財務・厚労事務次官が登壇 新川氏「病院は重点支援、診療所は適正化」伊原氏「地域ごと配置基準弾力化」
公開日時 2025/11/14 04:52

財務省の新川浩嗣事務次官と厚労省の伊原和人事務次官が揃って登壇する特別シンポジウムが11月13日、「第29回日本医業経営コンサルタント学会香川大会」(高松市開催)で実現した。新川財務次官は2026年度診療報酬改定について、「日本経済の新たなステージへの移行が明確になる中で最初の改定」と述べ、今後の道標となる大変重要なものと位置付けた。また、「経済・物価動向への対応と保険料負担の抑制努力を両立させるモデルを示さなければならない」とも強調した。伊原厚労次官は、医療・介護サービス需要の変化に応じた提供体制の構築が求められるとして、例えば、全国一律ではなく、中山間・人口減少地域については、「配置基準の弾力化や包括的な評価の仕組みなど、柔軟な対応が今後求められる」との見解を示した。
現職の財務次官と厚労次官が同じステージで議論を交わすことは極めて稀だという。新川氏と伊原氏はともに香川県出身で、大学、霞が関入省年次も同期ということで、今回のプログラムが実現した。
◎新川財務次官 保険料負担の抑制努力と経済・物価対策「双方に応える必要がある」
社会保障について新川財務次官は、「骨太方針2025」で、改革を通じた保険料負担の抑制努力の継続と経済・物価動向等への的確な対応が求められており、その双方に応える必要があると指摘した。経済・物価動向等への対応にあたっては、「まずは客観的データに基づく精査を徹底した上で、現役世代の保険料負担の増による可処分所得の抑制を回避することが最低限の要請」とし、改革の方向性については、「極力、可処分所得の拡大につながる内容としなければならない」と述べた。
一方、コスト構造の見直しについては、「より少ない就業者で高いサービスが提供できるよう、効率的で持続可能な産業構造への転換が不可欠」との認識を示した。
◎伊原厚労次官 医療・介護分野は、「担い手不足」に対処する必要性が高まる

これに対し伊原厚労次官は、2040年に向けた人口構造の変化を説明。今後75歳以上高齢者人口の伸びが急速に低下する一方で、2030年代半ばに向けて、医療・介護の複合ニーズを持つ85歳以上人口(85歳以上の要介護認定率は約6割)の伸びが課題になると指摘。生産年齢人口の減少が課題となる中で、医療・介護分野は、「担い手不足」に対処する必要性が高まると見通した。その上で、医療・介護のサービス提供体制については、これまでの全国一律モデルが機能しなくなるとの見解を示し、例えば、中山間地域や人口減少地域については、人員配置基準の弾力化や、訪問・場所などサービス間の連携・柔軟化、さらに市町村事務によるサービス提供など、「地域のニーズに応じた柔軟な対応の検討が求められる」と述べた。
伊原厚労次官はまた、ICT活用による介護サービスの省力化事例を紹介。特別養護老人ホームにセンサーなどICTを導入したことで、介護者1.9人に対し1人(2015年)の人員配置が、2.8人に1人となり、職員平均年収が約480万円となるなど、特養職員の平均年収約420万円を上回ることができたと報告した。
◎26年度改定 「政策的役割を終えた報酬項目については整理・適正化」 新川次官
26年度診療報酬改定も話題となった。新川財務次官は、経済・物価高対策への対応として、「経営の改善や従事者の処遇改善につながる的確な対応を図っていく」と主張し、「その際、今回の改定から活用可能となった医療機関の経営データに基づき、医療機関ごとの費用構造や医療機能に応じたきめ細かい対応が必要」との見解を示した。
また、「現役世代の保険料負担の軽減」の観点からも、「病院への重点的な支援のため、診療所の報酬の適正化が不可欠」と述べ、また調剤薬局が増加し続けていることで、「調剤技術料が一貫して顕著に伸びている」とし、調剤報酬の適正化も必須とした。また、「かかりつけ医機能を十全に果たす医療機関を重点的かつ包括的に評価する報酬体系を構築していく」と述べ、後発医薬品の使用促進や医薬分業推進のために設けられた各種加算について、「政策的役割を終えた報酬項目については、整理・適正化をするべき」と主張した。
◎病院経営「事業収益の増加以上に事業費用が増えている」診療所も経常利益率悪化 伊原次官

一方、伊原厚労次官も26年度診療報酬改定について触れ、高市首相が所信表明で主張した「報酬改定を待たず、経営の改善および従業員の処遇改善につながる補助金を措置して効果を前倒しする」との方針を支持。病院経営については、2021年と23年の100床あたりの損益を比較しながら、「事業収益の増加以上に事業費用が増えている」と分析。費用の50%を占める人件費増の影響が最も大きいと指摘した。さらに、民間病院・診療所の経営状況をみても、病院の経常利益率が1.2%からマイナス0.2%に悪化したほか、無床診療所も9.3%から6.2%に悪化していると強調した。
◎OTC類似薬を含む薬剤の自己負担の見直し 「一定額の自己負担を追加的に求める」も一考
このほか新川財務次官は、OTC類似薬を含む薬剤の自己負担の見直しについて、「外来薬剤を対象として、一定額の自己負担を追加的に求めることも含めて検討すべき」と強調。さらに応能負担の観点から金融所得勘案や高齢者の自己負担割合の見直しも着実に進めていく必要があると述べた。