Special Report/米国アバスチン乳がん適応撤回のインパクト(上) (2/4)
公開日時 2012/03/05 04:01
日本の現状
◆日本人医師の目
トリプルネガティブの患者への治療選択肢としての意義は大きい
昭和大学医学部乳腺外科教授・昭和大学病院ブレストセンター長
中村清吾氏
ベバシズマブをめぐっては、これまでOSに有意差がついた臨床試験はなく、PFSも、日本を除く世界で実施された臨床第3相試験(P3)「E2100」以外は、残念ながら改善幅が大きいとは言えない結果だった。
日本では、国内で、対照群を置かずに、ベバシズマブの有効性・安全性を検討したP2と、世界で実施された3つのP3のブリッジングにより承認されているが、国内のP2については、長期病勢コントロールが可能な症例の存在などが評価されたのだろう。奏効する症例を特定できれば、十分に使える薬剤であることが示されていると考えている。
特に、トリプルネガティブ、あるいは範囲を広げるとHER2陰性の患者にとって、ベバシズマブが1つの手段として加わったことの意義は大きいと思う。トリプルネガティブの患者に対して、海外で処方可能となっているカルボプラチンも未承認のためだ。
◎一番の課題はバイオマーカーの特定
一番の課題は、バイオマーカーが特定されておらず、ベバシズマブを処方すべき患者集団が不明なことだ。研究がさかんなのにもかかわらず特定に至らないという厳しい現状だが、血管新生は、まだこれから進歩する学問であるため、検討を続けるべきだ。
血管新生阻害剤では、血管が減少するので、MRIなどの画像検査も、早期に効果を判断する上で有効だろう。
私自身は、基本的にトリプルネガティブ、あるいはホルモン受容体(ER)陽性で、治療選択肢が限られている患者に処方している。国内のP2では、致死性の重大な有害事象である消化管穿孔は1例も報告されていないが、出血、高血圧、消化管穿孔、血栓症などの特有の有害事象が発生する可能性があることを常に意識した上で、処方する患者を選択することが重要だと考えている。また今回、市販後調査の必要はないと判断されたと聞いているが、企業には、安全性の確保のために、是非とも市販後調査を実施し、迅速に情報提供してほしい。
日本では、パクリタキセルとの併用下で承認されているが、パクリタキセルが低用量でも効果を示す症例が存在する。これは、パクリタキセルの内皮細胞傷害性が、ベバシズマブ併用によって引き出されている可能性を示唆している。また、こうした症例ではパクリタキセルの副作用を懸念することなく効果を引き出せることに加えて、骨髄抑制もなく長期投与が可能であるため、QOLは良好である。ただ、劇的に切れ味がよい薬ではないため、3回程度の投与が必要だ。
患者特定への糸口として、直近で注目されるのは、トリプルネガティブ乳がんを対象としたアジュバント試験「BEATRICE」の成績である。
また、ネオアジュバント療法での抗腫瘍効果をベースにした解析も有用だ。すでに結果が発表された臨床試験「NSABP B-40」では、ER陽性でER陰性よりも有効性が高いことが示された。一方、「Gepar Quinto」ではトリプルネガティブでのみ有効だった。
2試験の結果は矛盾しているが、今後明らかになるであろうpCR症例の長期予後には、非常に注目している。pCR症例で長期予後が良好であれば、この薬剤の1つの投与方法の確立につながっていく可能性があると考えている。