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国際感染症センター・齋藤医師 新型コロナ入院患者へのオルミエント投与、酸素吸入などの早い段階で検討を

公開日時 2021/05/11 04:50
国立国際医療研究センター・国際感染症センター総合感染症科の齋藤翔医師は5月10日、日本イーライリリー主催の「新型コロナウイルス感染症の病態、治療の現状と課題、JAK阻害剤の臨床的位置づけ」と題するオンラインセミナーで講演した。新型コロナによる肺炎の適応を追加したJAK阻害薬バリシチニブ(一般名、製品名:オルミエント)の投与を検討する病態について、入院中に非侵襲的人工呼吸や高流量酸素機器が必要になった症例や、この前段階にあたる入院中に酸素吸入が必要となった症例に、バリシチニブ投与を検討すべきと説明。侵襲的人工呼吸やECMOによる管理といった最重症に至る前に同剤の投与を検討することが、「使用方法としては、より良いのではないかと考えている」と述べた。

同剤は4月23日に、「SARS-CoV-2による肺炎(ただし、酸素吸入を要する患者に限る)」の適応を追加した。抗ウイルス薬レムデシビルと併用し、バリシチニブとして4mgを1日1回経口投与で用いる。経口投与ができない患者には同剤を粉砕・懸濁して胃瘻や経鼻胃管などで使用する(記事はこちら

バリシチニブの新型コロナによる肺炎に対する有効性と安全性は、米国NIH傘下の国立アレルギー感染症研究所主導の国際共同第3相試験(ACTT-2試験:多施設共同、アダプティブ、無作為化、二重盲検、プラセボ対照、並行群間比較検証試験)で確認された。齋藤医師はこの日、同試験のデザインや結果を解説した。

◎主要評価項目のサブグループ解析 ECMO使用など最重症患者は「NE(評価不能)」

同試験は8か国67施設で18歳以上の新型コロナ肺炎患者1033人が登録された。このうち日本人は1例、日本人を含むアジア人は101例。バリシチニブとレムデシビル併用療法群(n=515)とレムデシビル単独療法群(n=518)について、主要評価項目を「治療期間における回復までの期間」として評価した。レムデシビルは入院期間中最長10日、バリシチニブは同14日投与した。「回復」の定義は、退院または入院中だが治療の必要がない状態(感染管理のための入院)とした。

その結果、回復までの期間は全患者でバリシチニブ群が7日、対照群が8日となり、統計学的に有意に1日短縮した(ハザード比(95%CI):1.15(1.00-1.31)、p=0.047)。

完全な回復から死亡までを8段階で評価するスケール(NIAID-OS)を用いてサブグループ解析したところ、入院中で酸素吸入が必要な患者(OS-5)の回復までの期間はバリシチニブ群5日、対照群6日(ハザード比(95%CI):1.17(0.98-1.39))――。1つ上の重症度となる入院中で非侵襲的人工呼吸又は高流量酸素機器を使用している患者(OS-6)では、バリシチニブ群10日、対照群18日(ハザード比(95%CI):1.51(1.10-2.08)――となった。

ただ、さらに1つ上の最重症の入院中で侵襲的人工呼吸又はECMOによる管理を行っている患者(OS-7)では、バリシチニブ群及び対照群ともNE(評価不能)だった。とはいえ、副次評価項目とした無作為化後14日時点での8段階のスケールに基づく臨床状態で、OS-7の患者でも回復傾向がみられるなどしたため、添付文書上はOS-7の患者にもバリシチニブは使用できる。

OS-7の患者でもバリシチニブの投与を検討すべきかどうかについて齋藤医師は、「OS-7に行く手前に必ずOS-6の状態が存在する」と指摘し、「バリシチニブ投与を検討する場合は、なるべく早く、入院中に酸素吸入が必要になった、または高流量酸素が必要になった状況で検討することが必要」と述べ、OS-5の時点からバリシチニブの適応患者かどうかのスクリーニングを実施して投与を検討すべきとの考えを示した。

◎変異株への有効性 バリシチニブの機序から「効果が期待できる」

新型コロナ変異株に対するバリシチニブの有用性に関しては、バリシチニブは炎症性サイトカインによる細胞内のシグナル伝達を阻害して抗炎症効果を期待する作用機序のため、「理論としては変異株であっても、患者の体内で炎症が広がっている状況であれば効果が期待できると考える」と述べた。



◎AIが既承認薬からバリシチニブを治療薬候補に特定

日本イーライリリーの吉川彰一・バイスプレジデント(執行役員 研究開発・メディカルアフェアーズ統括本部)は、人工知能プラットフォームを持つ英国拠点のBenevolent AI社が既承認薬の中からバリシチニブが新型コロナ治療薬になり得ると特定し、2020年2月に医学誌Lancet誌で発表されたことを紹介した。この報告を受けて、外部機関との協力のもと、in vitroでの薬理作用を確認し、20年5月には医師主導のACTT-2試験が始まったという。

吉川氏は、「コンピューターがはじき出した仮説にどのくらいの実効性があるのか、最初は正直、半信半疑だった」と振り返った。データを収集し、開発が進捗するにつれて「コンピューターによる仮説が見事に検証された」とし、「私自身は新鮮な驚きをもって開発にたずさわった。本当に時代が変わってきたと実感している」と話した。
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