米・HIMSS 24 救急外来における臨床的判断の支援にAI導入 トリアージ精度や死亡率低下など改善傾向
公開日時 2024/03/15 04:52
救急外来(ED)でのトリアージと退院の臨床的判断支援において人工知能(AI)を導入したAIツールを複数の医療機関で施行した事例が、HIMSS 24の教育セッションで報告された。Yale University School of Medicine准教授のAndrew Taylor氏と、Beckman Coulter Diagnostics社シニアディレクターでJohns Hopkins University School of Medicine教授のScott Levin氏が発表したもの。トリアージ精度の向上や死亡率の低下などの改善が示された。(米国オーランド 森永知美)
◎EDの医療スタッフは著しい認知的負荷に曝されている
ポイント・オブ・ケアでの臨床的判断支援(CDS)におけるAIの導入は、まだ始まったばかりである。臨床応用は稀で、特に救急医療での導入に関するエビデンスは殆どない。
両氏はまず、様々な属性や症状を呈する患者で溢れ混沌としているEDでは、正確で迅速な臨床的意思決定を下すために、医療従事者は常に著しい認知的負荷に曝されているとし、それによってケアの質や患者の生存に影響を与えかねない状況があると述べた。また、受診ケースの約3分の1は緊急性が低く、EDでの過剰診断は財政的視点からも継続的な問題となっているが、EDの医師や医療スタッフには医療判断を向上するためのフィードバックデータがないとし、こうした複雑で広範な患者背景を分析することを得意とするAIを臨床的意思決定支援に活用することで、プロセスを効率化し、患者転帰を向上させることができると述べた。
◎AI導入のCDS開発過程では、全てのユーザーを巻き込むことがカギ
開発にあたっては、EDにおける一連の流れ(トリアージ→診断→治療→ディスポジション)の中から、患者のリスクおよび緊急度を評価し、EDでの流れを誘導するトリアージツールと、治療後の処遇(ICU入院か一般床入院、または退院)の判断を予測するディスポジションツールについてフォーカスした。全米データによると、トリアージの50~70%がESIレベル3に分類されており、重症か軽症かを見分けるのが困難なケースが多くを占めている。
いずれのツールも、予測アルゴリズムとEHRのデータマイニングを活用している。これらのAIツールの開発には、問題分析、設計、開発、実装、そして評価という5つの段階を踏んでいくが、その過程ではユーザーとなる医師や看護師など、全てのステークホルダーを巻き込んでいくことが重要であると強調した。
またAI活用の大きな目的は、病院間における治療の標準化であるが、現実的には個々の病院には独特の変数が存在するため、CDSを成功させるためのスイートスポットを探る必要がある。そのため両氏はKawamoto, et al.の論文(Kawamoto, et al. Improving clinical practice using clinical decision support systems: a systematic review of trials to identify features critical to success. BMJ 2005)を参考に、これらのAIツールが、①EHRに統合されること、②ワークフローの一部として提供されること、③意思決定するタイミングと場所で提供すること、④追加データの入力が不要であること、⑤定期的なパフォーマンス・フィードバックを提供することに主軸を置き、設計していった。
トリアージCDSのアルゴリズム設計では、人口統計学的データやED到着時の状態、主訴、バイタルサイン、およびAIが得意とする医療記録の迅速なマイニングといった予測因子が組み込まれ、トリアージレベルが推奨される。ディスポジションCDSのアルゴリズムには、これらの予測因子に加え、バイタルサインの経時的トレンドやラボデータ、施行した治療詳細などの蓄積データが組み込まれ、予測のエンジンとなる。
これらのツールはEHRワークフローに組み込まれているが、あえてユーザーにはそれを想起させないようにインターフェースを設計した。トリアージのナビゲーションセクションでは、AIによるトリアージレベルの推奨が明確に記載されるとともに、自然な言語による理由の説明と、ユーザーがこの判断に同意するかしないかの選択ボタン、そして最終的にユーザーがトリアージレベルを決定するボタンが設置されている。ディスポジションツールにおいても同様に、患者の臨床的リスクスコアが明確に推奨され、それを裏付ける臨床的因子のデータと、ユーザーが最終的に判断するセクションが提示される。ユーザーによるツールの活用を促進するにはユーザーの意見を理解し取り入れることが重要なため、インターフェースにフィードバックのダッシュボードを設けた。
◎トリアージ精度が向上し、ED滞在時間が改善
複数のEDでこれらのAIツールを試験的に導入し、その前後での変化を定量的に解析した。その結果トリアージでは、AIの採用度が上位25%の看護師と下位25%の看護師とを相対的に比較した場合、上位25%の看護師では、重症度の高い症例における救急救命の判定が50%、緊急手術の判定は100%高く、一方で重症度の低い症例における入院の判定が60%低かったことが明らかになった。また、AIツールの導入後はEDの滞在時間にも改善が見られ、患者全体におけるED到着から退出までの時間は3.8%(11.8分)短縮し、重症患者のED到着からICUへの移動は8.7%(42.3分)短縮していた。フローがスムーズであれば、その患者の転帰が向上するだけでなく、待機しているより多くの患者を治療することが可能となる。
ディスポジションCDSでは、Johns Hopkinsの病院5カ所におけるCOVID19感染患者で施行したパイロットプログラムのデータを分析した結果、高リスク患者においてツール導入後に死亡率が減少したことが示された。
両氏は、AIには医療格差の是正にも役立つ可能性があるとし、開発時に公平性への配慮を積極的に組み込むことが重要であると強調した。また今後のステップとして、人とAIとの相互作用パターンの分析や、ユーザーによる利用率の拡大、また医療保険支払いの課題への対処などに取り組んでいくと述べた。