医療従事者の賃上げが最大の焦点となった2024年度診療報酬改定。初診料を3点、再診料と外来診療料を2点引上げる。入院基本料では、40歳未満の勤務医の多い特定機能病院の7対1入院基本料を104点引上げた。調剤基本料は調剤基本料1を45点(現行42点)などとする。さらに、看護職員や病院薬剤師の賃上げに向けて新設された「外来・在宅ベースアップ評価料(I)」では初診時6点、再診時2点を算定できるなど、手厚い配分を行った。一方で、2月14日の日本医師会・四病院団体協議会合同記者会見では、賃上げ対応を評価する声が相次いだが、病院経営が厳しさを増す中で、全日本病院協会の猪口雄二会長が「人件費も給食費も払ってしまう。病院は今経営状態が非常に悪いが、一体何が残るかという心配がかなり強くある」と話すなど、病院経営への懸念の声も聞かれた。
◎急性期一般入院料は38点、初診料は3点、再診料は2点など引上げ
24年度診療報酬改定最大の焦点となった、医療従事者の賃上げをめぐっては、改定率+0.88%のうちに、「40歳未満の勤務医師・勤務歯科医師・薬局の勤務薬剤師、事務職員、歯科技工所等で従事する者の賃上げに資する措置分(+0.28%程度)」として、入院基本料や初・再診料、調剤基本料を引上げた。
具体的には、急性期一般入院料1が1688点(現行1650点)、特定機能病院(一般病棟)の7対1入院基本料が1822点(1718点)などに引き上げる。初診料は291点(現行288点)、再診料は75点(現行73点)、外来診療料は76点(74点)など。調剤基本料1は45点(現行42点)など、3点引上げる。ただし、敷地内薬局の算定する基本料は現行の7点から特別調剤基本料Aは5点、施設基準の届け出を行っていない敷地内薬局の点数として新設される特別調剤基本料Bは3点と評価を引下げる。
入院基本料をめぐっては、栄養管理体制の基準の明確化、人生の最終段階における適切な意思決定支援の指針作成を要件化、組織的に身体的拘束を最小化する体制整備を求めるなど、医療の質向上に寄与する見直しもあわせて行った。
◎外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ) 初診時6点、再診時2点
改定では、「看護職員、病院薬剤師やその他の医療関係職種について、24年度にベア+2.5%、25年度にベア+2.0%を実施していくための特例的な対応」(+0.61%)が措置されたことを踏まえ、「ベースアップ評価料」を新設した。
「外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)」は初診時に6点、再診時等に2点を算定できる。目安とされる“1.2%”の賃上げができない場合に算定が可能になる「外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅱ)」では、 「外来・在宅ベースアップ評価料(I)」が初診時6点、再診時2点、賃金増率が低い施設で算定きる「外来・在宅ベースアップ評価料(II)」は初診時8~64点(8点刻みで8段階)、再診時1~8点(1点刻みで8段階)。「入院ベースアップ評価料」は1~165点で、165段階(1点刻み)とされた。
◎日医・松本会長「着実に賃上げの実績を示し、次回改定でも働きかけを」
日本医師会の松本吉郎会長は、「透析や内視鏡を中心に診療を行っている医療機関については、評価料だけでは十分に支援原資にならない場合があるため、評価料2を設定し、できるだけ多くの医療機関の不足、十分な賃上げの原資が得られるよう、その不足分を補填する設計になっている」と説明したうえで、「いずれにしても中医協における診療側の主張が実った形だ」と強調した。そのうえで、「着実に賃上げの実績を示し、次回改定においても持続的な賃上げを可能とするための十分原資が確保できるよう働きかけていきたい」と呼びかけた。
日本病院会の島弘志副会長は、「職員の労働意欲が高まることは大いに歓迎すべき」と述べたうえで、新型コロナ前の患者数に戻らず、病院経営が厳しさを増している実態を訴えた。「医業損益で赤字になっている病院が多数ある中で、コロナ特例支援がなくなり、地域医療構想の中で示されているような少子高齢化、多死社会を将来に迎える我が国において、訪問診療が増えることが予想されるが、病院・診療所での外来入院は減少していき、ますます経営が悪化してくる医療施設が増えることになると思われる。医療経営における賃上げの影響をしっかりと見守りたい」と述べた。
全日本病院協会の猪口雄二会長は、診療報酬の改定率を上回る財源が賃上げに割かれたことに触れ、「我々がどこまで答えられるかが非常に重要だ。上げた部分は全て人件費に還元しなければいけない。その推移をしっかりと見てみたい」と述べた。また、物価高騰の中で入院時の食費の引上げが30年ぶりになされたことも評価したうえで、「人件費も食費も払ってしまう。病院は今経営状態が非常に悪いが、一体何が残るかという心配がかなり強くある」と話した。
◎入院基本料や初・再診料を引上げは「忸怩たる想い」 確実な賃上げ「検証を」
一方、同日会見に臨んだ支払側からは、「検証」の必要性を求める声が相次いだ。全国健康保険協会の鳥潟美夏子理事は、「40歳未満の勤務医師事務職員等の賃上げ措置として、入院基本料や初・再診料を引上げることは、支払側が求めた方法と異なる形となるが、入院医療における栄養管理、人生最終段階の意思決定支援、身体的拘束の最小化、外来医療における日常的な感染防止策の底上げと医療の質の向上につながると受け止めている。看護職員や病院薬剤師等の医療関係職種の賃上げ対応として新設されるベースアップ評価料とともに、確実に賃上げが実施されたのか、丁寧に検証する必要がある」と述べた。
日本経済団体連合会社会保障委員会医療・介護改革部会部会の眞田享部会長代理は、「初・再診料や入院基本料をはじめとする診療報酬の引上げは、患者負担の増加、保険料負担の増加に直結する。医療従事者の賃上げに確実に充当されているのか、しっかり確認をし、検証していくことが不可欠ではないか」と指摘した。
日本労働組合総連合会総合政策推進局の佐保昌一局長は賃上げに際し、「労使できちんと話し合って決めていただきたい」と求め、厚労省には事務連絡の発出などで周知することを改めて求めた。「賃上げの確実な実行とともに継続的な処遇改善に向けたさらなる施策が求められていると考え、医療機関全体の賃上げ、働き方改革、人材確保について今回の診療報酬改定の検証と、さらなる取り組みを求めていきたい」と述べた。
健康保険組合連合会(健保連)の三宅泰介政策部長は、賃上げの必要性に理解を示したうで、その方法として入院基本料、初・再診料の引上げがなされたことについて、「我々としては忸怩たる想いもある」と吐露。「医療経済実態調査で明らかとなった病院と診療所の経営状況の違いも踏まえ、全てのこの対象の医療従事者に対する確実な賃上げが行われたのか、これは丁寧に検証していただき、目的が達成できていない場合には、次回改定で見直すということも当然だと考えている。引き続き中医協においてしっかり議論に臨みたい」と述べた。