厚労省・有識者検討会 インフレ経済下での薬価改定が議論に 小黒構成員「マクロ的アプローチ案」提案
公開日時 2024/02/29 04:51
厚労省が2月28日に開催した「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」で小黒一正構成員(法政大経済学部教授)は、経済がデフレからインフレ基調へと変わる中で、物価上昇率を反映するマクロな観点からの薬価改定アプローチ案を披露した。インフレ経済下では、物価動向が一定程度薬価に織り込まれ、「乖離率圧縮効果」(小黒構成員)とも呼べる状況が存在すると表明。一方で、物価は上昇していることから実質の乖離率は変化がないとして、「今後インフレ経済が継続するようになれば、基本的には下落か維持しかありえない日本の薬価改定方式の課題が大きく浮き彫りになっていく」と問題提起した。
「今後のインフレ経済見通した上で、物価上昇に何らかの形で反映できる薬価改定スキームについても今後検討していく必要がある」-。小黒構成員はこう主張する。その上で、「実質的な価格下落の加速を緩和する」2つのマクロ的なアプローチ案を提案した。
小黒構成員は「最適」として、「名目GDP成長率に連動した薬剤費を確保する案」を説明。この案は、新時代戦略研究所(INES)が提案している「マクロ的アプローチ」で、「物価変動を内包した名目GDP成長率連動方式と言っても過言ではなく、インフレ経済下での損益がより実感できる提案になっているのではないか」と話した。もう一案は、市場実勢価に調整幅に加えて物価変化率調整を加味する、“物価上昇率を直接反映した薬価改定”。小黒構成員は、「この方法では、イノベーティブな医薬品の収載時の薬価改善、あるいは再算定の廃止などの抜本的な解決にはつながりにくいと思われる。これらミクロ的な問題の解決には、やはり財政との調和を図りながら、名目GDP成長率に連動した薬剤費確保が最適になるのではないか」と述べた。
◎菅原構成員 急激なインフレ「適切に薬価に反映する仕組み必要」
菅原琢磨構成員(法政大経済学部教授)は、「現況のマクロの経済状況の急激なインフレ等を考えると、これらを適切に薬価に反映するような恒常的な仕組み、安定的な仕組みは、本気で考えなくてはいけない」として、こうした観点からの検討が進むことに期待感を示した。
◎香取構成員 市場実勢価格主義に疑義「極限すれば虚構に近い」
香取構成員は、現行の市場実勢価格主義について、「物価上昇を価格に反映するということは制度に内包していない。上限価格を決めて競争させるのはその時点で、市場の自律的な関係性に一定の枠をはめることになっている。ある意味、市場実勢価格に基づいて改定しているというのは、極限をすれば虚構に近い」との見解を表明。「経済情勢が変わるのであればそれが実質的に反映できるような、マクロのスキームとしての薬価制度を考えなければいけない」と述べ、薬価算定方式にも踏み込んだ。
また、乖離についても、「薬価制度のあるなしに関わらず市場の取引で生じている自然な価格のバラつきだとそろそろ考える必要がある」として、「その乖離になるから削る、あるいは全くその数字の根拠ない2%というものを持ってきて改定するという考え方は、もうそろそろ無理ではないか」と主張。さらに、「薬は一つの市場ではなく、様々な取引条件や薬効が違う複数の市場の束になっている。それぞれの薬効群ごとに競争条件も違うし、使用条件も違うことを考えると、一律の乖離率でそれぞれの薬効群ごとの改定薬価を決めるというのも、おそらく無理があるのではないか」と指摘した。
「今の薬価算定方式というのが、本当に安定的に医薬品の製造と生産、流通というのを安定的に確保していけるのか。薬は医療の一番根っこを支えているものなので、むしろそういう視点で考えることが必要ではないか」と持論を展開した。
一方、坂巻弘之構成員(神奈川県立保健福祉大大学院教授)は、「インフレという議論だけで、薬価制度改革の議論、あるいは市場実勢価をどう扱うのかという議論は、少し慎重に、データに関してはより正確な分析をしながら議論することが必要だろう」と述べた。