塩野義製薬と島津製作所が合弁会社 新型コロナを早期検知「下水モニタリング」の社会実装にアクセル
公開日時 2022/02/09 04:52
塩野義製薬と島津製作所は2月8日、下水を分析し、新型コロナを早期に検知し、流行を予測することで、感染症対策に役立てることを目的とした合弁会社「AdvanSentinel」を設立したと発表した。感染症領域に強みを有する塩野義製薬と、検査装置をはじめとした実装化に強みを有する島津製作所がタッグを組む。両社はそれぞれ研究を進めてきたが、アカデミアを含めて“産官学オールジャパン体制”を構築。合弁会社の設立で事業化することで、研究を加速化させ、社会実装への道のりをぐっと近づけたい考えだ。
事業化を目指すのは、“下水モニタリング”という新たな技術だ。施設のマンホールや下水処理場などで採取した下水をサンプルとして分析し、集団としてのリスクを計測する。個人が特定されないことに加え、新型コロナでは発症前から糞便に排出されるとのデータもあり、発症前や無症状時からの早期から、検出が可能になる可能性があることが特徴のひとつだ。流行予測に基づき、一手早い感染症対策を講じることで、クラスターの発生を防止するなども期待される。感染収束の見極めが行える可能性もある。
◎社会的インフラとして確立見据える 「デファクト・スタンダードに」
欧州では、都市の下水中の新型コロナを定期的にモニタリングすることで、流行状況の早期検知や収束判断などに活用している。日本では、東京オリンピック・パラリンピックの選手村では、新型コロナ感染対策の一環として、塩野義製薬が北海道大、大阪大、東京大がコラボして下水モニタリングを実施するなど、実証が行われている段階にある。両社はこれまで、アカデミアとコラボしてそれぞれ研究を進めており、培ったアカデミアや関連省庁とのネットワークや、疫学調査における国内トップの実績を有している。両社がタッグを組むことで、国内の英知を結集し、モニタリング精度の向上など研究が加速することが期待される。
合弁会社ではまずは、新型コロナの技術確立に注力。その後、社会インフラとして確立していきたい考えだ。同日開いた会見で、塩野義製薬の手代木功代表取締役社長は、「デファクト・スタンダードとしてこの国に定着させる」と意気込んだ。
◎島津製作所・上田社長「社会インフラとなれば、日本の感染対策は変わるのでは」
島津製作所の上田輝久代表取締役社長は、「ウイルスを解析することについての開発力は塩野義が秀でている。原理を装置にして社会実装していくというのは我々に経験がある」と両社の強みを強調。「塩野義製薬との協働で、社会インフラの一つとしてモニタリングができるようになると、日本の感染対策は変わってくるのではないか」と期待感を示した。
両社は昨年6月に業務提携を結んでいたが、「基本的には共同開発や共同研究では論文などの成果がアウトプット。価値が高いことをやれば、収益はついてくる。我々としては、装置が一つの収益源になっていく。それを解析してデータとして生かすところに塩野義さんの強みを生かせる。事業にするのは合弁会社の意味、単なるコラボに終わらない」と述べた。
◎塩野義・手代木社長「バリューチェーンをつなげ、社会に貢献する非常に大きな一歩」
「60年以上にわたり、感染症薬を中心にビジネスをしてきた。新型コロナは、感染症に対する取り組み方を変えた。私どもも新たな取り組みがどうしても必要だと考えるに至り、島津製作所とのジョイントベンチャーを作る運びになった」-。会見の冒頭で、塩野義製薬の手代木功代表取締役社長はこう話した。新型コロナを克服するうえで、「診断も予測も必要だ。トータルで扱わないと、次回以降のパンデミックにも対応できないのではないか」と話した。2030年に向けたビジョンとして、「ヘルスケアサービスとしての価値提供(HaaS)」を掲げる同社。新型コロナについても、流行予測、予防ワクチン、迅速診断、治療、重症抑制と、トータルケアが必要との考えだ。
手代木社長は、「バリューチェーンがつながらないとダメだということを今回のパンデミックが教えてくれた。入口の流行予測を島津製作所とご一緒いただくということは、バリューチェーンがつながることで社会に貢献できる非常に大きな一歩だ」と語った。
◎「下水モニタリング技術で人と町を守りたい」
なお、合弁会社の資本金は2億円。塩野義製薬株式会社50%、株式会社島津製作所50%で出資。今年1月に設立した。塩野義製薬の本社内に本社を置く。古賀正敏代表取締役社長は、「下水モニタリング技術で人と町を守りたい」と表明。サービスの提供先については、「介護施設や病院、寮などの個別施設に加え、スマートシティや大型イベント会場も想定している」と説明した。2~3年を目途に、年10億円の事業規模に育てたい考え。今後は、新型コロナを皮切りに、インフルエンザウイルスやノロウイルス、代謝性疾患などにも適用を拡大することにも意欲をみせた。