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米ファイザーによるナイジェリアでの裏工作 ウィキリークスに掲載

公開日時 2010/12/22 04:00

約25万点もの米外交公電の公表を11月28日から開始したことで話題をさらっているウィキリークス。アメリカ政府が文書公開を強く非難したことはいうまでもないが、公表後には創設者のジュリアン・アサンジュ氏がスウェーデンから出された強姦容疑の逮捕状をもとにイギリスで逮捕される(既に釈放)という事態も起こり、一部では別件逮捕による圧力とも囁かれている。


そのウィキリークスが公表した外交公電の1つが現在世界ナンバーワンの製薬企業ファイザーによるアフリカのナイジェリアでの裏工作を暴露した。だが、そもそもなぜナイジェリアなのか?これを説明するためには、少し長くなるが時計の針を今から14年前に戻さなければならない。(ジャーナリスト 村上和巳)


◎1996年4月に大規模な細菌性髄膜炎が発生


ナイジェリアは現在人口では1億5473万人を有するブラック・アフリカ最大の国である。1960年の独立以来、4度のクーデターとビアフラ戦争を経験し、著しく政治的安定性を欠いている。そのナイジェリアの北部、隣国ニジェールとの国境に近い、落花生の生産で有名なカノ州で1996年4月、大規模な細菌性髄膜炎が発生した。


細菌性髄膜炎は全世界で発生しているものの、アフリカのサハラ砂漠以南、大西洋側のモーリタニア南部からギニアにかけての地域からエリトリア南部・エチオピア・ケニア北部にかけて東西に横切る一帯は、乾季の12月~6月に髄膜炎の大流行が起こる、通称「髄膜炎ベルト」と呼ばれているほどだ。カノ州はまさにこの髄膜炎ベルトのど真ん中にあり、96年の髄膜炎も4月に発生し、犠牲者は約3000人にものぼった。


この時、現地入りしたのがファイザーのチームだった。当時ファイザーはニューキノロン系抗菌薬トロバフロキサシンの臨床試験を行っており、カノ感染症病院で髄膜炎感染者の中から1~13歳までの200人の幼児を選別、うち100人に対しトロバフロキサシン、残る100人に対しては血液脳関門の通過性が高いとして髄膜炎治療に用いられていた第3世代セファロスポリン系抗菌薬セフトリアキソンを投与した。ファイザーがこのような投薬を行ったのは、小児の細菌性髄膜炎に関するデータ収集が目的だったという。


1997年12月、トロバフロキサシンは商品名・トロバンとしてFDAに認可された。認可時の適応症は14で、抗菌薬の最初の認可適応症数としては過去最高。このことは同社のHPでも誇らしげに強調されている。翌98年6月にはヨーロッパでも承認を受けたが、いずれでもナイジェリアのカノ州で収集したデータなどに基づく小児への適応は認められなかった。


それでも1998年の1年間でトロバンの売上高は1億8000万ドル超となり、年間10億ドルを超えるブロックバスター入りも時間の問題とまで言われた。


ところが1999年6月、FDAはトロバンの投与との関連が疑われる致死的な急性肝障害による14例と6例の死亡例発生を公表し、この直後には欧州医薬品庁が12か月間の発売中止を決定する。


◎連邦高等裁判所にファイザー社を提訴 総額7500万ドルの損害賠償支払いで和解


追い打ちをかけるように2000年に入り、このナイジェリアでの臨床試験でトロバフロキサシン群5人、セフトリアキソン群6人で死者が発生、残りの幼児にも難聴、まひ、失明、脳障害などの後遺症が発生したこと、また試験が現地の保健当局の承認を経ておらず、投与された幼児の親からの同意取得も不十分だったと報じられた。ファイザーは現地保健当局から承認は得ており、親へは臨床試験であると説明したこと、さらに死亡と薬剤投与に因果関係はないと主張した。ただ、後に明らかになったのは、臨床試験を承認したとするカノ感染症病院の倫理委員会が当時存在せず、文書は偽造されたものだったということだ。


01年8月29日、トロバンを投与された幼児の親ら約30人がファイザーに損害賠償を求めて米マンハッタン連邦裁判所に提訴したが、05年に原告敗訴で終結した。しかし、ナイジェリアでは07年6月、カノ州政府がカノ州裁判所に、連邦政府がナイジェリアの首都アブジャにある連邦高等裁判所にファイザー社を民事と刑事で提訴する。民事で請求した損害賠償額はカノ州が27億5000万ドル、連邦政府が69億5000万ドル。


最終的に09年3月、ファイザーは総額7500万ドルの損害賠償をカノ州に支払うことで和解し、連邦政府側は同年10月に訴訟取り下げで幕引きとなった。


◎ウィキリークスから明らかになったもの


しかし、これらの水面下で驚くべき動きが起きていたのだ。ウィキリークスが12月9日、09年4月20日16:00にナイジェリアの在アブジャ米大使館から発信された公電にその一端が記されていた。「秘(CONFIDENTIAL)」と記されたその公電のタイトルは「SECTION 01 OF 02 ABUJA 000671」


この中では米ナイジェリア大使がファイザーの担当弁護士と面会し、カノ州との和解金の内訳が訴訟費用分として1000万ドル、カノ州政府への賠償金が3000万ドル、被害者やその家族向け賠償金が3500万ドルであり、被害者と遺族への賠償金支払いについては中立の第3者による基金を通じて支払おうと取り組んでいるとの説明を受けたことが記述されている。


基金を通じた支払いを模索していることは、少しでもナイジェリアの実状を知る人からすれば頷けるものだろう。
そもそもナイジェリアはブラック・アフリカでも有数の汚職・腐敗が指摘される国。有名な話では、旧首都ラゴスの国際空港到着後、到着ゲートを出るまで数百ドルが消える。これは入国審査から税関、あらゆるところで賄賂目的の嫌がらせを受けるので、それを切り抜ける賄賂代がかさむということである。しかも、係官らは「職員に賄賂は払わないでください」と書かれた張り紙の目の前で堂々と賄賂を要求するのだから始末が悪い。


被害者・家族への賠償金を現地当局に支払えば、下に降りるたびに金額が少なくなり、最悪当人たちの手には渡らないとファイザーが危惧するのは、こうしたナイジェリアの実態を考えれば、極めてまっとうな対応ともいえる。
一方で弁護士側からは、カノ州との和解は、60年代半ばから70年代半ばにかけてのナイジェリア軍政時代のトップであるヤコブ・ゴウォン氏を仲介者として実現したもので、それにより賠償要求額7500万ドルまで下げさせたことや、ゴウォン氏がナイジェリアのウマル・ヤルドゥア大統領に接触し、連邦政府の提訴取り下げを確信しているとも伝えられたとしている。


この点についても物事との交渉という観点から概観すれば、取り立てて倫理性や違法性を問われるものでもないだろう。


だが、問題はこの公電の5項目に記述された大使館経済部とファイザーの現地責任者・Enrico Liggeri氏が4月9日にラゴスで面談した際の内容だ。公電によると、Liggeri氏は、ファイザーがカノ州との和解については必ずしも満足はしていないが、訴訟が長きにわたるものとなっており、訴訟関連費用が年間1500万ドルもかかっていることから、和解額はリーズナブルだと語っている。


その一方でLiggeri氏は、連邦の訴訟担当者でもあるMichael Aondoakaa法務大臣に提訴取り下げの圧力をかけるためにファイザーが調査員を雇って、Aondoakaa法相の汚職歴などを調査していると説明。その結果得た情報を地元メディアに流し、同年2月と3月にAondoakaa法相の汚職に関する記事が掲載されたと語ったとしている。さらにLiggeri氏は、Aondoakaa法相により打撃を与える情報を入手していると明言し、既に続報を危惧するAondoakaa法相の取り巻きが提訴取り下げを進言していると説明したことを記述している。


まるでスパイ映画ばりの謀略であり、世界を代表するファイザーの対応としては、なんとも頂けない話。だが公電では、Liggeri氏のプロフィールについて「1960年代前半から1980年代後半まで家族がラゴスでビジネスをしていたことから、幼少期のほとんどをラゴスで過ごしている」と記述していることから、相当な現地通と見られる。このためこの謀略がファイザー本体の意志とは無関係にLiggeri氏が独走したと考えることもできる。

しかし、この一件を受けてのファイザーの英紙ガーディアンに対する公式コメントも頂けないものだ。「公電はまだ見ていないが、その内容はおそらく完全に誤ったものである」。見てもいないということは、Liggeri氏に調査もしていないと受け取られても仕方あるまい。にもかかわらず誤ったものとはいかなる了見だろう?

ちなみに公電の中ではLiggeri氏は米大使館員に対し、ナイジェリア政府の提訴は極めて政治的なもので、「今回の訴訟によって国際的製薬企業はもはやナイジェリアでの臨床試験を歓迎しないという、ぞっとするほどの効果をもたらすことになる。もはや髄膜炎の流行が起きてもいかなる企業もナイジェリアを援助しないだろう」と、極めつけの上から目線で語っている。


しかし、これらLiggeri氏やファイザーの「ぞっとする」見解は、徐々に患者が薬、引いては製薬企業を選ぶ時代になっているという視点が決定的に欠けた「完全に誤った」態度とはいえないだろうか。少なくとも一連の事態を見た人間が今後、「リピトール・ショック」で窮地に立つであろうファイザーに同情を寄せることも手を差し伸べることもないだろう。
 

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