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虎の門病院・門脇院長 肥満症の治療意義「合併症の治療費や健康障害に伴う経済的損失」の回避に期待感

公開日時 2025/07/22 04:53
虎の門病院の門脇孝院長(日本医学会・日本医学会連合会長)は7月18日、肥満症をテーマにしたパネルディスカッションで、肥満症患者の治療意義について、「将来起こり得る心血管系の合併症の治療費や健康障害に伴う経済的損失を回避できる」と指摘した。これを受けて国際医療福祉大学の鈴木康裕学長(元厚労省医務技監)は、「肥満症を放置することが医療費や介護費の問題となる。労働生産性の問題でもある」と強調。元財務事務次官の岡本薫明氏は、「医療費の効率化、健康保険制度の持続性に寄与するかは肥満症治療を短期、長期で見ることが必要だ。その場合の治療コストや関連疾患の抑制効果、経済的効果がどうなるのか、しっかりとした議論と、エビデンスの積み重ねが重要だと思う」との見解を示した。

この日は、米国研究製薬工業協会(PhRMA)と日本イーライリリー共催による「第8回ヘルスケア・イノベーションフォーラム イノベーションによる健康寿命の延伸と国民皆保険の持続性:肥満症を例にして」が開催された。日本における肥満(BMI≧25)の割合は年々増加傾向にあり、経済的影響は2019年の7.6兆円から、2030年には11.1兆円に膨らむと推計されている。近年は、肥満症治療の基本的考え方として、食事・運動療法が十分でなく、減量目標を達成できなかった場合の薬物療法として、セマグルチド(24年2月)、チルゼパチド(25年4月)の2剤の抗肥満症薬が使われている。一方で、肥満症への理解不足やスティグマ(偏見)が存在しており、患者に限らず、医師や一般消費者から「肥満は自己責任」と捉えられ、肥満症治療を必要とする人が見過ごされたり、治療の重要性が理解されないことが問題視されている。

◎肥満症 治療費用や健康寿命の短縮など経済的損失は「かなり大きい」

この日のパネルディスカッションで、門脇院長は、「肥満症があるとそれに伴う健康障害や高血圧、糖尿病、高コレステロール血症などの合併症治療を要する場合が少なくない。肥満症が正しく治療されないで、脳卒中や心筋梗塞を起こすとそれに対する治療費がかかってくる」と述べ、治療費用や健康寿命の短縮など経済的損失は「かなり大きい」との認識を示した。

◎鈴木・国際医療福祉大学長 肥満症の課題「一つはスティグマとの闘い」

これに対し鈴木学長は、肥満症の課題として、「一つはスティグマとの闘いだ」と強調。「例えば、遺伝子の問題や腸内細菌の問題もそうだが、同じ量を食べて、同じ量を運動しても太る人もいれば、太らない人もいる。ということは個人の責任を超えた範囲で診断や治療の必要な一定の部分が必ずいるということだ」と述べた。また、「肥満症を放置することは、もちろん本人の問題でもあるが、医療費の問題でもあり、介護費用の問題でもある。かつ企業として考えると労働生産性の問題でもある」と述べ、一定程度の介入の必要性に触れた。

◎岡本元財務事務次官 肥満症治療に伴う医療費の効率化「どう検証するかということ」

元財務事務次官の岡本氏は、「この肥満症は多くの疾患のいわば“上流”に位置する。そこに新たなイノベーションの創出で抗肥満薬の治療が可能になるのであれば、多くの疾患の発症や重症化が抑えられる。肥満症治療の様々な効果、それが医療費の効率化につながる可能性があるということになるのかと思う」と述べ、「ただ、そこをどのように検証していくかということかと思う」と強調した。

◎門脇院長 「残念ながら肥満症治療薬が間違った使われ方をしていることがある」

肥満症治療の考え方について門脇院長は、「画期的な薬物療法が開発されたからといって、食事療法、運動療法は全ての肥満症治療の基本だ。食事療法や運動療法の方が経済的に費用を要するものではない。実際に抗肥満症薬の治療の一番大事なテーマだ」と指摘。「実際に抗肥満症薬を使って食事療法や運動療法と併せて有効だとなると、食事療法や運動療法に対する患者の自信も湧いて、やり方もわかってくる。もしかしたら薬を止めて、食事療法や運動療法で目的を達する人も多く現れるのではないかということも期待している」と述べた。

一方で門脇院長は、「残念ながら肥満症治療薬が間違った使われ方をしていることがある」と述べ、やせ薬や美容医療の中で、「保険診療外で間違った使われ方をして様々な健康障害や問題点が出ると、あるべき姿が歪んでしまう」と指摘し、医療関係者に対し警鐘を鳴らした。

◎鈴木学長 医療者に対するインセンティブ「診療報酬はアウトカムに対して支払う」

鈴木学長は肥満症治療に対するインセンティブの考え方に触れた。鈴木学長は、患者・国民に対しては民間保険などを活用して、「早期発見につながる行動に何らかのインセンティブをつけることが、少しでも早く医療につながる」と提案。一方で医療者に対しては、診療報酬について、「アウトカムの結果に対して支払うことになれば、治療のイノベーションは生まれる。当然患者さんに協力してもらわなきゃいけないので、患者さんの参加も増すだろう」と見通した。

◎岡本元次官「しっかりした議論と、エビデンスの積み重ねが重要」

元財務事務次官の岡本氏は、「本当に医療費の効率化、また健康保険制度の持続性に寄与するのかどうかは、肥満症治療を短期、長期で見た場合の治療コストがどうなるのか見るべき」と述べ、さらに、「関連する疾患の抑制等々の効果がどうか、さらには経済的な効果はどのようになるのか、そういったことについてのしっかりした議論と、エビデンスの積み重ねが重要だ」と強調。「それがひいては多くの研究とイノベーションという観点から継続的な投資につながっていくのではないかと思う」と述べた。
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