中医協 21年度薬価改定 平均乖離率1倍超で新薬21%、後発品67%が該当 支払側「歪な改定」と牽制
公開日時 2020/12/10 04:52
厚生労働省は12月9日の中医協薬価専門部会に、2021年度改定の対象品目の範囲と医療費への影響についての試算を提示した。新薬、長期収載品、後発品のカテゴリーにわけたデータも提示。平均乖離率の1倍超を対象とした場合、新薬が21%(476品目)なのに対し、後発品は67%(6600品目)が対象となるとの概算を示した。支払側の幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)は、「比較的価格の低い後発品が狙い撃ちの改定になる。こんな歪(いびつ)な改定が妥当なのか」、「中間年改定のあるべき姿からかけ離れた姿となりそうなことは誠に遺憾だ」と猛反発した。一方、診療側の松本吉郎委員(日本医師会常任理事)は改めて乖離率に着目する必要性を指摘したうえで、「(医療費への影響の)総額に対する影響を十分に配慮すべきだ」と述べた。
◎カテゴリー別 平均乖離率1.5倍以上で新創品は該当ゼロ 2倍以上で後発品は3割該当
厚労省は「平均乖離率の2倍以上」、「1.5倍以上」、「1.2倍以上」、「1倍超」にわけ、医療費への影響について試算を示した。「2倍以上」では医療費への影響は▲1200億円、対象品目数3200品目(約2割)、「1.5倍以上」では▲2100億円、5300品目(約3割)、「1.2倍以上」では▲3000億円、7100品目(約4割)、「1倍超」では▲3600億円、8700品目(約5割)が対象となるとした。なお、本改定と仮定した場合の影響額を機械的に算出すると、▲4700億円(1万7600品目)となる。
さらに、カテゴリーにわけた対象品目数を提示。「1.5倍以上」、「2倍以上」では新薬創出等加算品は該当品目がないことなどを示した。一方で、後発品は、2倍以上でも3割超の品目が改定対象となる。
◎幸野委員「後発品狙い撃ちの改定になる」と妥当性に疑義
幸野委員は、「新薬がほとんど対象にならずに、後発品が狙い撃ちになっている改定が果たして中間年改定のあるべき姿として妥当なのか」と厚労省側に迫った。そのうえで、薬価制度抜本改革についての骨子で、「国民負担の軽減の観点から、できる限り広くすることが適当」とされていることから、「我々支払側としては、市場実勢価格にあわせてできるだけ広く、かつ速やかに引き下げるのが中間年改定の基本的な方針」との見解を表明。「偏りのない広範囲で、新薬、長期収載品、後発品それぞれが対象となることがポイントだ。今回出てきた案では偏りがある。お話にならない改定ではないか」と切り捨てた。
◎新薬、長期収載品、後発品のカテゴリーごと検証すべき 乖離率と乖離額に着目も
そのうえで幸野委員は、「市場実勢価格と薬価の乖離状況を新薬、長期収載品、後発品のカテゴリーごとに検証し、異なる基準を設定することもひとつの案だ。額に注目することも重要だ」と続けた。吉森俊和委員(全国健康保険協会理事)も、「国民負担の抑制の観点から、従来の乖離率に加え、乖離額に着目して先発品および後発品のカテゴリーごとの基準を設ける」ことの必要性を主張した。
◎井内医療課長 試算は2019年12月の抜本改革骨子に準じたもの「事務局案でない」
厚労省保険局の井内努医療課長は、今回提示した試算があくまで2019年12月に中医協でまとめた「薬価制度抜本改革についての骨子」に示された試算に準じたものであると説明。「事務局案ではない。前回の宿題返しで分析してみたということ」と述べ、厚労省として薬価制度改革案を提示していないとして、診療・支払各側の意見を集約する姿勢を強調した。
◎診療側・松本委員 医療機関経営への影響に言及
一方、診療側は、「調剤報酬に占める薬剤費は75~80%くらいある。経営上の影響は大きく、極めて限定的な改定にとどめるべき」(有澤賢二委員・日本薬剤師会常務理事)、「医療機関等が備蓄している医薬品の価値を下げることになる。医療機関の経営をますます悪化させることになる。新型コロナの影響で悪化した医療機関経営の状況や今後の経営に与える影響を把握したうえで、実施すべき」(松本委員・日本医師会常任理事)と経営面への影響を口にした。
◎乖離率の大きい品目に着目 価値の合致しない医薬品は改定の対象に 松本委員
また、中間年改定について松本委員は、「中間年改定は、個々の医薬品の価値に着目したうえで、市場実勢価格との乖離を是正することが最大の目的」との考えを表明。「乖離率が大きい品目に着目し、医薬品の価値に合致していないものについてのみ改定を行うということだ」との見解を示した。
松本委員はさらに、新型コロナの感染拡大が続くなかで、「現在最も優先されるべきは、新型コロナウイルス感染症に直接対峙している医療機関や、そうした医療機関を面で支える地域の医療機関への支援だ。そういった最優先事項への対応策が議論、検討されないままで、医療機関にとってはさらなる痛みでしかない薬価改定に議論を続けることは、いま現在も奮闘する医療従事者全ての方に大変申し訳ない。医療提供者側として、こうした議論の進め方には抗議する」と述べた。
支払側も、吉森委員が平時の中間年改定のルールについて検討したうえで、21年度改定について議論すべきと強調。そのうえで、タイムリミットとなる年末までわずかな時間が残されておらず、エビデンスに基づいた十分な議論ができないことについて、「誠に遺憾で残念だ」と述べた。支払側は22年度の本改定や23年度改定の議論の在り方にも言及するなど、診療・支払各側ともに反発した。
厚労省が示した改定対象範囲の概数は以下の通り。
▼「平均乖離率の2倍以上」 新薬:0.1%(2品目、うち新薬創出等加算品目はなし)、長期収載品:3%(55品目)、後発品:31%(3000品目)
▼「1.5倍以上」 新薬:2%(39品目、うち新薬創出等加算品目はなし)、長期収載品:23%(390品目)、後発品:47%(4700品目)
▼「1.2倍以上」 新薬:9%(196品目、うち新薬創出等加算品目は1%に当たる7品目)、長期収載品:47%(800品目)、後発品:59%(5800品目)
▼「1倍超」 新薬:21%(476品目、うち新薬創出等加算品目は5%に当たる32品目)、長期収載品:68%(1100品目)、後発品:67%(6600品目)