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【FOCUS 2021年度薬価改定は如何に決まったか(下)】 薬剤は診察と不可分一体 財源切り分けは不適当

公開日時 2020/12/24 04:51
◎「毎年薬価改定」は菅首相の肝いり政策 

大臣折衝が行われた12月17日、加藤勝信官房長官、麻生太郎財務相、田村憲久厚労相の3大臣は、「毎年薬価改定の実現について」に合意した。合意では“毎年薬価改定の初年度”である21年度改定の対象範囲について、「国民負担の軽減の観点からできる限り広くすることが適当」と指摘。対象範囲とする「価格乖離の大きな品目」を、平均乖離率5%以上と決めた。薬剤費の削減額は▲4300億円程度(国費▲1000億円程度)だった。

さらに、新型コロナの影響で、医薬品卸の経営が打撃を受けたことなどを踏まえ、調整幅の2%に、“新型コロナウイルス感染症特例”として「一定幅」として0.8%価格の下落を緩和することも盛りこんだ。この“0.8%”については、「薬剤流通への影響を緩和する」としており、製薬企業のモノではないことも明確化されている。中医協の議論でも、医薬品卸と医療機関・薬局の川下取引で、交渉開始時期の遅れや、取引期間の短縮化など、イレギュラーな取引状況が指摘されていた。このため、改定半年後に実施した2018年の薬価調査(7.2%)を0.8%上回ったことを考慮した。

2021年度薬価改定の議論は、官邸主導で進んできた。菅義偉首相は10月26日の臨時国会における所信表明演説で、「各制度の非効率や不公平を正す」必要性を強調。そのなかで、「毎年薬価改定の実現に取り組む」と表明した。毎年薬価改定の実施が明記され、2016年末に4大臣が合意した「薬価制度の抜本改革に向けた基本方針」も当時官房長官だった菅首相が意欲的に主導したものだ。抗がん剤オプジーボをきっかけに、高額薬剤問題が顕在化するなかで、新薬に切り込み、国民の納得性の高い薬価制度構築の重要性を指摘したのも菅首相(当時・官房長官)だった。毎年薬価改定の実現は、“非効率や不公平を質す”菅政権の旗印とも言える、肝いりの政策だ。

菅首相が自民党総裁選で選出された9月14日。日本製薬団体連合会(日薬連)と日本製薬工業協会(製薬協)は「2021年度予算概算要求への要望」と題した資料を手に、与党議員へのロビー活動を開始した。業界団体の主張として、新型コロナの影響で「平時とは異なる流通実態だ」として薬価改定についても、「困難な状況にあり慎重な対応をお願いしたい」と訴え続けた。

◎妥結率、単品単価、そして平均乖離率 改定実施への環境は整った


しかし、12月に入り、調査結果などからコロナ禍での流通実態が明らかになるなかで、製薬業界の主張に疑問が投げかけられた。薬価調査の結果、平均乖離率は約8.0%(20年9月取引分)。妥結率や単品単価取引の割合など、蓋をあけてみれば、流通にかかわるすべて、例年並みの数字が並んだ。中医協の場でも支払側の吉森俊和委員(全国健康保険協会理事)は、「コロナで注目すべき数値の変化は外形上、見当たらない」と述べるなど、薬価改定実施に向けた環境は整い、外堀が完全に埋められていった。

ただ、製薬業界は調査結果が示されて以降も、“慎重な検討”を求める姿勢を崩さなかった。対象範囲については、「全ての既収載品目の平均乖離率よりも著しく大きい品目に限定すべき」と主張した。乖離率が大きい品目に絞り込めば、薬価が比較的安価な後発品が狙い撃ちとなる可能性が高い。実際、厚労省の試算によると、業界側が要望していた「平均乖離率の2倍以上(16%以上)」で線引きすると、対象品目数は、新薬は2品目(新薬創出等加算品目はゼロ)にとどまる一方で、後発品は31%(3000品目)が含まれる。

支払側の幸野委員は、「日薬連の傘下にある日本ジェネリック製薬協会も賛同しているのか。後発品に偏る改定になることが懸念される」と製薬業界側を質した。これに対し、日薬連の手代木功会長(塩野義製薬代表取締役社長)は、「現時点では薬価調査等の結果等もすべて出ているわけではないので、基本的な考え方に合意をいただている」と述べ、製薬業界の“総意”だと強調した。しかし、意見陳述の場に日本ジェネリック製薬協会が同席することはなかった。

対象範囲の決定に際し、厚労省は、全品改定を実施した場合の医療費削減額は4700億円と試算した。平均乖離率1倍超を対象とした場合、品目数は約5割(8700品目)だが、医療費削減効果は70~80%に当たるとして、平均乖離率の1倍超を基準として財務省との調整に臨んできた。一方、財務省は、毎年薬価改定の初年度に当たる2021年度改定について、「初年度にふさわしい改定」とすべく、「全品改定」を主張。最終的に、「平均乖離率8%の0.5倍~0.75倍の中間である0.625倍(乖離率5%)を超える品目」を対象とすることで決着した。

対象品目は、全品目の69%に当たる1万2180品目。カテゴリー別にみると、▽新薬1350品目(59%)、うち新薬創出加算品240品目(40%)、▽長期収載品1490品目(88%)、▽後発品8200品目(83%)、▽その他の品目(昭和42年以前収載)1140品目(31%)―となる。新薬創出等加算品の4割も対象となり、支払側の指摘してきた“偏りのない改定”が実現された。一方で、後発品については大臣折衝で、さらなる使用促進を進めることを決定した。数量シェア80%に代わる新たな目標設定や、バイオシミラーの新たな目標設定が明記され、産業振興策も盛り込まれた。

◎「皆保険のプレイヤーとしての役目を果たすべき」との投げ掛けに・・・

中医協の議論で印象に残った言葉がある。「医療界、薬価、製薬、卸は大変な状況だとおっしゃったが、コロナ禍は医療界や製薬業界、卸だけが打撃を受けているわけではない。もっと大変な打撃を受けている企業はたくさんある。薬価改定に配慮してほしいというのではなく、日本全体が危機的状況に陥っている今だからこそ国民負担の軽減を行うべきではないか。それが、皆保険のプレイヤーである製薬、卸、医療界全ての方の役目ではないか」―。支払側の幸野委員は、国民皆保険のプレイヤーの一員としての姿勢を製薬業界側に質した。

取材のなかでは、コロナ禍で医療界や医薬品卸が打撃を受けるなかで、売上高や高い利益率を維持する製薬産業の姿勢に疑問を投げかける声を耳にする機会も多かった。何かを捨てる姿勢も求められた場面だが、日薬連の手代木会長は、製薬業界全体として国民負担の軽減にこれまでも貢献してきたと強調。「企業がずっと拠出しながら国民負担の軽減に努力をするということは意見としては承るが、それでは事業が成り立たない」などと述べた。

米国研究製薬工業協会(PhRMA)のジェームス・フェリシアーノ在日執行委員会副委員長は、「現時点で大きな競争相手は、他の製薬企業ではなく、アッヴィ中国だ」などと反発した。国民皆保険の姿勢を質されたが、「こういう状況になると日本は消えてなくなってしまうのではないかとさえ思う。本国の目から見ると、投資その他、日本のプライオリティが下がるのは間違いない」などと主張。国民皆保険のプレイヤーとしての製薬企業の姿を聞くことはできなかった。

◎0.8%の緩和措置 公定マージンの試金石? 今後のマーケットを見て評価も

今薬価改定で、もう一つ注目したいポイントがある。調整幅に加え、特例扱いながら「一定幅」として0.8%の緩和措置が設けられたことだ。

議論の部隊を中医協に移す直前の11月24日、「医療用医薬品の流通改善に関する懇談会」では、一次売差マイナスが拡大傾向である川上取引に焦点が当たった。厚生労働省は、カテゴリー別のデータを示しながら、後発品は改善傾向であるものの、先発品では仕切価の引上げが多く、引下げの見直しが減っていると説明した。土屋直和委員(日本製薬工業協会流通適正化委員会委員長、田辺三菱製薬)は、流通改善ガイドラインなどに則り、「卸機能の適切な評価を行い、割戻しを定期的に見直している。割り戻しのうち、仕切価を修正するようなものについては仕切価への反映などの対応をしている」と述べ、理解を求めた。これに対し、宮川政昭委員(日本医師会常任理事)は、「方向性だけでなく、具体的に数字として見えなければやったことにならないというのが世の中の常識だ」と苦言を呈した。

中医協の場でも、専門委員の村井泰介氏(バイタルケーエスケー・ホールディングス代表取締役社長)は、医薬品卸の経営状況悪化の理由の一つとして、「カテゴリーチェンジに伴う販売構成の変化による最終原価率の上昇」をあげた。生活習慣病などのブロックバスターが特許切れし、抗がん剤などのスペシャリティーのウエイトが高まっていることの影響の大きさを口にした。これらの製品は「乖離率も小さいが、仕切価も高い」と指摘している。

こうしたなかで、今回“0.8%”の一定幅が設けられることで、流通改善が進むことに期待がかかる。医薬品卸からは、一種の公定マージンに近いとの見方もあり、今後注視する必要性を強調する。高額薬剤を含むスペシャリティー領域の医薬品と、後発品などの低薬価の医薬品の特性が全く異なるなかで、それぞれに合致した医薬品卸の新たなビジネスを構築する必要がある。一方で、0.8%分が医療機関・薬局のバイイングパワーを強める方向に働き、価格下落が進む可能性もある。こうしたなかで、製薬企業が仕切価をいかに設定するかも、注目されるところだ。いずれにせよ、2021年度は新たな医薬品流通を構築する第一歩の年となることが期待される。

◎22年度改定に製薬業界はどう臨むか

2022年度には、診療報酬の本改定が控える。改革工程表に薬価制度改革が盛り込まれるなど布石は打たれており、22年度薬価改定が小規模で収まることへの期待は薄い。

日本医師会の中川俊男会長は、21年度薬価改定議論が大詰めを迎えた12月16日の定例会見で、「健康保険法において薬剤は診察等と不可分一体であり、その財源を切り分けることは不適当である」と主張。「日本医師会は、薬価財源は医療費本体に充当すべきと主張してきた。コロナ禍の現状において、国民の命を守るために最前線で活動する医療機関支援の原資とするなど、診療報酬上で中間年に加算し、医療費財源に充てるべきだと考えているし、主張していく」と強調しており、23年度以降もこの流れが続くことが想定される。

団塊世代が後期高齢者に入り始める2022年以降、新たな社会保障制度を構築する必要性が迫る。医療費抑制の圧力が強まることが想定されるなかで、さらなる改革の断行は避けて通れない。製薬業界も国民皆保険の一員であることをまずは自覚すべきだろう。2021年は製薬産業にとって、ブルーインパルスを飛ばせるくらいに、国民から信頼を勝ち得る産業へと発展する第一歩の年となることを祈りたい。(望月英梨)
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