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HIMSS 26 医療AI導入の価値は「広義のROI評価が不可欠」 収益化のカギは組織変革と現場定着支援

公開日時 2026/03/13 04:51
米国ラスベガスで開催中の「HIMSS 26」は3月9日、医療機関や医療IT分野の経営幹部や上級管理職に限定したセッションが企画された。AIを医療機関の業務改革や新たな収益源として位置づけるべきかを問う討議では、登壇者から高機能なツールの導入だけでは成果は得られず、むしろ患者特性に即したサービス設計や現場スタッフの定着支援、人材の維持、明確なKPI設定など広義のROI評価が不可欠との認識が共有された。一方で、AIは医療を自動的に変える魔法の杖でなく、組織変革を伴って初めて戦略的価値を生むとの見方が示された。(米・ラスベガス発 森永知美)

◎患者起点を欠いたデジタル投資は定着しない

アルタメッド・ヘルス・サービシズのRay Lowe氏(SVP、CIO)は、期待通りの成果が得られなかった高額デジタル投資の一例として、パンデミック後に導入した初期の患者エンゲージメント・ツールを挙げた。オムニチャネル統合など見栄えの良い機能は備えていたが、予約への結びつきや継続利用といった面で定着せず、医療現場の変革につながらなかったという。この背景について同氏は、英語を話さないラテン系住民や、社会的に医療サービスにアクセスしにくい層が大半を占め、ツール自体がそうした人々向けに設計されていなかったとした。加えて患者教育の仕組みが脆弱だったと説明した。この発言に対し臨床側からは、医療者の説明を英語からスペイン語に翻訳するだけでも困難なのに、その上でAIやデジタルツールを使わせるのはさらに難しく、AIという概念自体が患者コミュニティーに自然に受け入れられるものではないという問題意識も示された。

◎AI導入の本質はテクノロジーそのものではなく、組織変革マネジメント

一方、臨床現場でのAI実装については、ツールそのものよりワークフローや組織変革の方が難題だとの指摘が共有された。パークランド・ヘルスのBrett Moran氏(SVP、CHO)は、「AIに“スイッチを入れて終わり”では部屋に爆弾を仕掛けて去るようなもの」と表現。適切な人に適切なツールを届けることが重要だとし、サービス利用者への支援、教育、監督が不可欠だと強調した。同氏はまた、同院でのAI導入の前提条件に「ユーザー教育」が組み込まれていると明かし、導入後の検証も継続的に行っているとした。

同院のJoe Longo氏(SVP、CDIO)も、「近年のIT部門は技術的な課題の解決よりも組織変革そのものが仕事になっている」と強調。期待される成果やツールの妥当性などを組織全体で共有することが重要と述べた。

◎AIは収益効果だけでなく人材維持にも資する

ROIを巡っては、CFOが求める短期的かつ定量的な成果であるハードROIと、AIが実際に価値を生むまでの時間差が論点となった。AI導入は契約、実装、現場定着を経て初めて生産性向上や成長につながるため、単年度で明確な財務効果を示すのは難しい。また、明確なKPIが設定されておらず、財務、業務、臨床が同じ成功指標を持たないことも問題だとの指摘もあった。
特にアンビエントAIのような診療記録支援AIは、医師が空いた時間を直ちに追加診療に振り向けるとは限らず、ハードROIでは説明しにくい。だが、こうしたテクノロジーは医師の負担軽減、患者との対話の質向上、医師の採用や定着の改善といった“ソフトROI”を持ち、現代の医療機関にとっては「新しい必要経費」ともいえる存在になりつつあるとされた。医師不足が進む中、記録作成の負担を減らすこと自体が臨床現場の持続性に直結するとの指摘もあり、AIの価値を単なる収益計算ではなく、競争力や人材維持の観点からとらえる必要性が示された。

◎AIの実利はケアギャップの是正と業務効率化

AIツール導入に伴う財務的・業務的インパクトはどこで生まれているのかという問いに、臨床医からはケアの質における指標の把握やケアギャップの是正といった事例があがった。特にプライマリケアでは、適切な検査や予防介入を促すことで、がんなどの疾患の早期発見・早期治療につながり、結果として患者転帰の改善と医療費抑制の両方に寄与するからだ。逆に、テクノロジー戦略を削減しなければならないとしたら何を残すかという質問には、複数の登壇者が、臨床応用よりアクセス改善やコンタクトセンター、自動化されたバックオフィスなど、業務・運用領域のテクノロジーを残した方が確実なROIを見込みやすいと訴えた。一方で、アンビエントAIについては、勤務時間外での記録作業の減少や医師の満足度向上の観点から維持すべきとの意見もあり、臨床支援AIの中でも優先順位に差があることがうかがえた。

◎AI活用を進めつつも、臨床意思決定には一線を引く

AIへの過度な期待に対する警戒感も示された。AIが診断や治療計画を全面的に担うという見方は「現時点では誇張だ」とし、あくまで医師を補助し、促し、業務負担を減らすための道具だと位置付けた。特にAIによるカルテ要約機能については、元の資料を読まずに要約だけで判断することによる“de-skilling”の危険が指摘された。AIを導入したくない領域には、臨床意思決定が真っ先にあがった。参加者からは、「患者の背景には社会経済的要因など医学教育だけでは扱いきれない要素が大きく、医療には依然としてデータ処理だけでは代替できない人間的な総合判断が必要である以上、最終判断をAIに委ねることには慎重であるべき」とされた。

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