AZ・ヴォックスストラム社長 医薬品を超えた患者支援の道探る 日本市場は「ステイポジティブ!」
公開日時 2022/05/18 04:52
アストラゼネカのステファン・ヴォックスストラム代表取締役社長は5月17日、業績記者発表会に臨み、「日本においてナンバーワンになるだけではなく、ベストになっていく。そのためには、日本のヘルスケアの未来に貢献していく必要がある」と述べた。具体的には、「医薬品を超えて、患者さんを支援する道を探っている」と表明した。同社は、オープン・イノベーションハブ「i2.JP」を通じて、IT企業や薬局などとのパートナーシップを通じた取り組みに注力しており、成果も出始めている。あわせて、製薬企業として日本社会に貢献する重要性を強調。「自分たちの社員も薬だけに捉われるのではなく、日本の社会を忘れることがないように、マインドセットしようとしている」とも述べた。
◎国内売上高12.1%増で3位を奪取 「好調な業績。今年もこの勢いが続く」
同社の同社は2021年(1~12月)通期の国内売上高は、IQVIAデータ(販促会社ベース)によると、対前年比12.1%増の4198億5800万円。国内3位となった。22年第1四半期(1~3月)も、市場成長率は16.1%で、市場全体の伸びを超えた成長を遂げた。ヴォックスストラム社長は、「好調な業績だ。今年もこの勢いが続いている。このような成長率を長期にわたって維持したい」と述べた。
オンコロジー領域(21年は13%増)、呼吸器・免疫疾患領域(16%増)、循環器、腎、代謝疾患領域(10%増)とすべての領域で伸びをみせた。同社の業績を牽引する抗がん剤・タグリッソのほか、イミフィンジは「切除不能なIII期NSCLCおよびES-SCLC」の適応を持つ唯一の免疫治療薬として国内売上高28%増となるなど成長。重症喘息治療薬・ファセンラは喘息のバイオ医薬品市場で45%のシェアを獲得した。糖尿病治療薬・フォシーガは32.0%のシェアを獲得するなど、SGLT2単剤の市場でトップシェアとなっている。
◎「ナンバーワンになるチャンスがあれば掴みたい」 直近3年、37件の上市に期待
22年に新薬3件を含む10件、24年までには37件の上市を予定する。オンコロジー領域では、肝臓がんなどで消化器領域にも参入する。ヴォックスストラム社長は、「ナンバーワンになるチャンスが得られるのであれば、掴んでいきたい」と意欲をみせた。
そのうえで、「世界はパンデミックに見舞われてきたが、これで終わりではない。日本を含む全世界で高齢化が進む。こうしたなかで、製薬企業として何をしていくか」と投げかけ、「医薬品を超えることが必要だ」と強調した。「患者にフォーカスする。ペイシェントセントリックアプローチを通じ、医薬品以外で患者さんをサポートすることができる」と述べた。
同社が注力する、「i2.JP」も、この一環に位置付ける。技術的観点から社会課題解決につなげたい考えだ。i2.JPは、200社を超えるベンチャーや製薬企業などが集う、最大規模のヘルスケアオープンイノベーションエコスシステム。ヴォックスストラム社長は、「オープンイノベーションのパワーを活かそうとしている。保険会社、政府とのイノベーションネットワークも有機的な成長を遂げている」と自信をみせた。このなかでパートナーシップを組むに至ったスギ薬局とは、健康アプリ「スギサポwalk」を活用し、COPD患者・患者家族に対する疾患啓発と行動変容の検証を進めていることを紹介した。
◎「医薬品だけに捉われないよう、マインドセット」 カーボンネガティブは「ファーストムーバーに」
ヴォックスストラム社長は、「もちろん社会にどう貢献するかということを常に議論している」と強調。子ども食堂で社員がボランティア活動を促進するなどの取り組みを紹介し、「自分たちの社員も医薬品だけに捉われるのではなく、日本の社会を忘れることがないようにと、マインドセット(心構えを変えよう)としている」と述べた。
同社はサステナビリティの観点から、グローバル全体でカーボンネガティブに注力する。グローバルで2025年までに自社事業からの温室効果ガス排出ゼロの実現を掲げる。日本でも、米原工場でのソーラーパネル稼働や、営業車のEV車への切り替えなどに加え、4月には政府に対し、「日本におけるネットゼロ社会実現の加速に向けた、環境整備に関する提言」を発信するなど、活動を進める。ヴォックスストラム社長は、「遅きに失してはいけない、ファーストムーバーになっていかないといけない」と話し、取り組みの迅速さにも自信をみせた。
ヴォックスストラム社長は、「我々がベストになることだけでは不十分だ。サステナブルな環境にするためには、1人が勝者となるのではなく、全員で勝ち取っていく必要がある。他社にインスピレーションを与えたい。我々の活動と同様に、他社も取り組むことで、大きな成果につながっていく」とも強調した。
◎アストラゼネカは日本に非常にコミット「ポジティブに前向きに見ている」
日本市場については、毎年薬価改定の導入や調整幅の議論などに触れ、「確かに日本市場は予測が難しい。不確実性が高まるほど、投資をするうえではどんな企業でも躊躇する」と述べた。そのうえで、「しかし、アストラゼネカは日本に非常にコミットしており、ポジティブに前向きに見ている。革新的新薬が生まれることをサポートするような薬価制度に期待する」と表明。研究開発に多くの投資を行っていることを説明し、「日本の環境が改善することは期待している。心配はしているが、ステイポジティブだ」と述べた。
大津智子執行役員研究開発本部長は、「我々の持つ革新的医薬品を、日本を含む世界同時に患者さんの下に届けることが第一だ。欧米に比較して、日本もしくはアジアで患者さんが少ないものもあるが、我々日本法人がグローバルと協力し、日本で開発するというのが我々、開発の使命だと考えている」と同社の方針を話した。