営業活動を行うMRの負担の解消を考えるべきと強調した。その上で、小野薬品が自ら拠出するという構図をなくさない限り、抜本的な解決策を見いだすのは困難であると指摘している。また小野薬品に対し、寄付は「見返りを求めない無償の行為である」という原点に立ち返って、今後の奨学寄附金のあり様を考えるべきであると提言した。

一方で、委員会の見解として、「自ら医学・薬学分野の学術研究の助成等を目的とする財団を設立し、当該財団に奨学寄附金の拠出に関する業務の一切を完全に委ねるやり方が望ましいのではないか」と提案した。





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