東邦薬品の馬田明代表取締役社長は5月17日、東邦ホールディングス(HD)の2022年度(23年3月期)決算説明会で、東邦薬品をはじめとする共創未来グループの全MS約1800人のリスキリングを強化し、2次医療圏単位で地域の実情を見極め、課題解決策を提案できるようにする考えを示した。24年度に医療・介護・障害福祉のトリプル改定や第8次医療計画をはじめとする様々な改革が予定されていることを踏まえ、馬田社長は、「地域医療構想がますます加速すると考えられる」と指摘。同グループの活動範囲を、2次医療圏をベースにシフトしていく必要性を強調した。
東邦HDが5月12日に公表した「中期経営計画2023-2025『次代を創る』」では、4つの基本方針のひとつに「事業変革」を位置付け、この具体的な施策のひとつに「地域創生」を挙げた。構想区域(2次医療圏)に基づく活動を可能とする組織に再編していく方針で、馬田社長はこの日、「地域ごとにヘルスケアをデザインする」と語った。
ヘルスケアデザインの活動を進めるためには、地域ごとに異なる課題や実情を把握する必要がある。馬田社長はMSの役割に触れ、「これまで新型コロナ関連製品の配送や後発品を中心とした出荷調整対応に多くの時間を割いてきた」と指摘した上で、24年度以降を見据えて、「(MSは)他の製品もカバーするプロフェッショナルな活動に専念するほか、2次医療圏単位で現在よりも広範囲にカバーできる体制にする。薬剤の紹介や価格交渉だけでなく、地域性や顧客ニーズに合わせた提案や経営支援を行っていく」と述べ、MSが地域のヘルスケアデザイン活動のメインプレーヤーのひとりになるとの見方を示した。MSの直行直帰を可能とする柔軟な働き方も導入するとした。
MSのスキルや価値の向上に向けたリスキリングの強化にも意欲を見せ、「地域の人口動態から始まり地域保健医療計画やDPCデータといった公開データの読み方、病院機能別や疾患別など様々なデータの分析、そこから見える課題とその解決策を提案できる人材を育成していく」と具体的な研修内容を披露した。すでに昨年から研修は開始しており、今年4月末時点で700人超の社員が受講済み。実践スキルの向上も図っていると言い、「既に多くの病院で提案などしており、病院経営層から評価をいただいている」と手ごたえを語った。
◎「スペシャリティ製品のフルラインサービス」を構築へ
新中期経営計画では、4つの基本方針として▽事業変革、▽成長投資・収益向上、▽サステナビリティ経営、▽資本効率の改善と株主還元の向上――を挙げ、全ての基本方針及び施策で固定概念にとらわれないアライアンスを推進し、積極的にDXを取り入れる。
このうち成長投資・収益向上では、施策のひとつに「スペシャリティ製品のフルラインサービス」の構築を盛り込んだ。同サービスは、▽治験物流、▽国内CDMO事業/メーカー倉庫/卸倉庫(災害に強い都内物流センター「TBCダイナベース」の活用)、▽厳格に温度管理された配送・管理、▽リアル・リモートのハイブリッド型プロモーション活動、▽オンライン服薬フォロー、▽ラストワンマイル――を一元管理システムのもとで提供するもの。取引卸限定製品(1社または2社流通)の受託拡大を見据えたサービスで、実際、東邦HDの取引卸限定製品(コロナ関連製品除く)の22年度売上は1678億円で前年度比16.5%増と拡大している。
◎東邦HD・有働CEO 製薬企業による取引卸絞り込み「これからも増える」
東邦HDの有働敦代表取締役CEOは決算説明会で、「希少疾病薬をはじめとして製薬企業が取引卸を絞り込む傾向はだいぶ増えている。これからもますます増えていく」との認識を示した。東邦グループが選定されるポイントとしては、①全ての情報が一元管理できる物流機能がある、②本社で一元管理できる価格管理機能がある、③災害にも強いTBCダイナベースを持つ(BCP対策)、▽厳格な温度管理による配送ができる――の4点を改めて列挙
(関連記事はこちら)。その上で、「4点プラス様々な要望に応えるフルラインサービスの構築により、製薬企業に選んでもらえる」と述べ、フルラインサービスが取引卸限定製品の受注で競争優位に働き、利益率の向上につながるとの見方を示した。
なお、新中期経営計画の数値目標は、株価純資産倍率(PBR)1倍以上(23年3月末0.65倍)、自己資本当期純利益率(ROE)8%以上(同5.6%)、純資産配当率(DOE)2%以上(同0.9%)――とし、売上目標などは開示していない。投資計画は成長分野に200億円、インフラに120億円、人的資本に60億円――としている。
◎22年度の医薬品卸売事業 売上9.9%増 営業利益4.8%増
東邦HDの22年度の医薬品卸売事業の売上は1兆3367億6600万円(前年度比9.9%増)、売上総利益は749億1100万円(1.6%増)、販管費644億6800万円(1.1%増)、営業利益104億4300万円(4.8%増)だった。取引卸限定製品の売上伸長のほか、新型コロナの治療薬・検査キットの需要増が業績に大きく寄与した。
一方で、売上総利益率は5.60%で、前期から0.46ポイント悪化した。有働CEOは、「個々の製品の価値と流通コストに見合った価格交渉に努めた結果、納入価の改善にはつながったが、一方で製薬企業からの仕切価率の上昇と、コロナ関連製品の配送手数料が治療薬の一般流通への移行により前期に比べて大幅に減少した」ことが主な理由だと説明した。
◎23年度予想 コロナ関連製品の8割減で減収・営業減益
23年度の医薬品卸売事業は売上1兆2730億円(4.99%減)、売上総利益775億円(0.58%減)、販管費655億円(1.60%増)、営業利益120億円(11.01%減)――と予想した。なお、各業績の伸び率は、22年度まで営業外収益の受取手数料として計上していた「情報提供料収入」を23年度から売上に含めることにしたため、参考まで22年度も売上に含めた場合の試算結果となる。
23年度の減収・営業減益予想は、コロナ関連製品の大幅減収が主因で、前期のコロナ関連製品売上約1070億円が23年度は8割減になることを織り込んだ。売上総利益率は6.09%で若干の改善を見込んだ。有働CEOは「製薬企業からの仕切価率の上昇、アローアンスの減少はあるものの、医療機関との個々の製品価値と流通コストに見合った価格での交渉に取り組むことで、売上総利益率の改善を見込んでいる」と話した。