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厚労省・有識者検討会 製薬産業は制度依存的 薬価制度のインパクト強いが「制度変更だけで解決せず」

公開日時 2022/10/24 04:54
厚生労働省の「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」(座長:遠藤久夫・学習院大経済学部教授)は10月21日、論点案について議論した。遠藤座長は、「(製薬業界は)本当に制度依存的な産業なので、ほとんどの問題が薬価基準制度に関係しているところがある」と指摘した。構成員からは薬価制度が医薬品産業に与えるインパクトの強さについての意見が相次ぎ、共通認識となった。一方で後発品の供給不安や革新的新薬の開発など、「薬価制度を変更しただけでは解決できない」問題があると指摘する声が複数の構成員からあがった。論点案はこの日に出された意見を取りまとめ、近く中医協に提出する方針。

有識者検討会では、「今後の検討に当たっての論点案」について議論した。論点案では、「革新的な医薬品の迅速な導入」と「医薬品の安定供給」について、産業構造と薬価制度、それぞれの課題を整理した。

◎香取構成員「薬価制度は、いまの産業構造、企業行動、流通その全てを規定している」


香取照幸構成員(上智大総合人間学部社会福祉学科教授)は、「薬価制度は、いまの産業構造、企業行動、流通、その全てを規定しているものだと感じている。最終的な販売価格を公定で決めているのだから、その前提で、様々な企業行動や流通が起こっている。もちろん個々の企業の“お手前”があり、それはそれで問題だと思う面もあるが、やはり全体を見れば、薬価制度がいわばベースにある」との考えを表明。「薬価と流通、薬価と産業政策、薬価と新薬、薬価と後発品というふうな議論の組み立てが必要ではないか」との見解を示した。また、「産業政策や技術開発、研究開発政策の視点から見たときに、薬価のなかでどの程度配慮すべきなのか、あるいは配慮してほしいというべきなのか」との視点も示した。

◎三村構成員 薬価制度の修正と同時に「それを補強する政策手段が組み合わさる仕組みを」

三村優美子構成員(青山学院大名誉教授)は、後発品の供給不安の問題などを引き合いに、「サプライチェーンの迅速化、標準化、強靭化は薬価制度のなかだけでは解決できない」と指摘。「薬価制度をこれから合理的なものに修正していくのと同時に、例えば経済安全保障に合うような形で非常に強い新たな政策を作る。これをベースにしながら、重要な医薬品については同じような仕組みに入れていく必要があるのではないか」として、「薬価制度を新しい体制で少しずつ修正していく過程と、それを補強するためのいわゆる政策手段が組み合わさっていく、その組み合わせの仕方がこれから大事な議論になるのでは」との見解を示した。

◎芦田構成員「薬価制度だけで研究開発やベンチャーの課題は解決しない」


芦田耕一構成員(INCJ執行役員ベンチャー・グロース投資グループ共同グループ長)は、薬価制度の重要性に理解を示したうえで、「薬価制度のあり方が変わるだけで、革新的医薬品の研究開発やベンチャーの課題が解決されることはないと思う」との見解を表明。「アカデミアの研究開発の拡充であるとか、創薬バイオベンチャーの育成および支援であるとか、それから特に新しいモダリティのバイオ医薬品については、製造施設を含めた事業基盤の整備が必要になってくる」との考えを示した。

成川衛構成員(北里大薬学部教授)も、薬価制度に加え、「日本市場への参入障壁というか、開発して承認を取るためのハードルはもちろん、日本で承認を取得し、売り続けるという市販後対策のレギュレーションも関係する。後は、臨床試験を実施する際の患者の集約度の違いや医療体制そのものも影響する。さらに、産学共同とか税制も影響する」と指摘。「色々な側面があるので、そのあたりを踏まえて議論しないといけない」と述べた。

◎井上構成員「中長期的に企業残すための薬価を統制していく政策目標は問題がある」


井上光太郎構成員(東京工業大工学院長)は、「産業構造を変えていくという話は、かなり中長期の話で、いまの為替問題や安定供給の問題のように短期的に対応するというのは非常に難しい」との見解を表明した。本来、投資には一定の規模の経済が必要だが、日本の製薬業界は先発・後発問わず、M&Aが進んでおらず、相対的に規模が小さい状況を指摘。「薬価制度があって(産業側は)苦しくなるとゴールが動くというか、薬価制度そのものでサポートされるみたいなところを若干感じた。慌てて統合するより、むしろ薬価問題で助けてもらえるのではないかというような期待感が生産者側、卸側にある。産業構造の変革とか、自主的に生き残るための規模の経済を得るとか、そういうものが働いていないのかなと感じる」との見方を示した。医薬品の供給不安が続く状況にも、規模の経済が追求されていない現状を踏まえ、「中長期的に安定供給が阻害されない体制を作るには、それなりの規模感は必要だ。薬価で短期的なサポートはあり得ても、中長期的に企業残すために薬価を統制していくという政策目標は問題がある。直面している問題をそのまま次の世代に残していくことにもなりかねない。そこは慎重に議論する必要があるのではないか」と述べた。

インセンティブの少ないマーケットのあり方がかえって、ベンチャーの参入を阻害しているとの見方も示し、「全体としては市場を活性化するための“ご祝儀的な薬価”に関する議論をすると、かえって産業構造の変革を阻害するのではないか」と指摘した。

◎遠藤座長 薬価基準制度「口うるさい両親がいる中での子供の発言のようだ」

遠藤座長は、「薬価基準制度は口うるさくて厳しい制度だ。だけど保護されている世界なわけなので、口うるさい両親がいる中での子供の発言のようなところがあるわけだ。それをどう考えていくのかということだと思う」と応じた。

◎小黒構成員「需要者側の声を反映すべき」、堀構成員「患者だけでなく国民の視点を」


論点案には、今後の薬価制度のあり方に関する全体的課題の前提として、「医療保険制度の持続可能性を確保」することが盛り込まれている。「マクロ的な観点から総薬剤費のあり方についてどう考えるか」と追記されるなかで、医療保険制度や財源論をめぐる議論もあった。遠藤座長は、「財政制約というのは、当然考慮する議論になる」との見解を示した。

小黒一正構成員(法政大経済学部教授)は論点案について、「希少がんなどを含め、“こういう薬がほしい”というような、いわゆる“需要者側の声”みたいなものが反映されていない」として、“患者との対話”などの視点を盛り込むことを求めた。

堀真奈美構成員(東海大健康学部長・健康マネジメント学科教授)は、「患者だけではなく、国民ではないか」と指摘。「どこまで本当に負担できるのか。当然、すべての革新的な医薬品が迅速に入って、すべての医薬品が安定供給されることが、財源と資源が無限大であれば望ましいと正直思う。でも、それがこれからの人口動態や社会保障の持続可能性を見たときに、どこまでできて、どこまでできないのか。どこまで負担できるのかについて合意がない限り、あるべき未来の医薬品産業のあり方として、いまの薬価制度とそうでないものでは、ずいぶん違うのではないか」と述べた。

◎菅原構成員「中長期的な展望に、薬価の適用範囲の問題や退出ルールのようなものも」

菅原琢磨構成員(法政大経済学部教授)は、「画期的な医薬品を新たに評価して(薬価基準に)入れていくことは大前提だ。そのためには新たな追加的な財源が恐らく必要になってくる。全体的な財源がバジェットとしてある程度決まっているなかで、新しいものを取り入れるためにバーターとして、例えば何か保険から外すようなものがあれば、それを財源に回していく、再アロケーションするための仕組み作りということも考えるべきではないか」と指摘。「中長期的な展望の中に、薬価の公的な適用範囲の問題や退出ルールのようなものも、薬価の決め方だけではなく、少し議論する必要があるのではないか」と述べた。長期収載品の薬価引下げという選択肢に加え、湿布薬の処方制限などを引き合いに、「いまこれが公的保険の中で(本当に)必要なのかということを議論することもあるのではないか」との考えを示した。



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