愛知県がんセンター オンライン診療で完全リモート治験を開始 かかりつけ病院と連携で患者負担軽減へ
公開日時 2022/02/15 04:52
愛
知県がんセンターは2月14日、かかりつけ病院と協力し、オンライン診療を活用した完全リモート治験を開始すると発表した。希少がんなどの治験を実施する医療機関は全国に数施設しかなく、県境を跨ぐ移動の負担などから、治験に参加を断念せざるを得ない、いわゆる“がんゲノム難民”が課題となっている。愛知県がんセンター薬物療法部の室圭部長(写真左)は本誌取材に対し、「様々な地域から患者さんがいらっしゃるが、治験の通院だけでも非常に負荷がかかり、負担が大きい。地域の病院と連携することは、患者さんのメリットが大きく、治験を広く展開するうえでも、医療者側や治験依頼者の製薬企業にも十分メリットがある」と語った。まずは、2つの医師主導治験で開始し、今後は企業治験にも拡大したい考えだ。オンコロジー領域で、フルリモートの治験が実施されるのは、国内で初めて。
◎薬物療法部・谷口医長「遠方の患者が治験に参加できる枠組みを考えた」
「がん遺伝子パネル検査が保険適用され、治療標的が見つかり、患者さんが喜ぶことも多い。一方で、治験について問い合わせがあっても遠方で、患者さんが参画できないこともある。オンライン診療を活用して当院に1度も通わずに遠方の方が、治験に参加できる枠組みはないかと考えた」-。谷口浩也医長は本誌取材に対し、取り組みの検討に至った背景についてこう説明した。
◎オンライン診療 希少がんなど適切な治療にたどり着けなかった患者にとって福音
がん遺伝子パネル検査は2019年に保険適用され、全国で用いられるようになった。100個以上の遺伝子異常を一度に調べることができるが、検査を受けても実際に治療につながるのは約8%との報告もある。治療薬も多くが研究段階で、全国数施設で、治験や臨床研究、先進医療として実施されているケースが多い。実際、福井県や和歌山県、さらには全国各地から治験の問い合わせがあるものの、実際に治験の参画にたどり着けないケースもある。
今回の取り組みは、これまで適切な治療にたどり着けなかった患者にとって、大きな福音となる可能性を秘めている。谷口医長は、「希少がん、希少サブタイプ、大腸がんや肺がんで非常に稀な遺伝子異常がある方などで、治験をやっている施設はごく限られている。患者さんにとってもメリットが大きい。治験の被験者数が増えるという意味では医療者や、製薬企業の方のメリットも大きいのではないか」と強調する。患者にとっては、コロナ禍で、県を跨いだ移動には感染リスクもはらむが、このシステムを活用することで、移動による感染リスクを低減させることも期待される。一方、治験依頼者が製薬企業となる企業治験でも、患者登録のスピードアップが図られ、開発費のコストカットも期待できる。
◎治験参加後の患者 血液検査や画像検査は「かかりつけ病院」で実施
取り組みは、愛知県がんセンターとかかりつけ病院の緊密な連携が特徴となっている。治験参加後も患者(被験者)は、通常の診療に加え、治験に必要なビジットごとの血液検査や画像検査などは、かかりつけ病院で実施してもらう。こうしたかかりつけ病院からの情報に基づき、患者にオンラインで診察を行い、治験での投薬の判断や、吐き気や下痢などの副作用を含め、最終的な評価は同センターで行う仕組みだ。同院は、オンライン診療や治験薬配送などの手順も整えた。治験薬は患者宅に直接配送されるが、GCPに則る必要性もあることから、かかりつけ病院としては、一定の治験の経験を有する医療機関を想定する。
◎かかりつけ病院と愛知県がんセンターの連携”見えること”が「患者の安心感につながる」
谷口医長(写真右)は、いわゆる“D to P with D”の形式で運用する考えを示す。患者がスマートフォンやタブレット端末を通じて、かかりつけ医とともに同院のオンライン診療を受診する姿を想定する。初診以外では患者宅からの診察も可能だが、「患者会の方と相談した際に、患者さんの安心度という観点からはできるだけ、“D to P with D”でお願いしたい、との要望があった。かかりつけ病院と愛知県がんセンターがしっかり連携しているということが患者さんに見えることが、患者さんの安心感につながる。患者さんが自宅にいる場合での診察もできるが、しっかり連携して診察していきたい」と話す。
◎薬物療法部・室部長 “D to P with D”のメリットを強調
薬物療法部の室圭部長も、「患者さんの顔色を見たり話を聞いたりすることは患者宅でもできるが、実際治験でのビジットを考えると採血や診察も必要になる」と述べ、“D to P with D”のメリットを強調する。
◎第1弾はALK阻害薬・ブリグチニブの医師主導治験 3月にも患者組み入れ
まずは、経口薬で医師主導治験を皮切り始動する。西日本がん研究機構(WJOG)が主体となり、臓器横断的な固形がんに対する、ALK阻害薬のブリグチニブ(製品名:アルンブリグ、武田薬品)の医師主導治験を開始する予定。早ければ、3月にも患者の組み入れをスタートさせたい考え。室部長は、副作用など安全性を担保する観点から、ファーストインクラスの薬剤にはこの仕組みがなじまないとしたうえで、「適応拡大するような医薬品を対象とした医師主導治験には非常に向いた仕組みではないかと思っている」との考えを示した。
そのうえで、「がん治療における臨床試験では初めてのことになるので、まずは課題を見つけ、今後の展開を考えていきたい」と述べ、今後は注射薬や企業治験への展開にも意欲をみせた。