厚生労働省医政局医薬産業振興・医療情報企画課の水谷忠由課長は3月18日に開かれたバイオシミラーフォーラムで講演し、国内のバイオ医薬品産業の振興・育成に向けて、「実生産スケールでの研修も含め、バイオ医薬品の製造設備、そして人材を車の両輪として進めていかなければいけないと思っている」と述べた。バイオ医薬品が主流となる中で、製造を海外に依存し、大幅な輸入超過に陥っていることを課題とし、戦略的な方針を策定する意義を強調した。水谷課長は、「(政府の)創薬力構想会議における議論も見ながら、予算上措置で何ができるか含めて進めていきたい」と意欲をみせた。
◎バイオシミラー使用促進の「包括的な取り組み方針」 「国内バイオ医薬品産業の振興・育成」が柱に
後発品使用促進の新たな目標としてバイオシミラーをめぐっては、「29年度末までに、バイオシミラーが80%以上を占める成分数が全体の成分数の60%以上」との目標が盛り込まれた。新たに設定された金額シェア目標達成に向けてもバイオシミラーの使用促進がカギを握る。水谷課長は「今後、バイオシミラーの使用促進を図っていくために包括的な取り組み方針を策定していきたい」と意欲をみせた。柱の一つには、「国内バイオ医薬品産業の振興・育成」を据える考えだ。
日本では医療用医薬品が大幅な輸入超過に陥っており、さらに拡大傾向にある。成長領域であるバイオ医薬品の製造を海外に依存しているためで、国内のCMO/CDMOに対する期待やニーズは高いものの、存在感が薄いのが現状だ。水谷課長は、バイオ医薬品を製造する培養プロセスや精製プロセスの研究・製造に従事する専門人材などが不足していることを指摘。今国会で審議されている予算案で、「次世代バイオ医薬品の製造・開発を担う人材育成支援事業」として3000万円を計上した。バイオ医薬品の製造技術やノウハウを学ぶ実践的な研修プログラムを実施するもの。従来は抗体医薬が中心だったが、細胞治療や遺伝子治療など新規モダリティの研修を行うため、例年1500万円の予算請求を倍増させたことを紹介した。
◎「ファーストインヒューマンから製造・人材を確保することが開発力につながる」
さらに、政府の「創薬力の向上により国民に最新の医薬品を迅速に届けるための構想会議」に触れ、「バイオ医薬品を中心とした製造、そして人材の確保が大変重要な論点だと思っている」との考えを示した。構想会議では、「アーリーの段階からシーズにどうインキュベートしていくか、そうした議論を中心に行われている」と説明。「シーズを具体化するときに、国内で製造できる設備や人材が必要になる。これは決して最終的なスケールアップ段階だけでなく、最初のファーストインヒューマンの段階から、そうしたものが近くにあってできるということがまさに開発力につながる」と述べた。
「研究開発、製造を一体として新規モダリティに対応する力が求められている。今から間に合うと思い、創薬力構想会議で打ち出そうと思っている。国が旗を振る。そうしたものに、様々なプレーヤーが流れに乗っていただけると、モノづくりとしての製造業も含め、研究開発と相まって再生していけるのではないか」とも話した。
創薬力構想会議について水谷課長は、「官邸の会議なので、大きな方向性をお示しいただく会議だと思っている。そうした議論の中で一定の方向性がまとまれば、それを受ける形で、具体的に何ができるかということ。厚労省がやる部分、経産省と連携しながらやる部分があるかと思うが、取り組んでいきたい」と意欲を語った。
◎キッズウェル・バイオ坂部生産本部長「日本で製造してグローバルに供給するくらいのスケール感を」
ディスカッションでは、日本でのバイオ医薬品の製造に焦点が当たった。登壇したキッズウェル・バイオ執行役員の坂部宗親生産本部長は現状では「バイオシミラーの開発や製造を日本のCDMOで行えると、インフレなどの影響も受けない。日本でバイオ医薬品を作れるCDMOのチャンスと捉えている」との見方を表明。一方でアジアのバイオベンチャーなどでは臨床試験を自ら実施し、グローバルに出ていこうとするケースもあるとして、「日本のバイオベンチャーも少し考え方を変えて、“日本で製造してグローバルに供給するぞ”くらいのスケール感でやらなければ、世界に追いついて体をなす形にならないのではないか」と指摘。「そのためには大きな資金も必要で、今後どうするかは課題」としたうえで、「産業として日本で定着させてく最後のチャンスになるのではないか」と危機感とともに、成長に向けた意思も示した。
◎実績出すことで回す“サイクル”構築がカギに
バイオ製造の設備・人材を育てるうえでバイオシミラーの果たす役割を問われ、経験者と若手が入り、実績を作りだしていく“サイクル”を日本で回す重要性を強調。「一度バイオシミラーを製造し、供給できるようになると、新薬の臨床試験のための治験薬を作ることも安心して任せられる。バイオ創薬に関しても、一つ道筋をつけることもできるのではないか」との考えを示した。さらに、「実際に動いている製薬会社の方を含めて協力し合う中でモチベーションを働かせ、実績を構築し、販売までこぎつければ事業が回り、プラスアルファでどんどん加速することが想定できる」と説明。「モーメントは必要だが回り出すと、国内でもいくつかのCDMOが立ち上がり、グローバルに対抗できる形になるのではないか」と力強く語った。
水谷課長は、こうした設備や人材を具体的にイメージできる必要性を強調。「国として旗を振ることは大変重要だが、リアルに企業や地域で進むことが重要ではないか。(好循環の)サイクルをどう作っていくかが、日本にとってある意味死活問題かもしれないと思った」と応じた。
◎抗腫瘍薬や代謝性医薬品など金額シェアで置換え可能 カギ握るバイオシミラーの使用促進
なお、厚労省は後発品使用促進の新たな目標として、「主目標」に「医薬品の安定的な供給を基本としつつ、後発医薬品の数量シェアを29年度末までに全ての都道府県で80%以上」。副次目標としては「29年度末までに、バイオシミラーが80%以上を占める成分数が全体の成分数の60%以上」、「後発医薬品の金額シェアを29年度末までに65%以上」として、新たに金額目標を設定した。目標達成期日は、24年度からスタートした第4期医療費適正化計画が29年度までであることを踏まえて設定。ただし、供給不安が続く中で、中間年度となる26年度を目途に状況を点検し、必要の状況に応じて目標のあり方を検討することも盛り込んだ。
主目標として数量シェアを継続した理由について水谷課長は、「医療現場の関係者がそれぞれ取り組みに活用できる指標」であることの重要性を強調。今回、新たに金額目標が設定されたが、数量ベースでは置き換わりが進んでいるものの金額ではさらなる置き換えが可能な領域として、「その他の腫瘍用薬」、「他に分類されない代謝性医薬品」などがあるとのデータも示し、「今回金額ベースの目標を設定しているが、バイオシミラーの使用促進に大変かかわってくる」と話した。現在はバイオシミラー16成分のうち、バイオシミラーが80%以上を占める成分数は3成分にとどまっており、使用促進をさらに進める考えを示した。