武田薬品OB有志ら「Active-T」 製薬出身者がベンチャーで活躍するための「環境整備や意識改革が必要」
公開日時 2023/02/06 04:50
武田薬品のOB有志らによるビジネスコミュニティ「Active-T」は2月4日、京都市内で定期総会「研究者の集い」を開催した。研究者のキャリアに焦点をあてたのは初で、「製薬企業の研究者はベンチャーで活躍できるか」をテーマとしたパネルディスカッションでは、武田薬品からベンチャーに転身した3人のパネリストが創薬ベンチャーの未来像について熱く語った。
パネルディスカッションは、武田薬品でMRを経験した専修大学商学部の高橋義仁教授をファシリテーターに、同社で医薬開発本部本部長などを歴任した宮本政臣氏、イノベーション&アントレプレナーシップ担当シニアディレクターなどを務めた長袋洋氏、抗体医薬の薬理評価や事業戦略などを担当した森俊介氏―の3氏と意見を交わした。
◎3氏が語るベンチャーと企業研究者の違い
宮本氏は、転身のきっかけについて、タケダ時代に失敗したアルツハイマー病に未練があり、「心残りになっていた部分を少しでも具現化できればと考えた」と明かした。そのうえで、ベンチャーとの違いについて、「ベンチャーを続けるには、お金をキープしていくことが大切で、研究費用をどう獲得するかがカギだ」と指摘した。宮本氏は現在、タウPET診断と抗タウ抗体の開発を行うベンチャー企業APRINOIA Therapeuticsの副社長を務める。
創薬ベンチャーJURO SCIENCESの代表取締役CEOの長袋氏は、武田薬品から米・メルクに転職した経歴をもつ。長袋氏は当時を振り返り、「タケダでの経験が活きてよかったと感じた。メルクもタケダも背景にあるナレッジや考え方は一緒だとわかった」と述べた。一方、製薬企業の研究者と、その後に自身で立ち上げたベンチャーとの違いに触れ、ベンチャーでは様々な職務を担当しなければいけないことについて、「被っている帽子の数が異なる」と表現。「製薬企業時代(のポジション)は、研究者とリーダーの2つだったが、ベンチャーの経営者になり、その2つに加えて法務や会計、人事と計5つの帽子をかぶらないといけなくなった」と指摘した。
コンサルティング業を行うTM パートナーズ合同会社の森氏は、両者には資金面やパイプラインの走り方に違いがあることを指摘。「こうした違いを理解せずにベンチャーに転職した場合には、製薬企業で素晴らしい経験があっても活躍できない人もいる」と指摘した。そのうえで、タケダ在籍時にベンチャーや他の製薬企業の社員と一緒に飲んでいたことが自分の財産になっているとし、「こうした繋がりがどこで助けになるかわからない。研究者もネットワークづくりが大切」と強調した。
◎「一歩を踏み出す障壁を取り除く環境を整えることが大切」
「製薬企業の研究者はベンチャーで活躍できるか」-をテーマとするディスカッションで宮本氏が、「全然問題なくウェルカムだ」と言い切ったのに対し、長袋氏と森氏は、活躍できるとは思うものの、環境の整備や意識改革が必要だと指摘した。
長袋氏は、「できるとは思うが、待遇や安定性を考えると簡単にベンチャーに行くことができない現状がある」と指摘。米国・ボストンがライフサイエンス領域で世界最大のエコシステムを形成したことを例に挙げたうえで、「一歩を踏み出す障壁を取り除く環境を整えることが大切なのでは」と問題提起した。森氏は、「活躍できる能力はあると思うが、ベンチャーではたくさんの仕事を覚えていかないといけない。ベンチャーのやり方に適応できなくて辞めていく方もいるのも実情で、適応力があるかどうかが大切になる」との見解を述べた。