【MixOnline】パンくずリスト
【MixOnline】記事詳細

塩野義製薬・手代木社長 新型コロナ経口薬候補のプロファイルに自信 感染症のビジネスモデル構築の「きっかけに」

公開日時 2021/09/30 05:00
塩野義製薬の手代木功代表取締役社長は9月29日記者会見し、国内フェーズ2/3を開始した経口の新型コロナ治療薬候補について、動物実験の結果などから抗ウイルス効果に自信をみせた。国内を最優先に開発を進める考えを示し、年内申請に意欲をみせた。新型コロナの経口薬はグローバルメガファーマなど数社しか開発の後期ステージに進んでいない状況にある。手代木社長は、感染症、特に新型コロナをはじめとした急性感染症のビジネスモデルの特殊性に言及。国の買い上げや備蓄など、新たな枠組みを作る必要性を強調。「ビジネスモデルを作るという、今回のことが一つのきっかけになれば」と熱く語った。

◎自宅・ホテル療養患者の多いなかで経口薬は「ジグソーパズル最後の1ピース」

手代木社長は、無症候や軽症患者の多く、医療提供体制もひっ迫する国内の状況を踏まえ、経口治療薬の重要性を強調した。現在のところ、軽症を含む患者に投与できる抗体カクテル療法などは注射剤で、医療従事者の負担も大きく、すべての患者に用いるのが難しい。さらに、抗体医薬であることから、コストもかかる。このため、新型コロナをインフルエンザ同様の認識にするためにも、「経済的、簡便に安心して飲める経口薬はジグソーパズルの最後の1ピースと我々は考えている。皆さんの安心感が格段に増すのではないか」と述べ、経口薬の研究開発に注力してきた理由を語った。

◎無症候・軽症患者2100例を対象「国内最優先で開発」

同社が開発を進める経口治療薬候補「S-217622」は、3CL-プロテアーゼを阻害するプロテアーゼ阻害薬。3CL-プロテアーゼは、コロナウイルスに多く存在する一方で、活性中心となるアミノ酸はヒトとの相同性が低いため、副作用など安全性への懸念が低いと考えられている。さらにスパイクタンパク(Sタンパク質)と比べ、薬剤による変異ではない自然変異が入りづらいという特徴もある。このため、新たな変異などに対応できると考え、創薬ターゲットとして選定した。実際、試験管内(in vitro)では、δ株など幅広い株に対する活性を示しており、「現在考えられている変異株に対して問題なく効くだろうと考えている」(手代木社長)と説明した。

9月27日から国内で臨床第2/3相試験を開始し、28日には最初の患者への投与を行ったという。対象は、無症候あるいは軽症の新型コロナ患者約2100例。地方自治体のサポートを受け、自宅療養やホテル療養中の患者も登録する。①高用量群1日1回、5日間、②低用量群1日1回5日間、③プラセボ群1日1回5日間-の3群に分け、治療効果を比較する。主要評価項目フェーズ2a試験では、ウイルス力価のベースラインからの変化量、フェーズ2b/3試験では、軽症では症状回復までの時間、無症候では症状発症割合を据える。手代木社長は、「国内を最優先に開発を進める」と強調。年内にも申請する考えを示した。

グローバルの開発計画については、日本と比べ重症化率や死亡率が高いなど状況が大きく異なることを指摘した。そのうえで、10月半ばから末までを目途に得る約70例の抗ウイルス効果を踏まえ、米FDAなど各国の規制当局と協議を行い、EUAの取得も視野に入れ、重症化や死亡を指標に据えたグローバルフェーズ3を実施する考えを示した。

無症候や軽症患者では自然寛解するケースが多く、臨床試験で有意差を示すことが難しいことも想定される。実際、軽症患者の7割が、自然に症状が消失するとのデータもあり、無症候ではさらにこの傾向が強くなるとみられる。手代木社長は、「軽症できちっと効いているということと、無症候の人では症状が出るか出ないかも重要なことだと思っている」との考えを表明。フェーズ2/3に登録される無症候患者は「500例前後ではないか」と見通し、「トータルで見たときに無症候と軽症の方をあわせたときに、安全面で問題がなければ無症候の方にもお使いいただけると考えている」と述べた。

◎「少なくとも動物実験レベルでは、抗ウイルス効果は同等か、それ以上」

軽症患者を対象とした経口治療薬としては、ファイザーが同様にプロテアーゼ阻害薬の開発を進めるほか、メルクやロシュがポリメラーゼ阻害薬の開発を進める。同社が開発を進めるS-217622は1日1回で、単剤で投与する。ファイザーが開発を進めるプロテアーゼ阻害薬は抗ウイルス薬・リトナビルとの併用下で、1日2回投与するなどの違いがある。

手代木社長は、マウスを用いた動物実験では、感染48~72時間で用量依存的なウイルス減少効果を示し、投与3日目以降で重症化の抑制が期待できるとのデータが示されていることを説明した。このデータを引き合いに、「少なくとも動物実験レベルでは、ウイルスの下がり方は、先行しているものと同等か、それ以上だと思っている」との考えを表明。「即効性の観点からも差別化できるかもしれない」と期待感を示した。

◎国内生産に意欲 中間体以降は国内で合成も 今年度末に100万人分の生産も


国内生産にも意欲を示し、「中間体以降は日本国内で合成できる状態にしている」と説明。「数百万人分は国内で必ずいつでも作れるという状態にもっていく」と述べた。また、低用量での上市を念頭に、今年度末に少なくとも100万人分の生産体制を整える考えも示した。

◎感染症ビジネス構築へ 国の買い上げや備蓄など新たな枠組みを

新型コロナの経口治療薬の開発をめぐっては、臨床開発の後期ステージに入っているのはファイザー、ロシュ、メルクとグローバルメガファーマと塩野義製薬だけだ。新薬開発の流れが、生活習慣病から希少疾患やがんなどへと移り、創薬の中心も低分子から抗体医薬、さらに再生医療や核酸医薬へと変化するなかで、「低分子をやっている企業がこれほど少なくなっているのかというのを実感されている」と述べた。一方で、「(新型コロナの開発に)会社の資源の8割を入れている。永久には続けられない」と説明。「時限立法だと思っている」とも述べた。「一つのメルクマルとして12月から1月までに治療薬とワクチンにどれくらいの目途を立てられるのか。とにかくよい製品を世の中に送り出すということをしたい」と続けた。

そのうえで、感染症ビジネスの特殊性について言及した。インフルエンザの患者が発生しなかったことで、同社のゾフルーザの売り上げは「ゼロ」と説明。株主からの声を引き合いに、「感染症のビジネスを会社として続けられるのかということについては大きな疑問がついている」と述べた。同社は、抗HIV薬が売上を支えるが、「我々として感染症全体としてのコミットメントをする。ストレートに言って、HIVがなければ、これはやれない」と述べた。

そのうえで、HIVのような慢性感染症だけでなく、新型コロナや、インフルエンザのような急性感染症でも対価が得られるビジネスモデルの構築を急ぐ必要性を強調した。「急性感染症で成り立つモデルをいま作らないと誰もやらなくなる」と述べた。急性感染症は治癒して患者がいなくなれば利益があがらなくなるビジネスモデルであることから、急性感染症に取り組むベンチャーがないと指摘。有事だけでなく、平時から国による買い上げや備蓄、OECD諸国が新興国に提供する枠組みを構築するなどの新たなスキームを構築することの必要性を強調した。こうした新たな枠組みがなければ、「ビジネスモデルとしてのらない」と指摘。「ビジネスモデルを作るという、今回のことが一つのきっかけになれば」と熱く語った。


プリントCSS用

 

【MixOnline】コンテンツ注意書き
【MixOnline】関連ファイル
関連ファイル

関連するファイルはありません。

【MixOnline】キーワードバナー
【MixOnline】記事評価

この記事はいかがでしたか?

読者レビュー(12)

1 2 3 4 5
悪い   良い
プリント用ロゴ
【MixOnline】誘導記事

一緒に読みたい関連トピックス

記事はありません。
ボタン追加
バナー

広告

バナー(バーター枠)

広告

【MixOnline】アクセスランキングバナー
【MixOnline】ダウンロードランキングバナー
記事評価ランキングバナー