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製薬産業の2023年が始動 創薬エコシステムの実効性を高める人財育成が急務 変わるビジネスの最前線

公開日時 2023/01/06 04:51
「本年は、全世代型社会保障改革に取り組む。少子化対策、あるいは、こども政策。これは、社会全体を維持できるかどうかという大きな課題で、我が国が先送りできない問題であり、しっかりと向き合わなければいけないと考えている」-。1月1日に岸田文雄首相が発した年頭所感の一説だ。物価高やエネルギー価格の高騰など社会経済情勢が日本の景気動向に影響する一方で、高齢化の進展に伴う社会保障費の伸びをいかに適正化するかは、この国の未来を占う試金石でもある。

コロナ禍を経て社会構造や社会システムが日本経済を揺り動かす中で、医療、年金、介護など社会保障全体の改革断行は国民の安全保障にとって必要不可欠なものだ、と改めて実感する。岸田首相があえて年頭所感に社会保障改革に取り組む決意を示したことは、少なからず日本経済が今後歩むべきビジネスの方向性を示唆したものと捉えるべきではないだろうか。医療界に長らく身を置くと、保険制度の枠内でしか物事が考えられないことに気づかされる。日本と欧米の医療保険制度を比較して論ずることが多い昨今だが、一方で海外の諸制度を改めて見直してみると、公と民のバランスだけでなく、民間主導のマーケット創造などを着火剤として、官民が一緒になって制度の根底を見直すブースターを機動させる試みなども見えてくる。

◎製薬協・岡田会長の年頭所感「アカデミアやベンチャーの支援強化が創薬エコシステム構築の鍵」

「今や開発中の新薬の起源の多くはベンチャーであり、アカデミアやベンチャーの支援の強化が日本における創薬エコシステム構築の鍵となる」-。製薬協の岡田安史会長は年頭所感で語っている。「政府は、Greater Tokyo Biocommunity (GTB)とバイオコミュニティ関西(BiocK)をグローバルバイオコミュニティに認定するとともに、昨年末には感染症対策の一環として開始された創薬ベンチャー支援の対象を、すべての創薬領域に拡充し3000億円もの予算を措置することとした。これらの政策決定は、創薬エコシステム構築に対する国家としてのコミットメントを示すもので、製薬業界としても強く歓迎する」と強調した。

医薬品産業をめぐっては供給不安や新薬のイノベーション評価などをめぐる議論が活発化している。ドラッグ・ロスやドラッグ・ラグ解消には、こうした政府の取り組みは不可欠だ。米国マサチューセッツ州・ボストンやケンブリッジ周辺にはこうした創薬エコシステムがすでに存在しており、グローバルメガファーマと大学発ベンチャーやアカデミアが垣根を越えてディスカッションできる環境が整っている。加えて、創薬ベンチャーの革新的新薬をメガファーマがアライアンスを組んで国際市場に展開するビジネスが当たり前のように日々語られている。もちろん日本の製薬企業もグローバル化の流れにのって、ボストンの研究者コミッティーに参加する機会も得ていると言うが、目利き力と人的ネットワーク力では欧米人や中国、韓国、台湾などのアジア人に比べて日本人は奥手(おくて)で、一歩出遅れ感があるとの皮肉も取材を通じて聞かされた。

確かにグローバルファーマの研究所の研究員がスピンアウトして作ったバイオベンチャーだったり、研究者同士が出身大学の先輩と後輩であったりと、コミュニティー内の壁の低さなどがその背景にあることも見逃せない。ただ、大切なことは創薬エコシステムを政府主導で作るだけではその効果を得ることはできず、いかに人材をそこに投入し、ネットワークを通じてイノベーションを起こさせるかに掛かっていることは言うまでもない。もはや製薬ビジネスの最前線では、研究所の研究室や所属企業の壁を越えたヒト同士のコミュニティーによる創薬獲得競争の舞台が出来上がっており、そこでの勝者が製薬ビジネスの先導者になる時代になったとみることもできる。

◎健康促進、未病対策予防、治療、重症化予防、介護・予後、健康寿命延伸へ

岡田製薬協会長の年頭所感では、「めざすべき姿、果たすべき使命は、国民の皆様の健康寿命の延伸に貢献すること、そして基幹産業として日本経済の成長に貢献すること。製薬産業は、これらの使命を果たすため、革新的新薬の研究開発及び高質の医薬品の安定供給に全力を尽くしてまいります」-と結んでいる。まさに2023年の製薬産業の方向性を示す言葉で締めくられた。

製薬産業は「HaaS」(Healthcare as a Service)を提唱している。これは塩野義製薬の手代木功社長が同社の中期経営計画「STS2030」に明記したものだが、昨年12月には第一三共も「HaaS」を用いてトータルケアエコシステムの構築に向けたプロジェクトを開始すると発表した。健康促進、未病対策予防、治療、重症化予防、介護・予後、健康寿命延伸といった“ジャーニーマップ”を描き、各フェーズに見合ったソリューションを自社だけでなく、パートナー企業等とも協力しながら開発し、提供するという概念だ。これまでの製薬産業は革新的新薬を介した「治療」への貢献で医療界をリードしてきた。これからの時代は健康から治療を経て、予後までを全方位でカバーできる産業への転身を描いている。まさに、トータルヘルスケアカンパニーの概念だ。

◎「野のうさぎ飛びて天下の晴となる」

エーザイの内藤晴夫CEOは、健常の段階から人々に価値を提供する「Eisai Universal Platform(EUP)」を提唱している。よって“patient(患者)”でなく、“people”という表現をあえて使った。認知症領域からエコシステムを構築する考え方として、他社を一歩リードした考え方と言えるだろう。

「野のうさぎ飛びて天下の晴となる」-。1月5日発表のエーザイ・内藤晴夫CEOの年頭所感に記した一言だ。同社の定款には「日本発のイノベーション企業として人々の健康憂慮の解消と医療較差の是正という社会善を効率的に実現する」と記すことで、エーザイの社会課題解決に取り組む姿勢を改めて明確に定めた。2023年は製薬産業にとって、ビジネス変革が求められる時代になる。ビジネス変革は待っているものではない。製薬業界に関わる全ての人々が前向きに取り組むイノベーションを育むことに他ならない。薬価や流通など課題は山積しているが、同時に産業構造やビジネスモデルの転換に自ら飛び込む勇気が求められることになると予想する。(ミクス編集長 沼田佳之)




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