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住友ファーマ・木村社長 24年度業績V字回復に「再建への最初のステップを力強く踏み出せた」

公開日時 2025/05/14 04:51
住友ファーマの木村徹代表取締役社長は5月13日の2024年度決算説明会で、23年度の未曾有の経営危機から24年度に業績のV字回復を果たせたことに、「正直、ホッとした」と心境を述べた。ただ、「再建への最初のステップを力強く踏み出せたというだけのこと」とも強調。「今後も研究開発型ファーマとしてしっかりやっていくという思いを強くしている」と述べ、この日に発表した25年度から27年度の3年間の活動方針「Reboot(リボート) 2027」に沿って、“力強い住友ファーマ”に向け再始動すると表明した。「将来の当社のあり方をこの3年間が方向づける」と不退転の決意も示し、がん及び再生・細胞領域の自社イノベーションの結実を27年度までの必達目標とする方針を示した。

◎23~24年度 日本1200人削減 北米1000人削減 販管費約1400億円減 研究開発も絞り込み

同社では、北米でピーク時売上が2000億円強あった抗精神病薬・ラツーダが23年2月に特許切れし、23年度に同剤の売上が約1900億円消失した。この“ラツーダクリフ”対策が次々と失敗したこともあって未曾有の経営危機に陥り、23年度に1330億円のコア営業損失、3150億円の最終赤字を計上した。

23年度から24年度にかけて収益改善・事業構造改革に全社を挙げて取り組み、北米及び日本で人員削減・組織再編、研究開発プログラムの絞り込みといったコストマネジメントの強化や事業譲渡を推進。人員数は日本で1200人削減(22年度末→24年度末)、米国で1000人削減(同)し、販管費は22年度の3056億円を24年度に1677億円に約1400億円減らした。研究開発費はそれまでの1100億円から500億円を上限とした。

24年度には再生・細胞医薬事業の住友化学との合弁化、アジア事業(中国含む)の丸紅グローバルファーマとの合弁化、医薬品以外のヘルスケア分野でデジタル技術を用いた新たなソリューションを事業化するフロンティア事業をサワイホールディングスグループに譲渡することなどを決めた。

これらの事業構造改革とともに、業績回復のカギをにぎる北米基幹3製品(オルゴビクス、マイフェンブリー、ジェムテサ)の早期最大化に向けリソースを集中した。

◎24年度業績 コア営業利益432億円 最終利益236億円と黒字化 北米基幹3製品が好調

結果、24年度の連結業績は、売上収益は前年度比26.8%増の3988億円、コア営業利益は432億円、最終利益は236億円――と黒字化し、V字回復を果たした。24年度の期初計画ではコア営業利益10億円、最終利益0円を目指したが、大きく上振れした。木村社長は、「北米基幹3製品の(想定以上の)伸長や、事業構造改革、費用削減を非常に厳しく進めた結果で、円安効果もあった」と振り返った。24年度の販管費は29.1%減の1677億円、研究開発費は46.7%減の485億円だった。

製品別の24年度売上をみると、北米基幹3製品の経口前立腺がん治療薬・オルゴビクスは96.9%増の831億円、子宮筋腫・子宮内膜症治療薬・マイフェンブリーは39.0%増の128億円、過活動膀胱治療薬・ジェムテサは78.6%増の658億円――で、オルゴビクスとジェムテサは期初予想を上回る成長をみせた。

◎24年度国内売上998億円、12.9%減 トレリーフ、エクアの特許切れ影響大きく

一方、24年度の国内売上は12.9%減の998億円と厳しい状況だ。ラツーダは12.1%増の132億円、2型糖尿病治療薬・ツイミーグは66.9%増の76億円と堅調に伸びたが、24年6月に後発品が参入した抗パーキンソン病薬・トレリーフは76.4%減の37億円、12月に後発品が参入した2型糖尿病治療薬・エクアは、配合剤のエクメットとの合計で18.7%減の249億円だったことが響いた。

なお、エクメットには今年6月に後発品が参入する見通しで、同社は25年度のエクア・エクメットの売上は72%減の70億円になると予想。国内売上も14%減の857億円と引き続き厳しい状況が続くとしている。

◎25年度連結業績は減収・増益予想 販管費、研開費は引き続き抑制

25年度の連結業績は、売上収益は11.0%減の3550億円、コア営業利益は29.8%増の560億円、最終利益は69.2%増の400億円――の減収増益予想を立てた。販管費は8.5%減の1535億円、研究開発費は9.3%減の440億円と引き続き厳しく抑制する。

売上収益は、北米基幹3製品で計1900億円以上の売上を見込む一方、日本のエクメットの特許切れ、北米事業での為替影響、アジア事業の譲渡・合弁化などにより2ケタ減収となる見通し。販管費は、日本の事業構造改善効果が通年にわたり現れ、アジア事業譲渡も販管費の減少に働く。研究開発費は、抗がん剤2製品の開発加速に投じる一方、再生・細胞医薬関連の投資額は合弁化により減少する。またアジア事業の譲渡による譲渡益約450億円を見込む。

◎Reboot 2027 27年度に基幹3製品で計2500億円 コア営業利益は安定的に250億円以上

同社はこの日の取締役会で、25年度から27年度まで3年間の活動方針「Reboot 2027-力強い住友ファーマへの再始動-」を策定するとともに、23年4月に公表した23年度から27年度の5カ年の中期経営計画を取り下げることを決議した。中計の取り下げは、ラツーダクリフ対策の失敗により、計画内容が全く実態に合わなくなったため。

Reboot 2027では、今後3年間は、北米基幹3製品を中心とした既存製品の価値最大化と徹底したコスト管理により損益基盤を確立し、開発パイプラインの選択と集中によりフリーキャッシュフローの維持と次なる収益基盤の獲得の両立に取り組む。開発を加速させ、投資資金及び開発リスク負担の低減に向け提携機会を追求する。リスクを許容して大規模比較試験を行ってきた反省から、今後は開発の成功確率向上に向け、コンパクトな開発戦略でステップワイズに研究開発を推進する方針も示した。

27年度の財務目標は、▽北米基幹3製品の売上は計2500億円規模、▽コア営業利益は一時要因除き安定的に250億円以上、▽フリーキャッシュフローは黒字維持、▽可能な限り早期に有利子負債2000億円以下に削減――で、有利子負債の返済を優先しつつ復配も検討する。

◎木村社長 がんや再生・細胞領域の事業化で「価値創造サイクル」を再構築

木村社長は今後3年間について、北米基幹3製品の売上拡大による収益基盤の安定化や、がんや再生・細胞領域品目の事業化等による「価値創造サイクルの再構築」に向けて、「非常に重要なマイルストーンが集中している」と指摘した。

そして、「将来の当社のあり方をこの3年間が方向づける」との認識を示し、「(初年度となる)25年度は研究開発型ファーマとしての『真価を示す年』と明確に位置付けた」と述べた。25年度は、▽パーキンソン病に対する他家iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞の国内申請と条件及び期限付き承認の取得、▽抗がん剤2製品(enzomenib、nuvisertib)の開発推進及び外部提携――とのマイルストーンの達成に意欲をみせ、「研究開発型ファーマとしての復活を方向づける」と意気込みを語った。

◎抗がん剤enzomenibの27年度上市、nuvisertibの27年度申請は「マスト」 提携先模索も

開発中の抗がん剤2製品は、北米基幹3製品の次の収益基盤として期待が大きい。このうち急性骨髄性白血病を対象に日米で第2相試験段階にあるenzomenib(開発コード:DSP-5336)は26年度申請、27年度上市――、もう一剤の骨髄線維症を対象に日米で第1/2相試験段階にあるnuvisertib(開発コード:TP-3654)は27年度申請が「マスト」だと強調した。その上で、「研究開発型ファーマの具現化に向けたフラッグシップ・プログラムとして最優先で投資する」と話すとともに、開発スピードや投資リスクをマネージするため「提携を基本戦略として進める」と述べた。

再生・細胞医薬事業は、住友化学との再生・細胞医薬事業に係る合弁会社「RACTHERA(ラクセラ)」や「S-RACMO(エスラクモ)」に住友ファーマの再生・細胞医薬事業に関連する組織を再編して承継済み。ラクセラは再生・細胞医薬事業の研究開発等を担う合弁会社、エスラクモは再生・細胞医薬分野のCDMO事業を行うための合弁会社で、いずれも出資比率は住友化学66.6%、住友ファーマ 33.4%。

木村社長は、「再生・細胞医薬のフロントランナーとして再生医療でしか実現できない新たな価値を提供」することに改めて意欲をみせ、「ラクセラなど3社で協力してやっていく。(組織を)ラクセラに移管したが、住友ファーマとしては我が事業として主体的に取り組んでいく」と述べた。

このほか疾患領域としてはがん領域、精神神経領域、その他領域、モダリティは低分子と再生・細胞医薬に注力する方針。地域戦略は、創薬研究を含むファーマ事業基盤を持つ日本と、最大市場である北米に重点を置いて事業展開していく方向を明示した。

【24年度連結業績 (前年同期比) 25年度予想(前年同期比)】
売上収益 3988億3200万円(26.8%増) 3550億円(11.0%減)
コア営業利益 431億5300万円(-) 560億円(29.8%増)
営業利益 288億400万円(-) 540億円(87.5%増)
親会社帰属純利益 236億3400万円(-) 400億円(69.2%増)

【24年度の国内主要製品売上高(前年同期実績) 25年度予想、億円】
ラツーダ 132(117) 135
ツイミーグ 76(46) 112
メトグルコ 73(73) 76
エクア・エクメット 246(306) 70
ロナセンテープ 46(38) 52
トレリーフ 37(155) -
オーソライズドジェネリック品 114(97) 116
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