アステラス製薬・20年度上期 国内21%減収 販売提携終了、セレコックス後発品の影響大きく
公開日時 2020/11/02 04:50
アステラス製薬は10月30日、2021年3月期(20年度)第2四半期決算を発表し、国内売上は1442億円、前年同期比21.3%減となった。これまで売上計上していた喘息薬シムビコート、ワクチン及び血漿分画製剤、降圧剤ミカルディスファミリーの販売提携が終了。加えて20年6月に消炎鎮痛薬セレコックスに後発品が参入した減収影響も大きく、新薬群の伸長をもってしてもカバーできなかった。一方で、同社はこの日、尿路上皮がんなどで開発中の抗体薬物複合体・エンホルツマブ ベドチンがピーク時売上3000~4000億円が見込まれるとの最新の予測を示し、下期に日米欧で承認申請することを明らかにした。主力の前立腺がん治療薬イクスタンジとともに、泌尿器領域のがん治療薬で成長路線を描く。
アストラゼネカが製造販売元のシムビコートとKMバイオロジクスの血漿分画製剤はそれぞれ19年7月に、KMバイオのワクチンは19年3月に、日本ベーリンガーインゲルハイムが製造販売元のミカルディスファミリーは20年3月に、それぞれ販売提携が終了した。シムビコートの19年度上期売上は141億円、ミカルディスは同96億円だったが、今期はゼロ。後発品が参入したセレコックスの20年度上期売上は142億円で、前年同期比45%減だった。
国内新薬群の上期売上は、イクスタンジが199億円(前年同期比6.5%増)、2型糖尿病薬スーグラファミリーが138億円(18.2%増)、イベニティが127億円(33.9%増)、過活動膀胱薬ベタニスが166億円(6.9%減)――などとなった。なお、国内の通期計画は2817億円、前年同期比18.4%減となる。
■面会+デジタルで
同社の松井幸郎・販売統括担当CCOはこの日の電話会議システムを用いた決算会見で、コロナ禍における営業活動について、私見を交えて話した。
全体的には、「幸いにしてデジタル環境が整っていたので、比較的速やかに情報伝達の方法を増やせたと思う」としたが、19年11月発売の新規機序の経口腎性貧血薬エベレンゾを引き合いに、「新しいメカニズムの製品は、今まで直接的なインタラクションのなかった先生に対して、デジタルだけでは十分な情報伝達ができないというところもあった」と振り返った。特に新製品の営業はデジタルだけでは難しい面もあるとの認識を示した格好だ。
そして、「今では徐々にクリニックなどでMRが普通に面会できる率が上がってきている。このあたりはデジタルと合わせた情報伝達活動をしていきたい」と話し、顧客と関係性を構築した後にマルチチャネルで展開していく構えをみせた。
■安川社長 ADCエンホルツマブ ベドチンに「有望なデータ出た」
国内事業は当面、厳しい状況が続く見通しだが、研究開発では泌尿器領域で大型化が期待されるグローバル開発品に進展がみられた。安川健司社長CEOは会見で、重点後期開発品のひとつの抗体薬物複合体(ADC)・エンホルツマブ ベドチンについて、ピーク時に最大4000億円の売上げが期待できると話した。同剤の開発当初はピーク時500~1000億円、19年10月に1000~2000億円のポテンシャルとしていたが、今回大きく上方修正したことになる。
上方修正の理由について安川社長は、▽転移性尿路上皮がんを対象とした第3相試験「EV-301試験」▽筋層潤滑性膀胱がんを対象に同剤と抗PD-1抗体ペムブロリズマブ(国内製品名:キイトルーダ)との併用療法を評価した第1b/2相試験「EV-103試験」――で、「有望な結果が出たため」と話すとともに、中国での開発のメドがたったことも理由に挙げた。
エンホルツマブ ベドチンは、ほぼ全ての尿路上皮がん細胞に発現し、細胞間の接着に関連するタンパク質であるネクチン-4を標的とするファーストインクラスのADC。
EV-301試験は、白金製剤及び抗PD-1抗体薬/抗PD-L1抗体薬による治療歴がある転移性尿路上皮がん患者を対象にした化学療法との比較試験で、中間解析では主要評価項目のOS(HR=0.70;p=0.001)、副次評価項目のPFS(HR=0.61;p<0.00001)とも有意な延長がみられた。
安川社長は、EV-301試験の結果をもって年度内に、迅速承認されている米国では正規承認に変えるための承認申請を行い、日本と欧州でも承認申請する予定と説明した。中国当局との臨床開発の相談も進んでいるとした。
アンメットニーズの高い筋層浸潤性膀胱がんに対する同剤とペムブロリズマブとの併用療法を評価する「EV-103試験」では、転移性尿路上皮がん一次治療としての評価において、ORR(客観的奏効率)が70%超とのデータが示された。安川社長は、「この併用は獲得免疫を介して抗腫瘍活性を増強する可能性が非臨床試験で示唆されている」とも紹介し、両剤による併用療法の可能性を追求していく考えを示した。
■20年度上期連結業績 減収、2ケタ減益
同社の20年度上期の連結業績は、売上6155億円(前年同期比5.4%減)、営業利益869億円(46.4%減)――などと減収、各利益段階で2ケタ減益となった。
がん領域の新薬を中心に伸長。特にイクスタンジは全地域で増収を達成し、売上2255億円(15.6%増)と成長を続けた。しかし、国内の減収や、米国で新型コロナによる受診抑制に伴う需要減のため心機能検査補助剤レキスキャンの減収もあり、全体としては厳しい業績となった。
利益面は、イクスタンジの米国での売上拡大に伴う共同販促費の増加、重点後期開発品の開発費用の増加、20年1月に買収したAudentes社の研究開発費が加わったこともあり、利益を押し下げた。
■「バイオエレクトロニクスの基盤技術と人材得た」
このほか、米国時間の10月29日に、バイオエレクトロニクス分野に特化した米国スタートアップ企業のアイオタ・バイオサイエンシズ社の買収が完了し、完全子会社化した。アステラスは、医療用医薬品(Rx)事業で培った強みをベースに、最先端の医療技術と異分野の先端技術を融合させることで医療シーン全般において患者に貢献し、かつ単独で収益を生み出す「Rx+事業」を推進しており、アイオタの買収はその一環となる。
アイオタは、電力供給および無線通信に超音波を用いた独自の技術を活用し、バッテリーやケーブルの搭載が不要な数ミリ以下の極小サイズの体内埋め込み型医療機器の開発を行っている。
安川社長は、「体内に留置した機器から局所でのセンシングや電気による生体組織への部位特異的刺激が可能になる」とし、「将来的にはセンシングと刺激を組み合わせた自立制御型医療システムへの展開を期待している」と述べた。さらに、アイオタの買収により、「バイオエレクトロニクスの基盤技術と世界トップの人材を獲得した。Rx+プログラムのコアケーパビリティのひとつとしての中核拠点化を目指す」とも話した。
【20年度第2四半期連結業績 (前年同期比) 通期予想(前年同期比)】
売上高6154億8000万円(5.4%減) 1兆2565億円(3.4%減)
営業利益868億7200万円(46.4%減) 2105億円(13.7%減)
親会社帰属純利益728億3800万円(43.3%減) 1695億円(13.3%減)
【20年度第2四半期のグローバル主要製品売上(前年同期実績) 通期予想、億円】
イクスタンジ 2255(1950) 4646
ゾスパタ 110(57) 231
PADCEV 60(-) 130
ベタニス/ミラベトリック/ベットミガ 800(788) 1679
ベシケア 162(251) 300
プログラフ 896(962) 1820
ハルナール/オムニック 202(222) 391
ファンガード/マイカミン 139(178) 231
エリガード 61(69) 123
【20年度第2四半期の国内主要製品売上(前年同期実績) 通期予想、億円】
グローバル品
イクスタンジ 199(187) 389
ゾスパタ 18(13) 32
ベタニス 166(179) 342
ベシケア 94(106) 171
プログラフ(グラセプター含む) 211(229) 405
ハルナール 16(22) 26
ファンガード 29(39) 36
ローカル品
スーグラファミリー 138(117) 303
うち、スージャヌ 55(42) 非開示
レパーサ 24(15) 非開示
リンゼス 31(27) 66
ビーリンサイト 22(22) 非開示
イベニティ 127(95) 非開示
セレコックス 142(262) 209
シムビコート -(141) -
ジェニナック 11(41) 50
ワクチン 28(51) 74
ゴナックス 29(26) 55
シムジア 50(47) 94
ミカルディスファミリー -(96) -
ボノテオ 20(33) 32
リピトール 55(69) 102
マイスリー 40(48) 72
*仕切価ベース