26年度費用対効果制度改革へ専門組織が意見書 価格引上げ要件整理も調整範囲はレケンビ特例踏まえ検討
公開日時 2025/07/17 05:30
中医協費用対効果評価専門部会は7月16日、費用対効果評価専門組織の意見書について議論し、診療・支払各側が大筋で了承した。専門組織は価格引き上げ要件の一つを整理して明確化することを提案した。一方で、価格調整範囲のあり方について、レケンビの特例的な取扱いも参考に検討することを提言した。対象品目について、追加的有用性がなく費用増加となった品目については、費用対効果評価の結果を十分に反映できていないと問題視。「有用性系加算がなく市場規模が大きい品目」の取扱いにも課題があると指摘した。このほか、診療ガイドラインへの費用対効果評価の活用方法について具体的に検討することも決まった。
◎引上げ要件“比較対照技術と著しく異なること”を整理へ
24年度改定で価格引き上げ要件の一部緩和を行ったものの、見直し後に価格引上げとなった事例は、これまでないことが指摘されている。専門組織は、現行の価格引き上げの条件のうち、「比較対照技術と著しく異なること」という条件について「定性的」との意見があったことを踏まえ、これまでに評価対象となった医薬品等の評価結果等を踏まえ、改めて、整理することを提言した。
診療側の江澤和彦委員(日本医師会常任理事)は、「定性的な基準を定量的な基準として定義できるのかどうか」が論点になると指摘。診療側の森昌平委員(日本薬剤師会副会長)は、「価格引上げとなったものがない要因は、薬剤の要因なのか、そもそもの評価要件や要件の緩和の内容や、範囲が十分ではなかったのかなど、広い視点での検討も必要」との考えを示した。一方、支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は、「曖昧な部分を整理することを否定するつもりはないが、明確な線引きが技術的に可能なのか、丁寧に議論すべき」と述べた。
◎指定難病や小児、悪性腫瘍などは柔軟に閾値を変えるなどの対応を
専門組織はまた、指定難病や小児、悪性腫瘍などについて、価格調整について柔軟な対応を検討することを提言した。現行制度でも通常とは異なる閾値を活用しているが、一部の国では、疾患等の重症度の評価手法であるshortfall 法などを用いて、日本の制度よりも柔軟に評価品目ごとに閾値を変えるなどの対応を行っている。
診療側の江澤委員は、「現行の扱いではどのような不都合があるのかといった点や、難病や小児の医薬品等に関して開発への対応等も踏まえて個別に検討することの是非といった点が重要な論点になると予想される」と指摘。議論を深めるための資料提示を事務局側に求めた。支払側の松本委員は、shortfall 法などについて具体的な資料提示を求めた。
◎追加的有用性がなく費用増の品目「費用対効果評価の結果を十分に反映できていないのでは」
一方で、追加的有用性がなく費用増加となった品目について、現行では価格調整後の価格によるICER と閾値の乖離が大きく、費用対効果評価の結果を十分に反映できていないのではないか」と指摘。「レケンビに係る特例的な取扱いも参考に、価格調整範囲の在り方を、検討すべきではないか」などと提言した。なお、レケンビについては、有用性加算等を価格調整範囲とする現行の方法ではなく、ICER が500 万円/QALY となる価格と見直し前の価格の差額を算出し、差額の25%を調整額とするとしている。
支払側の松本委員は、「追加的有用性がない品目については、改めて取り扱いを検討すべき。また、価格調整範囲の在り方についても、レケンビを参考にして検討する必要があると認識している」と述べた。
◎市場規模拡大品目などの再指定 取り扱いを明確化へ
対象品目についても提案。「医薬品等の適応拡大における薬事承認等、効能が追加され、その市場規模が一定以上に拡大した品目や費用対効果評価終了後に評価に影響を与えるエビデンスが報告された品目」は費用対効果評価の対象として再指定することができるが、手続きが明確でなかったことから、取扱いを明確にすることを提案した。
診療側の江澤委員は、「通知に規定されている評価に重要な影響を与える知見や評価候補品目の指定基準を満たす可能性といった定性的な基準が、科学的にまた費用対効果の指針にも基づき、定量的な基準として定義できるかどうかが大変重要」と指摘。「そうした観点からの議論を行うことができるための客観性の高い資料をご準備いただきたい」と要望した。また、H3、H4の選定基準に「著しく単価が高い等」とされていることを指摘しながら、「データに基づいた十分な検討が必要」と述べた。
支払側の松本委員は、「H3区分の再指定は、保険財政や患者負担への影響も踏まえ、適切に対応する観点から、取り扱いを明確化する必要があるとは考えている。どのような基準を設定するのか、技術的な事項も含めて専門家にご協力いただきながら、事務局で課題を整理していただきたい」と述べた。
◎介護費用の取り扱い 診療側・江澤委員「規定路線とするのではなく丁寧に議論を」
このほか、介護費用の取り扱いについては、「レケンビに係る特例的な取扱いも参考に、費用対効果評価における介護費用の取扱いについて論点整理をしつつ対応を検討すべきではないか」と提案した。診療側の江澤委員は、「何をもって介護費用とするのかは定かではありません。よって、現時点ではどの程度参考にできるのかも分からない状況」と強調。「まずは、介護費用を分析する際の課題や研究の現状、そして、結果の妥当性等についてご報告いただくことが必要。さらに、レケンビの一例に限らず、他の事例における介護費用の取り扱いについても、一定程度蓄積された時点で初めて価格調整について議論することが可能になると思う」と指摘した。
そのうえで、介護費用を考慮した価格調整を「規定路線とするのではなく」、「費用対効果評価における介護費用とは何を指し、それをどのように評価したのかを明確に説明した資料を示していただくことが必要。その上で、費用対効果評価における介護費用の評価の有無も含めた取り扱いについて、丁寧に議論することが必要」との考えを示した。
支払側の松本委員は、「まずはレケンビについて、一定の判断をした上での議論というふうに認識している」と述べた。
◎診療GLへの活用方法を検討へ 支払側・松本委員「費用対効果踏まえた治療選択が当然あり得る」
診療ガイドラインでの費用対効果評価結果の活用について、「医療者へ情報提供の工夫や診療ガイドラインの社会的影響等、現状の課題も含めて整理した上で、活用方法について具体的に検討してはどうか」とも提案した。
診療側の江澤委員は、「異論はないが、情報提供や社会的影響については、国民に不利益にならないように、くれぐれもよろしくお願いしたい」と述べた。支払側の松本委員は、「診療ガイドラインへの活用は非常に意義のあることだと考えている。過度に選択が控えられるという欠点があることは否定しないが、ICER500万円/QALYまで価格調整をしないということであれば、費用対効果を踏まえた治療法の選択が、当然あり得るものだと考える。費用対効果評価の結果を、臨床現場でも積極的にぜひ参照していただきたい」と述べた。
業界代表の藤原尚也専門委員(中外製薬執行役員渉外調査担当)は、「まずは、制度導入時の基本的な方針を振り返りながら、現行の費用対効果評価制度について客観的な検証を十分かつ丁寧に実施することが重要だと認識している。今後業界ヒアリングの機会に業界代表より意見を述べさせていただき、その意見も踏まえた上で、ご議論を進めていただきたい」と述べた。