厚労省・内山審議官 医療情報のデータ利活用 内閣府でグランドデザイン策定へ PHSSRサミット2025
公開日時 2025/07/01 04:52

厚労省の内山博之医薬産業振興・医療情報審議官は6月30日、大阪・関西万博会場で開催されたパネルディスカッションで、「(創薬研究目的など)医療情報のデータ利活用は政府全体で取り組まなければいけない話だ。基本的には内閣府で2026年度にかけてグランドデザインを作ることになっている」と明かした。また、医療DXの工程表にある電子カルテ情報の統一化については、「実はAIを使って一本化できないか、大規模言語モデルの研究として昨年から着手している」と指摘し、AIが電子カルテに入力する情報をフォーマット化して共通化するような手法の検討に期待感を表明した。なお、内山審議官はきょう7月1日付で、内閣府健康・医療戦略推進事務局長に就任した。
この日は、日本国際博覧会協会(Better Co-Being)主催、アストラゼネカ共催の「PHSSRサミット2025-より強靭な保健医療システムの共創」が開催され、「医療DXをどのように加速させるか」をテーマにしたパネルディスカッションが行われた。
◎米・電子カルテの普及は20年間で88%まで急伸 ChatGPTの登場で更なる変化も
パネルディスカッションに登壇した米UCLA医学部公衆衛生大学院准教授(医師)の津川友介氏は、米国の電子カルテ普及率は88%で、日本の55%を大きく上回っていると指摘。ただし、2005年段階の米国での電子カルテの普及率は5%で、この20年間の進展の背景には「国レベルの政策があった」と説明した。一方で、2022年秋以降、急速に社会浸透したChatGPTの登場により、「電子カルテの入力フォーマットを共通化する必要性が無くなっている」と説明。「電子カルテに入っているデータさえ吐き出せれば、あとはChatGPTがフォーマットを共通化したり、構造化に戻してくれるのでフォーマットの共有化は必要ない。これは2年半で起きている変化」と強調。この流れを現状の“規制”に当てはめながら、「ルール(規制)さえ緩く設定しておけば、テクノロジーで解決できる問題がどんどん出てくる。逆にいまのルールで規制を作ると合わなくなっている。制度設計のルールに柔軟性を持たせておけば、新しいプレーヤーもこの市場に入ってくるし、医療データの利活用も進んでくる」との見解を示した。
◎ある程度の“心理的”な安全性があれば民間企業もイノベーションに参画したすくなる

津川氏はまた、日米の規制に対する感覚の違いに触れ、「米国ではグレーゾーンに関しては規制の無いものと捉え、そこにイノベーションが生まれ、新しいサービスが生まれる。一方で日本は、グレーゾーンは規制があるかもしれないと捉え、実際に存在しない規制を企業側が空気感でリスクを取らない行動に出てしまう」と指摘。「政府は、そこで何か問題が起きても我々として罰則しませんという、ある程度の“心理的”な安全性を与えることができれば、もっと民間企業側は医療データに関するビジネスなり、イノベーションに参画しやすくなるのではないか」と述べた。
◎AZ・堀井社長 地域やプロジェクトを一部規制緩和して“試してみる”も国の支援ではないか
アストラゼネカの堀井貴史社長も医療情報のデータ利活用に絡めながら、「近年は自治体との連携協定を進める中で、データの利活用について議論を行う機会が増えている。その中で実際に介入が必要なリスクの高い人を特定するデジタルの利活用と、かかりつけ医や保健士さんとの対話をもって行動変容を促すヒューマンタッチの両方を組み合わせて取り組むべき」と説明した。一方で、「国が行う法律改正は大事なプロセスだが、(改正まで)あと2年かかるという時には、地域やプロジェクトを一部規制緩和して、試してみるということも国の支援ではないか」と指摘。「企業側として、なにか提案したり、申請したりする機会があれば協力したい」と強調した。
◎厚労省・内山審議官 医療データの利活用について「政府全体として取り組む課題」
厚労省の内山審議官は、医療データの利活用について「政府全体として取り組む課題。内閣府でグランドデザインを作ることになっている」と強調した。また、「欧州では医療データの2次利用でEHDS法のような出口規制もあるので、そうしたことも含めて、少し議論していかなきゃいけないなというふうに思っている」と応じた。一方、津川氏が指摘するテクノロジーの進化への“規制”への対応について触れ、「電子カルテをピッと1本化できないかなっていうのは、実は大規模言語モデルの研究は昨年から着手をしているところ。これがうまくいくといいなと思っている」と明かした。
◎慶應大・中室氏 ホワイトリスト方式ではなくブラックリスト方式が望ましい
慶應義塾大学総合政策部教授の中室真紀子氏は、「この先の医療DXやデータ利活用を考えたときに、マイナンバーについてはホワイトリスト方式ではなくて、何に使ってはいけないかというブラックリスト方式が望ましいのではないか」と提案した。また、心臓弁膜症ネットワーク代表の福原斉氏は、「私は、医療データはやっぱり公共財だと思っている。そういう理解を社会の人たち、市民の人たちがしないといけない。マイナ保険証についても理解が不十分だった」と指摘。「私たち日本人は安心とか安全について深く求めすぎているのではないか。エラーを認めない社会だと思っているので、何かあったら是正して、また次のシステムを作るとか、考え直すとか、トライアンドエラーが認められる社会になって欲しいと思う」と述べた。
◎AZ・堀井社長 良い形で医療DXを使いこなして有益な活用をリードしたい

パネルディスカッション終了後に本誌取材に応じたアストラゼネカの堀井社長は、「先の通常国会では医療法改正案が継続審議になったけど、間違いなく政府はきっちりしたロードマップを描き、正しい方向性で行っていると思う。実は次世代医療基盤法の仮名加工情報の第一ユーザーを今年取得したので、この医療のデータの利活用に関しても、我々が良い形で医療DXを使いこなして、その結果、様々な方々にとって有益な活用をリードしていきたいなと思っている」と述べた。