諮問会議 ポストコロナで医療・介護のデジタル化に集中投資 オンライン診療や薬剤配送も議論に
公開日時 2020/06/23 04:52
政府の経済財政諮問会議が6月22日開かれ、「経済財政運営と改革の基本方針2020」(骨太方針)の骨子案について議論した。骨子案は、ポストコロナ時代の新たな日常の実現に向け、デジタル化に集中投資することが柱だ。加藤勝信厚労相は、電子処方箋のシステムの運用開始を2022年夏に前倒しすることを表明し、システム構築に急ぐ姿勢を強調した。あわせて、PHRの整備も進める考えで、今年度中に費用負担や運営主体などについて関係者と調整を進め、21年の通常国会に関連法案を提出する方針。この日はオンライン診療や薬剤配送も議論の俎上にのぼり、医療・介護分野のデジタル化が一気に加速する可能性が高まった。
◎安倍首相が「第2波」に備えデジタル化の加速を指示
「医療・介護のデジタル化を進めていくことは、感染症の第2波の到来など、今後あり得る危機に備えるためにも極めて重要だ」―。安倍晋三首相はこう述べ、加藤厚労相にデジタル化を加速させることを指示した。
厚労省は、オンライン資格確認やマイナンバー制度など既存のインフラを最大限活用し、電子処方箋や医療情報を共有する仕組みを前倒しして構築する考えを、この日の諮問会議で示した。電子処方箋については、2023年度の運用開始を見込んでいたが、22年夏に前倒しする。
◎電子処方箋の運用開始を22年夏に前倒し オンライン診療・服薬指導浸透も
これまでは患者や患者家族が医療機関で処方箋を受け取り、薬局で渡す必要があった。処方箋情報も限られており、重複投薬などが起きる可能性を否定できなかった。新たに構築するシステムでは、医療機関や薬局が処方時、調剤時に処方情報や調剤情報を閲覧でき、重複投薬の解消が期待できる。オンライン診療や服薬指導の円滑な実施など、患者の利便性が向上することも期待できる。
また、患者や全国の医療機関で医療情報を確認できる仕組み(EHR)の構築も加速させる考えだ。特定健診情報(21年3月スタートを予定)、レセプト記載の薬剤情報(21年10月スタートを予定)に加え、手術や移植、透析、医療機関名に共有する情報へと22年夏を目途に拡大する考えだ。
◎PCやスマホで患者自身が医療情報を閲覧・活用の仕組み構築へ
一方、患者自身がPCやスマホを活用して医療情報を閲覧・活用する仕組み(PHR)についても、乳幼児健診情報(20年6月スタートを予定)、事業主健診(21年3月スタートを予定)に加え、がん検診、肝炎ウイルス検診、骨粗鬆症検診、歯周疾患検診情報へと22年度早期にも順次拡大する方針だ。
こうした基盤整備を進めることで、患者自身の健康意識を高めるとともに、共有化された医療情報を活用し、かかりつけ医が職能を発揮する姿を描く。これにより、重複投薬や検査などを防ぎ、最適な医療を提供することも視野に入れる。さらに情報の共有化が全国に広まることで、新型コロナウイルス感染症で対面診療が難しいケースだけでなく、地震などの自然災害や救急搬送時などで、かかりつけ医以外が診察する場合であっても、より適切で迅速な検査や診断、治療できるよう後押しする。
新型コロナウイルスをきっかけに、医療提供体制を再構築する必要性が指摘されるなかで厚労省は、デジタルを活用した情報共有を通じ、“新たな日常”に対応する強靭な社会保障を構築する考えだ。こうした医療提供体制を構築することで、疾患の重症化を抑制し、予防や共生が進む、健康長寿社会の実現を見据える。
民間議員もこの日の諮問会議で、「オンライン診療や電子処方箋の発行に要するシステムの導入を支援すべき」、「電子処方箋は新たな日常の早期活用に向け、既存の仕組みを効率的に活用しつつ、3年後の実施開始を前倒しすべき」と提案していた。
閣議後会見で西村康稔経済再生担当相は、オンライン診療について院内感染を防ぐためにも重要との考えを示し、「後戻りさせないという姿勢で取り組んでいきたい」と意欲をみせた。薬剤配送についても、「タクシー業界から、配送ができないかという相談も受けている」ことも明かした。タクシーによる食品の宅配なども行われているなかで、医薬品についても「手続きさえ踏めば、今のルールで可能」との見方を示し、実現に向けた課題についても様々な意見を踏まえて検討する考えを示した。
◎7月上旬に都道府県の病床確保計画を策定
骨太方針の骨子案では、「医療提供体制の強化」を柱の一つに据える。厚労省は医療提供体制の構築について、「都道府県が主体」となって推進することを基本とすることを強調。新型コロナウイルス感染症との共存も見据えた中長期的な目線で体制整備を進める考えを示した。7月上旬に都道府県における病床確保計画を策定し、7月末にも体制整備を進める考えを示した。
民間議員は、緊急時に柔軟な対応を可能に必要する必要性を指摘。「都道府県が二次医療圏の病床や検査能力等の迅速な状況把握と必要な調整を円滑に行えるようにすべき」、「首都圏や関西圏等において、医療機関間での医療従事者協力などを都道府県間で調整できる仕組みを構築すべき」、「都道府県を超えた病床や医療機器の利用、医療関係者の配置等を功労大臣が調整する仕組みを構築すべき」などと提案している。
このほか、21年度にも導入が予定される薬価毎年改定(中間年改定)の薬価調査についての意見も出たが、製薬業界などの声を踏まえた対応を求める声があった一方で、「薬価調査は毎年実施すべきだ」との意見もあったという。