
バイタルケーエスケー・ホールディングス(HD)の鈴木三尚取締役事業開発担当は11月18日の2025年度第2四半期決算説明会で、今年度から開始した未承認薬導入支援事業について、その第一弾となる英国企業から導入したマルトール第二鉄は肺動脈性肺高血圧症(PAH)を対象疾患に開発し、「2029年をめど」に上市を目指すと述べた。欧州で実施されたPAH患者対象の臨床試験で6分間歩行距離の変化などで有意な改善が認められたほか、同剤はPAH治療で課題となっている長期的な鉄補充も期待できる特性を持つことから、「(国内PAH市場で)勝算はある」と強調した。
未承認薬導入支援事業(製薬事業)は、25年度にスタートした中期経営計画で新規事業として盛り込んだもの。同社は同事業を展開する子会社メドリープファーマを9月に設立。その第一弾として英国Shield Therapeutics社から導入したマルトール第二鉄(開発コード:ST10)の国内開発に着手し、このほど第2相試験を開始した。28年以降の承認申請を目指す。メドリープによると、マルトール第二鉄は空腹時に投与でき、消化器系副作用の軽減、最適な血中濃度による鉄関連毒性の軽減を実現するよう設計された新規経口鉄剤。
◎海外は鉄欠乏症薬 国内開発はPAH 理由は「臨床現場や患者会からの要望」
マルトール第二鉄は海外で鉄欠乏症治療薬として承認・上市されているが、日本ではPAHを対象に開発することにした。この理由についてバイタルケーエスケーHDは本誌に、「臨床現場や患者会からの要望もあり、当初よりドラッグリポジショニングによるPAHでの開発許可取得を目指し、関係官庁と交渉していた」と明かした。厚労省の未承認薬・適応外薬検討会議には、患者会「PAHの会」から「鉄欠乏症を有する肺動脈性肺高血圧症」を対象とする開発要望書が出されており、同社が応えた格好だ。
なお、PAHでは鉄欠乏性貧血併存の頻度は高く、鉄の効率的な補充が推奨されている。しかし、既存治療薬では消化器系の副作用の発現などにより長期的鉄補充管理が困難との課題がある。産業医科大学医学部の片岡雅晴教授は、マルトール第二鉄は「これらの課題を克服し長期投与を可能にした全く新しい新規化合物」だとし、「マルトール第二鉄によるPAH患者を対象とした臨床試験を実施することで、日本発のエビデンスが構築されることを期待している」とコメントしている。
◎マルトール第二鉄に続く未承認薬開発 「低分子で専門医や患者さんから求められている領域」に焦点
マルトール第二鉄に続く国内未承認薬の開発計画も気になるところ。この点について鈴木取締役は、「製薬大手が開発するバイオ製剤や再生医療は狙っていない」とした上で、「低分子であっても国内未開発で、専門医や患者さんから求められている領域はある。そういったところに焦点を当てたい。なおかつ、業績的にも価値があるものを狙っていきたい」と述べた。
◎評判上々のウィメンズヘルスケアソリューション部 活動エリア拡大 10月から仙台圏で始動
このほか鈴木取締役は、グループ会社で近畿を商圏とするケーエスケーが24年4月から開始した女性の健康課題に関するソリューションを広く提供する専門部署「ウィメンズヘルスケアソリューション(WHS)部」について、「得意先や製薬企業の評判も上々」のため、活動エリアを拡大していると報告した。
当初、大阪府北部・大阪市内の産科・婦人科を対象に活動をスタートし、今年4月には京都府や兵庫県にエリアを拡大した。そして10月から、同じグループ会社で東北を商圏とするバイタルネットにWHSチームを新設し、仙台圏で活動を始めた。
鈴木取締役は、「ケーエスケーが培ったノウハウをバイタルネットに水平展開した。グループ間のシナジーを発揮して、あらゆるニーズに応えていきたい」と述べた。
◎25年度上期の医薬品卸売事業 売上0.9%増 営業利益23.6%減 営業利益率0.74%
バイタルケーエスケーHDの25年度上期の連結業績は、売上は前年同期比1.1%増の3002億3400万円、研究開発費を除くコア営業利益は22.4%減の22億3300万円、営業利益は42.9%減の16億4100万円、親会社帰属純利益は105.2%増の49億6800万円――だった。最終利益の大幅増はケアネットの株式売却によるもの。未承認薬導入支援事業に係る投資(研究開発費)は5億9200万円だった。
医薬品卸売事業の業績は、売上は0.9%増の2819億6700万円、営業利益は23.6%減の20億8000万円、営業利益率は0.23ポイント悪化の0.74%だった。
◎近畿都市部の局地的エリアの競争入札で苦戦 売上11%減 「他社に価格が及ばなかった」
売上は、抗がん剤などの新薬創出等加算品(コロナ治療薬除く)や帯状疱疹ワクチンなどの売上の伸びが、薬価改定や競争入札を要因とする減収分を上回り、0.9%の増収をキープした。新薬創出等加算品(同)で125億円の増収となった。
苦戦した競争入札はケーエスケーが地盤とする近畿都市部の「局地的なエリアでのもの」(喜多勇夫取締役経理財務担当)で、売上が前年同期比11%減少した。バイタルケーエスケーHDによると、「単に競争入札の結果として他社に価格が及ばなかったため、一部得意先の売上が大きく減少した」という。入札の今後の対応については、村井泰介代表取締役社長が「病院の入札については、また次の入札の時期に回復できるものと考えている」。喜多取締役も「定期的に行われる入札機会を捉え売上増を目指す」と話した。
売上総利益は0.9ポイント悪化の198億1900万円だった。仕入原価の上昇などが影響した。販管費は2.7%増の177億3800万円で、人件費の増加や燃料費等の物価上昇の影響が大きかった。これらの結果、2ケタの営業減益となった。