沢井製薬・澤井会長 物価高騰に伴う安定供給への対応「品目によらず最低薬価引上げも一つの手法では」
公開日時 2022/07/13 04:52
沢井製薬の澤井光郎代表取締役会長は本誌取材に応じ、物価・エネルギー価格の高騰が続くなかでジェネリックの安定供給を維持するためには、「品目によらず、最低薬価を引き上げるというのも一つの手法ではないか」との見解を表明した。ジェネリックでは、日本薬局方収載品の最低薬価である10.10円(10円10銭)を下回る品目が約6割を占める。毎年薬価改定の導入や物価高騰など激変するビジネス環境が各社の収益構造を直撃する中で、「ジェネリックは国民の健康を支えるインフラになってきているが、果たして事業継続が本当にできるのか。大きな岐路に差しかかっている」と危機感を露わにした。「低薬価品を継続して、生産、供給していけるような制度にもっていくか。早急に提案していかないと、3年後には大変な状況を迎えている」と述べ、日本ジェネリック製薬協会としても理解を求める姿勢を強調した。
◎「安定供給は私にとっても最大の課題だ」 経済情勢などビジネス環境に「不安感増す」
「どうしたら安定的に、ジェネリックが供給し続けられるのか、毎日こればかり考えている。安定供給は私にとっても最大の課題だ」-。澤井会長は、足元に迫る危機感を本誌にこう吐露した。続けて澤井会長は、安定供給の危機をまさに目前に差し迫った「医薬品危機だ」と語る。毎年薬価改定の導入に加え、世界経済情勢の急変に伴う物価やエネルギー価格の高騰など、ビジネス環境が日々刻々と変化しているためだ。さらに、業界最大手の日医工が事業再生ADRを申請するなど、ジェネリック業界内のビジネス環境も不安定感を増している。
ジェネリックの数量シェアは薬価調査によると約79.0%(21年9月時点)まで伸長した。ただ、医薬品全体の数量ベースでも50.3%まで伸びたが、金額ベースでは16.8%にとどまる。これに対し、長期収載品は数量ベースで14.3%、金額ベースで16.5%を占め、ジェネリックと長期収載品の価格差は約3.5倍にまで広がっている。ジェネリックでは局方最低薬価である10.10円以下の品目は61.1%、5.90円以下の品目も28.9%を占める。
低薬価品目が増加するなかで、ジェネリックビジネスをめぐる大きな環境変化が、毎年薬価改定導入による加速度的な薬価引下げだ。
◎6か月間在庫を持つと「利益出ない」、3か月間程度だと「供給不足」 大きな岐路に
澤井会長は、「これまで2年に1度の改定だったので、原価が下がった部分で何とか利益を計上し、次の設備投資や開発品に投資ができた」と明かしてくれた。半年分程度の製品在庫を有することから、薬価改定後に利益が出るまで半年程度の時間を要するとしたうえで、「毎年改定が導入され、ようやく原価の下がった製品が作れたと10月に思っていたら、半年後にまた薬価が下がる。これまで通り6か月間在庫を持っていると、利益が出てこなくなる。企業として何をして対抗するか、となると在庫を減らす」と澤井会長は強調する。
例えば、在庫を3か月間程度に減らすなどして対応すると、「市場で変化があると、供給不足が生じてしまう。これまで以上に自転車操業のような状態だ」とも語る。「ジェネリックビジネスが国民の健康を支えるインフラになってきているが、果たして事業継続が本当にできるのか。大きな岐路に差しかかっている。どうしたら安定的に、ジェネリックが供給し続けられるのか、毎日こればかり考えている。安定供給は私にとっても最大の課題だ」と話した。
◎約300成分中、約50成分で利益の8割占める 一方で約70成分は赤字
薬価引下げ圧力が強まるなかで、赤字品目も増加していると澤井会長は言う。沢井製薬では約300成分のうちの約50成分が利益の約8割を占める。一方で、約70成分は赤字だ。赤字品目は2015年度時点で約120品目(全品目は約660品目)だったが、21年度には約220品目まで膨らんだ。注射剤や抗生物質、全規格対応で非汎用医薬品などが多く含まれているという。
「一部品目の利益で不採算品をカバーしてきた。しかし、薬価改定があり、原薬価格が上がり、22年はおそらく赤字品目がもっと増える」と説明。「企業に任せていたら、製造中止、販売中止となってしまう。各社とも殆ど同じ品目が赤字のため一斉にやめる。一番迷惑を被るのは患者さんだ。やはりこの時勢で、5.90円、10.10円では厳しい」と吐露する場面も。「このあたりの実状を、日本ジェネリック製薬協会を通じて、きちんと伝えていかないといけないのではないか。低薬価品を継続して、生産、供給していけるような制度にもっていくか。早急に提案していかないと、3年後には大変な状況を迎えている」と危機感を露わにした。
◎価格を武器とした市場競争も「いまは違う。競争はしたくないし、競争はない」
企業としても、増産体制の整備を進めるほか、原薬の価格交渉を行ってきたが、「限界がある」との考えを示す。日本の薬価制度は市場実勢価格主義だ。価格を武器とした市場競争も指摘されるところだが、「いまは違う。競争はしたくないし、競争はない。赤字品目は、薬価で売ってほしいという仕切価を設定している。しかし、単品総価交渉のなかで、赤字品目も値引きがされてしまっている」と述べ、品目数も多く単価も安いことから単品単価交渉の難しさがあることも指摘した。
ジェネリックの品目数の多さが与える影響も指摘されるところだが、「承認の時点で共同開発を簡単に認めない方向へもっていく必要がある。責任を持って供給し続ける体制を作るのであれば何らかの汗をかいて承認をとる方向にもっていかないといけない」との見方を示した。ただ、「この3年間のなかでは、解決できない。他の業界との時間軸とはだいぶ違う話だ」との見解も示し、早急な対応の必要性も指摘した。