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ヤンセン ポジションクローズで初の団体交渉 退職に合意しなかった社員に「適切なポジション」通知へ

公開日時 2023/01/13 04:52
ヤンセンファーマは1月11日夜、事実上の人員削減となる「ポジションクローズ」の実施を受けて2022年12月に結成された労働組合「東京管理職ユニオン・ヤンセンファーマ支部」(略称:ヤンセンファーマ従業員労働組合、以下「ヤンセン労組」)と、初の団体交渉を行った。ヤンセン労組は組合員の雇用継続と、ポジションクローズの概要やその必要性、人選の合理性などの説明を要求した。これに会社側は、ポジションクローズの対象者のうち退職に合意しなかった社員に対して、1月中旬頃に「適切なポジション」への配置転換の異動通知を行い、雇用継続する予定と回答した。ポジションクローズの概要や必要性などについては「開示義務はない」、「内部情報のため答えられない」と繰り返したが、交渉の末、会社側が持ち帰って対応を検討することになった。

一連の労働問題は、ヤンセンの關口修平社長が22年11月11日に全社員を対象に行った社内ミーティングに端を発する。この場で關口社長が日本法人でポジションクローズを実施する方針を明言した。しかし、どの部門やポジションがなくなるのか、なくす理由は何かといった具体的な説明は示されなかったとされる。

ポジションクローズの対象となった社員は、退職勧奨に合意するかどうかを22年12月15日までに意思表示するよう求められたが、退職に合意しなかった社員を中心にヤンセン労組を結成。団体交渉を通じて、今回のポジションクローズの概要などを明らかにするとともに、社内に渦巻く「次は自分が肩たたきにあうのでは」などの不安感を会社側と共有するなどして、社員が安心して働ける環境づくりと健全な労使関係の構築に動き出した(ヤンセン労組結成の記事はこちら。なお、ヤンセン労組の組合員は現在19人。

◎ヤンセン労組 配転先が“適切なポジション”か精査へ 必要に応じて団交申入れ

初の団体交渉は1月11日19時から、会社側の代理人が所属する東京都港区の弁護士事務所で行われた。ヤンセン労組は組合員13人と東京管理職ユニオンの鈴木剛執行委員長の計14人、会社側はヤンセン親会社のジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人の人事部門責任者ら3人と弁護士2人の計5人が出席し、約2時間、意見を交わした。關口社長は出席しなかった。

東京管理職ユニオンの鈴木執行委員長によると、会社側は、退職に合意せず会社に残る選択をした組合員について「ヤンセンの同じ仲間だ」と述べた。そして、今後提示する“適切なポジション”に関して、「社内指針に沿って丁寧にやる。追い出し部屋のようなことは決してしない。皆さんにマッチした業務をいま準備している」との旨の説明があったという。

ヤンセン労組は、今後提示される配置転換先が“適切なポジション”かどうかを精査し、必要に応じて団体交渉を申し入れる予定。警戒感を緩めていない背景には、ポジションクローズの対象となり退職勧奨面談を受けた際、上長から、自身のこれまでのスキルが生かせない業務に異動となる可能性があるといった説明があったためだ。

また、会社側に人員削減目標がある場合、会社から示される異動先を社員に拒否させて、「あなたにお願いできる仕事は、もうない」と再び退職勧奨に至るケースも少なくない。鈴木執行委員長は、「近く会社から提示されるポジションを確認する必要はある」と強調し、「適切なポジションかどうかヤンセン労組として取りまとめ、精査する。場合によっては前の仕事を要求することもあり得る」と述べた。

◎整理解雇の4要素に照らした説明求めるも、「解雇していない」ため「説明義務ない」

ヤンセン労組は今回の団体交渉で、「ポジションクローズ」という名の退職勧奨・合意退職は、整理解雇ではないものの、事実上の人員削減にあたると主張した。そして、日本では人員削減時も整理解雇の4要素が検証・確認されるとし、今回のポジションクローズについて、▽経営上の必要性(経営的に人員削減しなければならない状況かどうか)、▽削減対象となった人選の合理性、▽人員削減・退職勧奨を回避するための経営努力、▽十分な労使協議をしたか――の4要素に照らした説明を求めた。

また、ポジションクローズする部門や人員削減総数などの全体像は不明で、実際に退職に合意した社員数も不明なため、これらの説明も求めた。

鈴木執行委員長によると、会社側は、今回のポジションクローズは退職勧奨・合意退職であって「解雇はしていない」ことから、「整理解雇の4要件(要素)にはあたらないため、説明義務はない」と回答した。ポジションクローズの全体像についても非組合員に係る部分があることや内部情報も含まれることを理由に、「開示義務はない」、「答えられない」と繰り返した。これにヤンセン労組は、日本の判例では人員削減時も4要素が検証・確認されるなどと反論し、最終的に会社側が持ち帰って対応を検討することになった。

◎指名退職勧奨の可能性も

社員の間では、同一部門であっても退職勧奨を受けた社員と受けていない社員がおり、退職勧奨を受けているのはベテラン社員に多いとの印象や見方が広がっていた。団体交渉時に会社側は、今回のポジションクローズは特定部門のクローズではなく、個々のポジションがクローズされたことに伴う退職勧奨との説明もあったといい、事実上の指名退職勧奨だった可能性も浮上した。

鈴木執行委員長は、「なぜ指名されたのか。そこには基準があり、説明する義務がある」と強調し、次回の団体交渉で再度、ポジションクローズの全体像や、4要素に照らして適法なのかを追及していく構えを見せた。

◎「若い社員がヤンセンを辞めることは避けたい」

団体交渉では、組合員一人ひとりから退職勧奨面談の際のやり取りや思いが語られた。退職勧奨面談では例えば、▽退職を拒否しても4~5回面談された、▽退職を拒否した際、「あなたは精神状態が不安定だから、もう1回落ち着いて話をしよう」と言われ、再び面談となった、▽あなたは英語ができないが、英語の仕事になる。○月○日までに英語の資格を取得しないと働けないと言われた、▽退職を決めていない中で社用車や会社貸与パソコンの返還を求められた――といった状況が明るみとなり、退職強要と受け取られかねない事例もあったようだ。

また、ある組合員からは、「ヤンセンで仕事をしている特に若い社員に相当な不安がある。一方で、業務量は増えている。若い社員がヤンセンを辞めることは避けたい。若い社員がのびのびと働けるようにすることは我々の責務だ」との思いも語られた。

◎ヤンセン広報部 労組の意見や声を真摯に受け止める

ヤンセン広報部は本誌取材に、団体交渉が行われた事実関係について、「詳細についてはお答えを差し控える」とした上で、「労働組合の皆さんからのご意見や声を真摯に受け止め、誠実に対応していく」とのコメントを寄せた。

◎顧客とのエンゲージメント、薬価、製品パイプラインが「ビジネスに影響を及ぼし始めている」

ミクスはこのほど、22年11月11日の關口社長による全社員を対象とした社内ミーティング後に、關口社長を含む「マネジメント・コミッティ一同」が全社員に宛てた電子メールを入手した。そこには業界環境や同社の置かれている現状、ポジションクローズを行う旨が記されていた。

それによると、▽顧客とのエンゲージメント、▽薬価、▽製品パイプライン――の「3つの大きなチャレンジ」が、同社のビジネスに「影響を及ぼし始めている」との危機感を示していた。

このうち顧客とのエンゲージメントでは、コロナ禍を機に活動量は大きく低下し、顧客の多くがオンラインで情報収集するようになり、今では対面での情報提供と同じぐらいウェビナーを重視していると現状認識を示した。そして、「行動変化に伴い、顧客が対面での面談に求める期待値も変わった」とし、「今ではより一層パーソナライズされた、質の高いコミュニケーションを求めるようになっている。このような変化は業界全体で加速しており、顧客のニーズや行動変化に合わせて、私たちは先を見据えて進化のスピードを上げる必要がある」と、スピード感をもって情報活動の変革に取り組む必要性を指摘した。

薬価に関しては、「近年、薬価を押し下げるルールが次々と導入され、さらに、革新的なイノベーションが薬価に反映されにくい状況が続いている。これらの製薬業界に対する圧力が弱まる要素はほとんどない」と現状認識を示した。

◎23~24年のザイティガ特許切れ、開発中止・遅延もポジションクローズに影響か

製品パイプラインについては、「現在、私たちのいくつかの主要製品でLOEが迫っている。これは予想されていたこと」としたものの、「期待されていた適応追加が実現しなかったり、ローンチが遅れたりした。これらは短期的にビジネスに影響を及ぼす要因であり、将来を見据えた全社的な経営判断が必要」とした。

特許切れが迫っている大型品のひとつに年間売上約600億円の前立腺がん治療薬・ザイティガがあり、特許切れ時期は23~24年とみられる。計画通りに進まなかった開発品は不明だが、ザイティガなどの大型品の特許切れ影響を短期的にはカバーできないとの見通しが、今回のポジションクローズの理由のひとつになった可能性がありそうだ。

◎「こうした決断とアクションは業績が好調な今しかできない」

ヤンセンの今後については、「これらのチャレンジを克服できなければ、未来はない」とした上で、「長期的に事業を成功させるために、私たちマネジメント・コミッティは何か月も議論を続け、あらゆるオプションを検討し、徹底的に戦略を見直した。その結果、重点的に能力を強化する分野と、全社的なリソースの最適化及び組織再編を決断した」とポジションクローズに至ったとした。

ちなみに、市場の変化に合わせて投資する分野は、▽患者や顧客のインサイトを捉えた高い機動力を持つマーケティングチームの育成、▽重点となる施設と顧客に対する業界トップレベルの顧客管理、▽業界最高峰のフィールドチーム育成と質の高いパーソナライズされた顧客体験の提供――の3つとなる。

そして最後に、「こうした決断とアクションは、業績が好調な今しかできない」と締めくくった。同社は21年に11%増収を果たすなど業績は好調だが、このメール文面から今回のポジションクローズは、先を見据えた“先制的な人員調整”であることが垣間見える。
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