新薬12製品を収載へ 2製品でピーク時売上100億円超と予測
公開日時 2019/08/29 03:52
厚生労働省の中医協総会が8月28日に開かれ、新薬12製品(12成分17品目)を薬価収載することを了承した。同省は9月4日に収載する予定。
指定難病の発作性夜間ヘモグロビン尿症に用いるユルトミリス点滴静注(アレクシオンファーマ)の薬価は300mg30mL1瓶で71万7605円となり、ピーク時売上は10年後に331億円になると予測した。ピーク時売上で100億円を超えるとしたのは、同剤と、ICS/LAMA/LABAの3剤配合COPD治療用吸入薬ビレーズトリエアロスフィア56吸入(アストラゼネカ)の2剤。ビレーズトリエアロスフィアは10年後に売上189億円と見込んだ。
今回薬価収載が了承された新薬には、がん腫を問わず、NTRK融合遺伝子陽性の進行・再発固形がんに用いるロズリートレクカプセル(中外製薬)や、国内初の肝類洞閉塞症候群(肝中心静脈閉塞症)治療薬デファイテリオ静注(日本新薬)、同じく国内初のインスリンとGLP-1受容体作動薬との配合注射薬のゾルトファイ配合注(ノボ ノルディスク)などがある。
収載される製品は以下のとおり(カッコ内は成分名と薬価収載希望会社)
▽ミニリンメルトOD錠25µg、同50µg(デスモプレシン酢酸塩水和物、フェリング・ファーマ)
薬効分類:241(脳下垂体ホルモン剤(内用薬))
効能・効果:男性における夜間多尿による夜間頻尿
薬価:25μg1錠59.50円
50μg1錠100.00円(1日薬価:100.00円)
市場予測(ピーク時10年後):投与患者数12万人、販売金額20億円
加算:なし
既存の60μg、120μg、240μg製剤は、尿浸透圧あるいは尿比重の低下に伴う夜尿症と、中枢性尿崩症を効能・効果としている。今回の適応追加に伴い、25μgと50μgの規格を追加した。1日1回就寝前に50μgを経口投与する。なお25μg製剤、50μg製剤は、既存の効能・効果には使えない。
低用量のOD錠が開発された経緯は、夜間頻尿の治療に既存の規格を用いると、低ナトリウム血症の発現リスクがあるため。既存のままでは、65歳以上の高齢者が同剤で治療を開始することを推奨しておらず、高齢者に対する適切な治療が求められていた。フェリングはOD錠の25µgと50µg製剤について、キッセイ薬品とコ・プロモーションする。
▽ヴァンフリタ錠17.7mg、同26.5mg(キザルチニブ塩酸塩、第一三共)
薬効分類:429(その他の腫瘍用薬(内服薬))
効能・効果:再発又は難治性のFLT3-ITD変異陽性の急性骨髄性白血病
薬価:17.7mg1錠1万9694.90円
26.5mg1錠2万6582.10円(1日薬価:5万3164.20円)
市場予測(ピーク時10年後):投与患者数211人、販売金額5.7億円
加算:新薬創出等加算(主な理由:希少疾病用医薬品)
がんの増殖に関与するとされるFLT3の働きを阻害し、増殖を抑えると考えられている。1日1回26.5mgを2週間経口投与し、それ以降は1日1回53mgを経口投与する。
急性骨髄性白血病(AML)は、骨髄における白血病細胞の異常な増殖の結果、正常な血液細胞の産生が著しく阻害され、治療しないと短期間で致死的になる予後不良な血液疾患。FLT3-ITD変異はAML患者の約25%に認められるとされる。FLT3-ITD変異を有する患者は、変異のない患者と比べ、再発率が高く生存期間が短いとされている。
▽ロズリートレクカプセル100mg、同200mg(エヌトレクチニブ、中外製薬)
薬効分類:429(その他の腫瘍用薬(内服薬))
効能・効果:NTRK融合遺伝子陽性の進行・再発固形がん
薬価:100mg1カプセル5214.20円
200mg1カプセル 9889.90円(1日薬価:2万9669.70円)
市場予測(ピーク時10年後):投与患者数142人、販売金額11.7億円
加算:有用性加算(II)(A=10%)、先駆け審査指定制度加算(A=10%)、新薬創出等加算(主な理由:希少疾病用医薬品、加算適用品)
有用性加算(II)(A=10%):理由「本剤は受容体型チロシンキナーゼ(TRK)を阻害する新規作用機序医薬品である。また、本剤は、標準的治療法が存在しない乳腺分泌癌等の患者のうち、NTRK融合遺伝子が陽性の患者で一定の奏効率が見られたことから、臨床上有用な新規作用機序を有する医薬品であり、有用性加算(II)(A=10%)を適用することが適当と判断」
先駆け審査指定制度加算(A=10%):理由「本剤は、新規の作用機序を有し、世界に先駆けて日本で承認されたものである一方で、『日本における承認事項の基礎となった臨床試験』に該当する中核的な探索的試験において、安全性の解析対象とされた日本人患者は16例と限られていることから、限定的な評価とした」
がん腫を問わない抗がん剤となる。NTRK融合遺伝子から作られる融合TRKにより、がん細胞の増殖が促進されると考えられている。同剤はTRKの働きを阻害し、増殖を抑えるとされる。NTRK融合遺伝子を標的にする初の薬剤となる。
NTRK融合遺伝子は、様々な固形がんで認められるが、非小細胞肺がんや結腸・直腸がんなどの患者数の多いがん種では1%未満とされる。一方で、患者数の少ない神経内分泌腫瘍、唾液腺がんでは多く認められるという。
▽オンパットロ点滴静注2mg/mL(パチシランナトリウム、Alnylam Japan)
薬効分類:129(その他の末梢神経系用薬(注射薬))
効能・効果:トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー
薬価:8.8mg4.4mL1瓶98万6097円(1日薬価:8万40円)
市場予測(ピーク時10年後):投与患者数279人、販売金額89億円
加算:有用性加算(I)(A=40%)、新薬創出等加算(主な理由:希少疾病用医薬品)
有用性加算(I)(A=40%):理由「本邦で初めてのsiRNAの核酸医薬品であり、既存の薬剤とは全く異なる新規の薬理作用を有すると認められる。また、本剤は既存治療薬と異なり、遺伝子変異型や疾患の進行程度などに左右されることなく、トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー患者への有効性が示されていること等から、治療方法の改善が客観的に示されていると認められる。以上を踏まえ、有用性加算(I)A=40%が妥当と判断」
適応疾患は、トランスサイレチンタンパク由来の不溶性線維状タンパクの末梢神経や各種臓器への沈着により発症する。生存期間の中央値は診断後4.7年との報告もある。症状としては感覚消失、異常感覚などの全身性の感覚神経障害、運動神経障害、自律神経障害、心筋症などの臓器障害など。同剤は、RNA干渉によりトランスサイレチンタンパクの発現を抑える。
▽デファイテリオ静注200mg(デフィブロチドナトリウム、日本新薬)
薬効分類:391(肝臓疾患用剤(注射薬))
効能・効果:肝類洞閉塞症候群(肝中心静脈閉塞症)
薬価:200mg2.5mL1瓶5万3108円 市場予測(ピーク時3年後):投与患者数268人、販売金額23.6億円
原価計算方式で算定
加算:有用性加算(II)(A=10%)、市場性加算(I)(A=10%)、新薬創出等加算(主な理由:希少疾病用医薬品)
有用性加算(II)(A=10%):理由「日本では肝類洞閉塞症候群の治療を効能・効果として承認されている薬剤はないこと、海外の診療ガイドラインにおいて本剤が標準的治療法として推奨されていることから治療方法の改善が示されていると判断し、有用性加算(II)(A=10%)を適用することが適当と判断」
市場性加算(I)(A=10%):理由「希少疾病用医薬品の指定を受けていることから加算の要件を満たす。ただし、症例数が限られて市場規模が小さいことは原価計算方式の計算の中で価格に反映されていることを踏まえて、限定的な評価とした」
この疾患は、血液がんなどの治療に実施される造血幹細胞移植の合併症として知られている。症状は、ビリルビン値の上昇、体重増加、肝腫大、腹水、黄疸などだが、重症の場合は多臓器不全により死亡率が80%に至る。同疾患に適応のある承認薬はない。医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議を経て、厚労省が開発要請した品目。
▽ゾルトファイ配合注フレックスタッチ(インスリン デグルデク(遺伝子組換え)/リラグルチド(遺伝子組換え)、ノボ ノルディスクファーマ)
薬効分類:396(糖尿病用剤(注射薬))
効能・効果:インスリン療法が適応となる2型糖尿病
薬価:1キット5293円(1日薬価:882円)
市場予測(ピーク時5年後):投与患者数3.8万人、販売金額62億円
加算:なし
持効型インスリンアナログのトレシーバ(インスリン デグルデク(IDeg))と、GLP-1受容体作動薬ビクトーザ(リラグルチド(Lira))を固定比率で配合した注射剤。IDeg1単位にLira0.036mgを固定比率で配合しており、IDeg1~50単位/Lira0.036~1.8mgの範囲で患者の状態に応じた用量調節ができる。初めてのインスリンとGLP-1受容体作動薬の配合剤。
▽ユルトミリス点滴静注300mg(ラブリズマブ(遺伝子組換え)、アレクシオンファーマ):
薬効分類:639(その他の生物学的製剤(注射薬))
効能・効果:発作性夜間ヘモグロビン尿症
薬価:300mg30mL1瓶71万7605円(1日薬価13万3587円)
市場予測(ピーク時10年後):投与患者数731人、販売金額331億円
加算:有用性加算(II)(A=5%)、新薬創出等加算(主な理由:希少疾病用医薬品)
有用性加算(II)(A=5%):理由「本剤の投与間隔は8週間に1回であり、比較薬のエクリズマブ(遺伝子組換え)と比べると注射の頻度が4分の1となって患者負担の軽減につながることから、対象疾病等の治療方法の改善に該当し、有用性加算(II)(A=5%)を適用することが適当と判断」
適応疾患は、後天的な遺伝子の突然変異で、慢性的な血管内溶血(赤血球破壊)を引き起こす造血幹細胞疾患で、指定難病。
▽ロナセンテープ20mg、同30mg、同40mg(ブロナンセリン、大日本住友製薬)
薬効分類:117(精神神経用剤(外用薬))
効能・効果:統合失調症
薬価:20mg1枚278.40円
30mg1枚401.30円
40mg1枚520.20円(1日薬価:1040.40円)
市場予測(ピーク時7年後):投与患者数2.8万人、販売金額66億円
加算:なし
ロナセンは同社が創製した非定型抗精神病薬。すでに錠剤が承認されている。テープ剤は40mgを1日1回貼付し、患者の状態に応じて最大80mgを1日1回貼付できる。24時間ごとに貼りかえる。経口剤に比べて食事の影響を受けにくく、食生活が不規則な患者や、経口服薬が困難な患者への投与を可能にする。
▽アジマイシン点眼液1%(アジスロマイシン水和物、千寿製薬)
薬効分類:131(眼科用剤(外用薬))
効能・効果:結膜炎、眼瞼炎、麦粒腫、涙嚢炎
薬価:1%1mL302.20円(1日薬価19.40円)
市場予測(ピーク時10年後):投与患者数208万人、販売金額15.7億円
加算:小児加算(A=5%):理由「小児に係る用法・用量が明示的に含まれていること、比較薬は小児加算を受けていないことから、加算の要件に該当。加算率については、国内臨床試験で7歳未満の小児が組み入れられておらず、これらの患者への投与は不適切と評価されていること等から、5%が妥当であると判断」
同成分を含有する経口剤、注射剤はすでに承認されている。
▽ビベスピエアロスフィア28吸入、同120吸入(グリコピロニウム臭化物/ホルモテロールフマル酸塩水和物、アストラゼネカ)
薬効分類:225(気管支拡張剤(外用薬))
効能・効果:慢性閉塞性肺疾患(慢性気管支炎、肺気腫)の気道閉塞性障害に基づく諸症状の緩解(長時間作用型吸入抗コリン剤及び長時間作用性吸入β2刺激剤の併用が必要な場合)
薬価:28吸入1キット1780.30円(1日薬価254.30円)
市場予測(ピーク時10年後):投与患者数37.5千人、販売金額23億円
加算:なし
長時間作用性抗コリン剤(LAMA)と長時間作動型β2刺激剤(LABA)の配合吸入薬。
▽ビレーズトリエアロスフィア56吸入、同120吸入(ブデソニド/グリコピロニウム臭化物/ホルモテロールフマル酸塩水和物、アストラゼネカ)
薬効分類:229(その他の呼吸器官用薬(外用薬))
効能・効果:慢性閉塞性肺疾患(慢性気管支炎、肺気腫)の諸症状の緩解(吸入ステロイド剤、長時間作用型吸入抗コリン剤及び長時間作用性吸入β2刺激剤の併用が必要な場合)
薬価:56吸入1キット4074.80円(1日薬価291.10円)
市場予測(ピーク時10年後):投与患者数222千人、販売金額189億円
加算:新薬創出等加算(主な理由:加算適用品等の収載から3年以内3番手以内)
吸入ステロイド剤(ICS)、長時間作用性抗コリン剤(LAMA)、長時間作動型β2刺激剤(LABA)の3剤配合吸入薬。
▽イナビル吸入懸濁用160mgセット(ラニナミビルオクタン酸エステル水和物、第一三共)
薬効分類:625(抗ウイルス剤(外用薬))
効能・効果:A型又はB型インフルエンザウイルス感染症の治療
薬価:160mg1瓶4164.40円(1日薬価4164.40円)
市場予測(ピーク時2年後):投与患者数74万人、販売金額31億円)
加算:新薬創出等加算(主な理由:新薬創出等加算を受けている製剤の剤型追加)
既存薬も吸入剤だが、同剤ではネブライザーに懸濁した薬液を投入し、霧状にすることで、自発呼吸で薬剤を吸い込めるよう設計した。5歳未満の小児や、気管支喘息など肺機能が著しく低下する呼吸器疾患を合併している患者でも使いやすくする。既存薬では添加剤として乳糖水和物を含有していたため、乳製品に対し過敏症の既往症がある患者は、慎重投与とされていたが、今回の新製剤には添加されておらず、慎重投与扱いにはならない。