中医協 薬価下支え求める業界に診療側「安売りが原因」「安定供給は評価するものでない」厳しい声飛ぶ
公開日時 2023/07/06 06:14
製薬業界は7月5日の中医協薬価専門部会で、医薬品の安定供給に向けて、基礎的医薬品や不採算品再算定など、「薬価を下支えする仕組みの充実」を訴えた。これに対し、診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)は、「薬価が下がるのは安売りしているのも原因だ。薬価を維持すれば解決する問題ではない」と指摘。診療側の森昌平委員(日本薬剤師会副会長)は、「安定供給していることはある意味、当たり前のことで何か評価するものではない」と指摘。支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は、「今でも大変厳しい医療保険財政が生産年齢人口減少で今後ますます厳しくなるということを議論の前提として、しっかり再認識いただきたい」と述べるなど、厳しい声が相次いだ。
「医療上の必要性の高い品目については、持続的に安定供給に取り組む企業の品目が不採算とならないよう、薬価の下支えをする制度が必要」-。日本ジェネリック製薬協会(GE薬協)の高田浩樹会長は、不採算品再算定の対象が限られているとしたうえで、こう訴えた。日本製薬団体連合会(日薬連)の岡田安史会長も、基礎的医薬品の対象範囲拡充(品目要件、収載からの年数)、不採算品再算定の柔軟な適用などを求めた。日本医薬品卸売業連合会の荒川隆治副会長も、「最低薬価、不採算品再算定、基礎的医薬品について運用の改善を早急に図るようお願いしたい」と訴えた。
◎医薬品の安定供給「薬価を維持すれば解決する問題でもない」 診療側・長島委員
薬価の下支えを訴える業界に対し、診療側の長島委員は、「後発医薬品について安定供給も大きな問題で、直接的には企業における品質管理やガバナンスの不備が原因と考える。薬価が下がるのは安売りしているのも原因だと思う。薬価を維持すれば解決する問題でもないが、後発品業界としてどう考えるか」と質した。
これに対し、GE薬協の高田会長は、「安定供給に関して、発端はやはり企業のガバナンスの問題であると認識している。今後は持続的な安定供給を将来にわたって品質の確保と責任を持つ企業がしっかりと果たしていくべきだと思っている。それに対して評価をいただきたい。しかしながら現在の薬価、流通の仕組みの中では、薬価が下がり続け、製造原価が薬価を上回るような製品がこれ以上増えていけば企業としても責任を持って品質確保、設備投資、人材育成といったものが維持困難になってくる。こういったことが可能となるような薬価における下支えも必要だ」と訴えた。
◎GE薬協「安定供給する企業は個別銘柄で収載を」と主張 診療側・森委員「安定供給は当たり前では」
GE薬協の高田会長は現行制度では後発品が3価格帯に集約されていることにも問題意識を表明。「安定供給されている(後発品の)既収載品の薬価については、適正な市場実勢価が適切に個別銘柄ごとに反映される制度とすべき」とも訴えた。
これに対し、診療側の森委員は、「価格帯が複雑になりすぎないように現行の形になっているものと理解している。安定供給していることはある意味当たり前のことで、何か評価するものではないと思うが、提案の意図に付いて何かあれば説明いただきたい」と質した。
GE薬協の高田会長は、多くの企業が後発品ビジネスに参入する中で、「例えば安く売っている会社の製品が引き上げられたり、あるいは逆に将来的にわたって持続的に適正な価格で販売をしようという製品に関しても加重平均により引き下げられたりといった歪みが生じていると考えている」と説明。「メーカーとしては、仕切価以降関与できないという状況の中で、総価取引等によって個別の製品によらず薬価が引き下げられるという現状もある。今後持続的な安定確保するという観点で、そういった製品に関しては個別銘柄で薬価収載されるということを希望している」と理解を求めた。
◎原価率の高さ訴える製薬業界 診療・支払各側はエビデンスに基づく議論求める
製薬業界側の主張は、物価高騰による原価率の高さによる不採算品の多さがあるとしている。これに対し、「調達コストの上昇が、薬価の中でどれだけウエイトを占めているかといった具体的なデータがないと、影響の大きさがわかりかねる。影響の大きさがわかるデータがあれば提示していただきたい」(診療側・長島委員)、「保険者の立場からすると、これまで賃金が伸び悩んでいた状況下でも、介護保険を守るために保険料率を引き上げた経緯がある。長いデフレの間に原材料コストがどう推移してきたのかを精査しなければ、直近の状況だけを捉えての判断は難しい。長期トレンドをぜひデータで示していただきたい」(支払側・松本委員)と、診療・支払各側からエビデンスを求める声もあがった。
◎後発品の「少量多品目の構造的課題」が原因 「診療報酬上の評価では解決につながらない」
医薬品の安定供給をめぐる課題としては、後発品産業の構造的課題も指摘されている。支払側の安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事長)は、「医薬品の安定供給の問題は、少量多品目生産といった後発品産業の構造的課題に端を発するものであり、診療報酬上の評価による対応だけでは問題の根本的な解決にはつながらないと思っている」としたうえで、「残念ながらその構造的課題が具体的に何なのか、またそれを具体的にどのようにして改善していくのかという説明が十分にはなされていなかった」と述べた。保険者の立場から、患者にとって医薬品の安定供給の重要性を強調したうえで、「この問題は単にジェネリック製薬業界だけの問題であるとは思っておりません。これは流通を含めた医薬品業界全体の問題であると考えている。新薬メーカーも自社の製品をジェネリックメーカーに委託生産しているからだ」と指摘した。これに対し、日薬連の岡田会長が「昨今の医薬品の供給問題については、ご指摘の通り後発医薬品だけの問題ではなく、製薬業界全体の課題であると認識している」と応じる場面もあった。
◎薬価下落に「当事者間で認識を共有すべき」と苦言 支払側・松本委員
このほか、卸連が薬価調査での乖離率を8.0%と想定して薬価が加速度的に下落することを訴えた。
これに対し、支払側の松本委員は、「薬価が下がるそもそもの理由は、薬価よりも卸の納品価格が低いからであり、保険者の立場としてはどのような制度であっても、薬価差は国民に還元すべきであるということが基本的な考え方だ」と述べた。
そのうえで、「コストの上昇、あるいは人件費の高騰で厳しい状況にあるのに相変わらず乖離率が続くことを見通されているものだとすれば、少し考え方を改める必要があるのではないか。むしろ過剰な値引きとはどんなものであるとか、それを防ぐにはどうすべきだとか、そうしたことを当事者間で認識を共有すべきであるということを指摘させていただく」と苦言を呈した。