財務省主計局は11月8日の財政制度等審議会・財政制度分科会で、22年度予算編成で焦点の診療報酬改定について、「マイナス改定」を続けること無くして医療費の適正化は到底図れないと表明した。改定前の水準を起点に、「（医療費が）高止まりしているのであれば躊躇なくマイナス改定すべき」と強調。「そうしたプロセス抜きに診療報酬（本体）の改定率をあげつらう意思は乏しい」とまで言い切った。一方、薬価改定年であっても平均２％強の市場成長している状況に触れ、「医薬品市場が縮小するかのような印象を与えているとすれば、まったく適当でない」と断じ、もう一段の強力な薬剤費適正化の取り組みが必要との見解を示した。

財政審は22年度予算編成に向けて11月中に建議のとりまとめを行う。今年の焦点は薬価・診療報酬改定で、財務省がこの時期に診療報酬（本体）のマイナス改定を主計局が主張するのは、ここ数年の慣例になっている。この号砲を合図に日本医師会など医療関係団体と医療保険を支払う健保連など保険者とが、厚労省の中医協を舞台に激しい火花を散らし、12月中旬の政府予算をめぐる政府・与党調整までもつれ込むことになる。今年は直前に衆院総選挙があったことから、各医療団体とも小選挙区で支持した与党議員との共闘に期待感も高まっている。

◎「医療従事者を2.5％賃上げできるだけの原資が確保されている」

こうした状況に先手を打ったのが財務省主計局だ。22年度予算概算要求では高齢化に伴う社会保障費の伸びの「自然増」分として6600億円を要求した。このうち診療報酬（本体）部分は機械的試算で5400億円（医療費ベース）の増額要求になると主計局は強調する。仮にプラスマイナスゼロ改定を行った場合でも「すべての医療従事者を2.5％賃上げできるだけの原資が確保されている」と指摘する。一方、薬価については、機械的試算で8700億円（医療費ベース）の増額要求となり、仮に2018年度と同等の薬価改定・制度見直しによる影響額（医療費ベース7500億円）が生じても、「なお医薬品市場は成長する」と予測している。

◎「躊躇なくマイナス改定すべき」

財務省の狙いは、増加する医療費をどう「分配」させるかにある。主計局は「拡大する市場の中での“分配”を医療従事者の処遇改善など必要な課題に振り向けていくか」の視点を重視している。このため、「まずは改定前の診療報酬（本体）の伸びがどのような水準かということを出発点として改定の議論を行うことが適当だ」と指摘。そこが高止まりしているのであれば、「躊躇なくマイナス改定すべき」と主張した。

◎医療提供体制改革なくして診療報酬改定なし　財政資源の散在となりかねない

一方で、今回は新型コロナで浮彫になった医療提供体制の課題についても言及している。コロナ禍において、医療資源が散在し、手薄な人的配置により「低密度医療」になっていると指摘。さらに医療機関相互の役割分担や連携が不足しているなど、「医療提供体制の脆弱さが浮き彫りになった」と強調した。そのうえで、「（提供体制の）改革の進捗がないまま、あるいは改革の進行を視野に入れることなく、診療報酬改定を行う意義は乏しく、財政資源の散在となりかねない」と批判、「医療提供体制改革なくして診療報酬改定なし」と強調した。

◎「マイナス改定と呼ぶことや、改定率に必要以上の意味を持たせることは慎むべき」

薬価については、薬価改定があった年でも薬剤使用量の増加や新規医薬品の保険収載により薬剤費総額は年平均２％強伸びていると指摘。薬価改定に伴う平均成長率の鈍化（５％強→２％強）を「マイナス改定」と一部に呼ぶ風潮があるとし、「マイナス改定と呼ぶことや、改定率に必要以上の意味を持たせることは慎むべき」と述べ、むしろ拡大する医薬品市場の中で「分配」をいかにイノベーションの推進など必要な課題に振り向けていくかに焦点を当てるべきである」と牽制した。一方で、薬剤費総額の伸びが、なお経済成長率を大きく上回ってきたことを踏まえれば、「毎年薬価改定の実現など、近年の薬価制度の抜本改革の成果にとどまることなく、もう一段の強力な薬剤費適正化の取り組みが必要だ」とした。

◎薬価改定財源の診療報酬本体への振替え「“フィクションにフィクションを重ねたもの”」

薬価改定財源を診療報酬（本体）のプラス改定の上積みの論拠と捉える主張に対し、「そもそも診療報酬（本体）の適正化を図る必要がある中で、“フィクションにフィクションを重ねたもの”という他ない」と断じた。また、こうした主張が「高齢化などによる市場拡大を既得権益化し、拡大する市場の中での“分配”のあり方についての建設的な議論を妨げてきた」と批判。徹底的に見直すとしたほか、「診療報酬改定にまつわる因習は、払拭されなければならない」と強調した。