財務省 財政審で開業医の高給与水準を指摘 日医の主張に再反論「26年度改定で診療所は適正化を」
公開日時 2025/11/12 04:52
財務省は11月11日の財政制度等審議会財政制度分科会に、診療所の院長(開業医)の給与水準の高さを示し、改めて2026年度診療報酬改定で診療所について「適正化の方向で検討すべき」と主張した。利益率や利益剰余金は依然として高水準にあることも指摘した。日本医師会が病院だけでなく、診療所の経営状況の厳しさを訴えるなかで、再反論した格好だ。回復期・慢性期の病院は黒字であることも指摘。病院を一律で評価するのではなく、「医療機関の機能・種類に応じ、それぞれの経営状況や収益費用構造を勘案したきめ細やかな配分が不可欠」と主張した。
◎開業医の給与は国際的にも高水準 勤務医と「大きく乖離」
財務省はこの日の財政審に開業医の給与水準に関連するデータを複数提示した。病院・診療所の収益に対する費用構造をみると、いずれも人件費が全体の約5割を占めており、特に診療所では院長報酬が約3000万円と高水準であることを示した。個人立では約3200万円(32.8%)、医療法人立では約2700万円(13.7%)。医療法人立の診療所では個人立よりも給与が低いが、差額は利益余剰金などへと回されていると指摘した。また、診療所では開設からの年数が長いほど、赤字の割合が多いとのデータも提示。「法人登記が古い医療法人ほど経常利益率が低くなるのは、設置者である医師が内部留保を給与の形で取り崩しているから」と指摘する論文も掲載した。
医師の給与を国際比較したデータも示した。世界的に医師の給与水準は高い傾向にあるが、日本では開業医は4.5倍、勤務医は2.5倍と特に高い傾向にあると指摘した。OECD諸国の医師給与は、国内(全産業)の平均と比較して、開業医(自営)が2.9倍、勤務医が2.1倍で、日本は国際的にみて開業医と勤務医の給与に「大きく乖離しているのが特徴」などと指摘。「診療所については、依然として高水準にある利益率や利益剰余金を踏まえ、適正化の方向で検討すべき」と改めて主張した。
◎「医療機関の機能・種類に応じたきめ細やかな配分が不可欠」 回復期・慢性期は黒字
財務省は、「メリハリある診療報酬改定を実現するためには、医療機関の機能・種類に応じ、それぞれの経営状況や収益費用構造を勘案したきめ細やかな配分が不可欠」とも主張した。医療機関の経営状況について、機能分類別にその平均値をみると、急性期の病院は経常利益率が低い一方、回復期・慢性期の病院は黒字であり、診療所は経常利益率が高いとのデータも提示。同等の機能を持つ病院間でも費用構造にバラつきが生じている現状も示し、「医業費用に占める各経費の割合が著しく高いような病院については、経営資源の適正化の観点から、費用構造の見直しに取り組む必要があるのではないか」とも提案した。
◎効率的な医療提供体制構築へ 人員の適正配置、外来機能の集約推進を
効率的な地域医療提供体制を構築する必要性も指摘した。「地域の実情に応じ、病床数の適正化を図り、入院機能の高度医療への重点化を図るとともに、診療所を含めた外来機能の集約を推進していくべき」と主張した。急性期1の入院料を算定する病院(看護職員の配置7:1)を引き合いに、算定する入院料を病院機能に沿ったものへと見直す必要性を指摘した。また、地域包括ケア病棟や回復期リハ、療養病棟については、配置基準を超える人員が配置されている状況にある施設も多いとのデータを示しながら、「現状の入院料の配置基準上の必要数を超えて専門職を配置している病院は、人員配置の適正化を徹底すべき」と主張した。
◎地域医療連携推進法人の推進を リフィル処方箋「早期に実効的なKPI設定を」
地域医療連携推進法人についても言及した。「地域の医療ネットワークを活性化させる観点から、好事例の横展開を進めることにより、地域医療連携推進法人の適切な活用を積極的に推進すべき」と提案。その際、「保険者インセンティブの活用や、新たな地域医療構想における位置づけなども検討すべき」とした。
リフィル処方箋についても言及。骨太方針などで、25年度中のKPI設定が明記されているものの、設定には至っていないことから、「早期に、リフィル処方の推進に資する実効的なKPIを設定し、その利用促進に向けた必要な政策対応を検討・実行すべき」と主張した。
このほか、差額ベッド代や大病院への受診に伴う追加負担などを引き合いに、「患者・家族の個別のニーズ・要請へのきめ細かな対応と、医療機関が執りうる経営戦略上の選択肢の拡大との双方の観点から、さらには、効率的・効果的な医療提供体制の構築を推進していく観点から、選定療養の更なる拡充について柔軟に検討すべき」とした。
このほか、「骨太方針2025に沿って、医師偏在の是正には着実に取り組みつつ、一刻も早く、思い切った医学部定員の適正化を進めていく必要」など、医学部の定員見直しも迫った。
◎高額薬剤への対応「民間保険の活用の検討も」 市場拡大再算定は改革の手を緩めず
高額薬剤への対応としては、「費用対効果評価制度等の一層の活用を含めた薬価制度上の最大限の対応が必要。また、保険外併用療養費制度の柔軟な活用・拡大、民間保険の活用について検討を進めるべき」と主張した。ドイツやフランスの民間保険の活用状況を示し、「他国においては実際に民間保険が公的保険を補完する役割を果たしている」とした。政府が今年6月に閣議決定した「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2025年改訂版」では、「保険外併用療養費制度の運用改善(迅速なアクセス)」が盛り込まれたことを踏まえたもの。
市場拡大再算定についても、「国民負担軽減の観点から見直しをする余地があると考えられる」と明記。製薬業界が見直しを求めているが、改めて改革の手を緩めない姿勢も示した。