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薬事サミットで厚労省森審議官「RWDの活用は研究開発費の合理化に資する」 RWDをエビデンスへ

公開日時 2017/10/30 03:51

厚生労働省の森和彦大臣官房審議官(医薬担当)は10月27日、京都市で開かれた薬事規制当局サミットシンポジウムで、「リアルワールドデータ(RWD)の活用は、研究開発費用の合理化に資する」と期待感を示した。厚労省は10月、医薬品の条件付き早期承認制度を導入した。研究開発費用を押し上げるフェーズ3などの検証的臨床試験を実施せずに早期の実用化を見込めるとともに、製造販売後の安全対策にRWDを活用することで、コスト軽減にもつながる。森審議官は、患者に早期に革新的新薬を届ける上で、迅速な承認に加え、価格の合理性の重要性を強調。革新的新薬についての先駆け審査指定制度も紹介し、規制当局として制度の透明性と予見可能性を高めることに注力している姿勢を欧米、アジア諸国にアピールした。製薬業界に対しては、「新しいアイディアのためにオープンな議論を続けてほしい」と呼びかけた。


◎研究開発費高騰が生む高薬価 規制当局も問題視


革新的新薬の登場が待たれる中で、研究開発費の高騰はグローバルでの課題となっている。これまで新薬承認に際しては、大規模な患者集団を対象としたランダム化比較試験(RCT)が行われるのが定石だった。RCTはエビデンスとしての質が高い一方で、患者登録に際しても試験期間、そしてコストを要する課題があった。さらに、実臨床で課題となる高齢者や肝機能・腎機能低下例などのデータを十分に集積できない現状があった。研究開発費が薬価に反映され、高薬価となり、結果として患者の新薬へのアクセスを阻んでいる実態もある。

HIV治療薬やC型肝炎治療薬などの高額薬剤が課題となっている米国食品医薬品局(FDA)のScott Gottlieb長官もビデオレターで、「治療費のせいで恩恵を受けられない人がいる。価格を考慮すべきだ」とのコメントを寄せた。森審議官も、「薬事規制当局の役割は直接的に値段に介入することではない。しかし、我々が行っている規制は、規制に対応するための開発する側のコストを生む。それがあまりにもコストが高いと製品価格の上昇につながり得る。規制当局が常に意識していることが必要だ」と述べた。


◎RWDの利活用 欧米、アジアも共通化に関心 日本が意見交換推進のリーダシップ


こうした課題を解決すると期待されているのが、RWDの活用だ。国内では、MID-NETやクリニカルイノベーション・ネットワークなど疾患レジストリの整備が進められている。制度面でも、条件付き早期承認制度など制度面での環境整備が進められている。欧米でもRWDの活用に着目した取り組みが進められている。欧州医薬品庁(EMA)のGuido Rasi長官も、「例えば15人しか患者がいないような疾患にはRWDを承認に使わざるを得ない。RWDをファーマビジランス(医薬品安全性監視)や承認だけでなく、賢く活用することで、重複業務を減らし、より早く、より効率的に医薬品を開発する方法を模索している」と述べた。

森審議官はシンポジウム後の会見で、電子カルテやレセプトデータなどは、構造化はされているものの、いかに標準化を進めるかが課題だと指摘した。その上で、国や地域を越えてデータベースを共通化する考えが出始めていると説明。多くの症例数が蓄積されることで、「稀だが重篤な副作用の発見や、長期にわたる患者のナチュラルヒストリーをクリアに示したり、臨床評価や臨床開発に効率よく活用することができる」と説明した。さらに、「RWDの活用で、合理的なコストでできるということを皆夢見ている。膝を突き合わせて話をする中で、米国も欧州もアジアの国も関心をもっていることがよくわかった」と続けた。

一方で、RWD利活用の範囲については、規制当局間で認識に差がみられた。特に、ソーシャルメディア(SNS)や患者会などで共有された情報は、構造化や標準化、信頼性などの課題はある一方で、感染症の拡大状況などを早期にキャッチアップできるなどの利点がある。

森審議官は、利活用の範囲と目的、手法について議論することの必要性を強調。こうした状況を踏まえ、薬事規制当局サミット(10月24、25日、京都市)では、RWDの範囲や、RWDをエビデンスとして活用するための収集・標準化・実証・検証などのプロセス、レジストリなどの基盤整備に向けて、日本がリーダーシップを取って国際シンポジウムを開催するなど、意見交換を推進することが合意された。

人工知能(AI)の登場などで、医薬品の研究開発がグーグル、アマゾン、アップルなどのIT企業との協業が視野に入ってきたことも話題となった。これまでの薬事規制の概念を超える製品が登場する可能性もある中で、「人工知能(AI)や通信業者と協業することも将来的にはあるのではないか。薬事の承認も、多くの変化を組み入れないといけない」とEMAのRasi長官は指摘。薬事サミットに続いて開催されたICMAR(薬事規制当局国際連携組織)会合では、日本が提案した活動計画書で「イノベーションプロジェクト」の始動が合意された。革新的技術を網羅的に調査し、規制に及ぼす評価を行うなどして、適切な規制構築に役立てる“ホライゾン・スキャンニング”について、方法論の分析などを行い、新たな時代のイノベーションにも率先して対応する考えだ。

◎再生医療等製品で国際的な規制緩和推進も


そのほか、サミットでは、再生医療等製品については、WHOやICH、IPRFなどの既存の国際的な枠組みを活用し、規制緩和を推進することも合意された。iPS細胞の応用など医薬品開発でも世界をリードする日本だが、制度面でも条件付き早期承認制度が導入されており、制度面でも改めて国際的な場面でリーダーシップを示した。また、薬剤耐性菌(AMR)についても、抗菌薬開発を促進するための臨床評価ガイドラインの整備などで、国際協力を推進することなどが合意された。


第12回薬事規制サミット(10月24、25日)、ICMRA(10月25、26日)と1週間続いた会合を振り返り、サミットで議長を務めた森審議官は「日本のイノベーションが世界のトップレベルにあるということを改めて認識を広めることにも成功した。日本で革新的新薬を開発していくことが、合理的で見通しが立った方法でやっていくということが示された。患者にとっても画期的な製品が目に見えて、見込みをもって自分たちのところに届くという期待にもなった」と述べた。

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