製薬協・上野会長 日本に適した創薬エコシステム構築に意欲 バイオクラスターつなぐ「情報の集約」がカギ
公開日時 2024/02/16 04:52
日本製薬工業協会(製薬協)の上野裕明会長(田辺三菱製薬)は2月15日の記者会見で、創薬力強化に向け、「日本に適したエコシステム構築」に意欲をみせた。日本各地に点在する創薬・バイオクラスターが密に連携することで、日本の存在感を海外に発揮できる姿を描いた。そのために、「ヒト・モノ・カネに関する情報を“集約”し、つなぐ仕組みが必要だ。仕組みづくりを国にも要望し、製薬協も積極的にかかわっていきたい」と意欲を示した。また、再生・細胞医療や核酸医薬など新規モダリティが創薬の潮流となる中で、これに合致した環境整備の必要性を指摘。製造や治験環境、健康・医療データなどの基盤整備については、「国が中心となり、強力なリーダーシップを発揮しながら実現してほしい」と訴えた。
◎創薬力低下の背景にモダリティの多様化 「新規モダリティの創薬力強化」急務
日本の創薬力低下の背景に、「モダリティの多様化」があると上野会長は指摘する。創薬の潮流が低分子からバイオ医薬品、さらには核酸医薬、再生・細胞医療、遺伝子治療などの新規モダリティへと移る中で、低分子に強みを有する日本の存在感は薄れているとの危機感を表明した。「日本の新規モダリティへの対応は遅れている。日本の創薬力強化に向けては、これまで強かった低分子の創薬力を維持しながら、新規モダリティの創薬力を早急に強化することが重要だ」と語った。
モダリティの変化に伴って「創薬スタイル」をシフトさせるべきだと上野会長は指摘する。低分子の世界では、アカデミアやCMO、CROと“一対一の協業”が基本だったが、新規モダリティでは「テーマの立ち上げや非臨床でのコンセプト検証の段階から製薬企業単独ではなかなか行うことができず、複数のプレーヤーとの協業が必須になっている。複数のプレーヤーと効率よく協業を進めるためにも、創薬エコシステムの重要性が言われるようになってきた」との見方を示した。
◎バイオクラスターの連携で「より高い効果」 国主導で情報集約の「人為的な仕組み」を
創薬エコシステムとしては、米・ボストンエリアが知られる。アカデミア、病院、メガファーマの研究拠点、さらにはベンチャーキャピタル(VC)などプレーヤーが1か所に集積し、
「自然発生的にヒト・モノ・カネが集まり、その地域に物理的にいるだけで、情報が集まりつながっている」との見方を示した。
一方、日本には首都圏だけでも東京、神奈川、千葉、茨城など広範囲に創薬・バイオクラスターが点在する。上野会長は、「各地のバイオクラスター同士がもう少しつながって連携をさらに深めることによって、より高い効果が得られるのではないか。そういったものが、日本に適した創薬エコシステム形成につながるのではないか」との見方を表明。具体的には、エコシステムを回す“ヒト・モノ・カネ”の3要素に加え、「情報」を集約する「人為的な仕組み」を構築することを提案した。
◎創薬めぐる秘匿性担保した情報集約を 特許や知財、「ヒト」の情報も重要
日本での創薬エコシステム構築に向けて、「プレーヤー間の情報収集や情報交換によるところが基本だが、より円滑かつ効果的とする仕組みづくりは人為的に構築できるのではないか」と表明。各創薬・バイオクラスターでは実用化に至ることができないケースでも、“情報”により、「うまくつながることができれば、創薬につながるのではないか」と期待感を示した。創薬をめぐる情報は秘匿性が高いが、「ある程度秘匿性が担保され、プレーヤーが前向きになれるような仕組みがあれば、より情報が集まり、そこから目利きがうまく実用化につなげることができると思う」と期待感を示した。“情報”としては特許や知財に加え、「ヒト」についての情報の重要性も強調。「技術をどう組み合わせ、製品化に結びつけるか。誰がどうアイデアを出すかも重要だと思う」との考えも示した。こうした“情報”の集約化に向けては、「国のバックアップが必須になる。そういったものを提案していきたい」と述べた。
◎薬価・薬事制度の海外発信に意欲 薬価制度改革の検証「業界団体だけではなし得ない」
2024年度薬価制度では新薬創出等加算の見直しなど、イノベーションへの適切な評価がなされた一方で、「効果検証」も課題として突き付けられた。上野会長は、「私ども業界団体だけではなし得ないことだ。行政、他団体と連携し、ドラッグ・ラグ/ロス解消に向けた対応を進めるとともに、今回の薬価制度改革の効果検証についても検討、実行していく」と述べた。
具体的には、「企業の意識がどう変わったのか、あるいは行動がどう変わったのかを調べるとともに、実際にドラッグ・ラグやドラッグ・ロスの状況にどう影響しているのか、変化しているのかを確認していく」と述べた。上野会長は、「医薬品開発の主体は製薬企業、個社の話」と指摘。現在指摘されるドラッグ・ラグ/ロスが海外のバイオベンチャー由来で起きていることにも触れ、「実際に開発するのは個社であるという認識の上で、各社の行動変容につながるよう、今回の薬価制度改革や薬事制度の意味合いを伝えていくのが、我々製薬協の役割だと思う。製薬協としてやるべきことと、個社がやることとは違うと捉えている」と述べた。
製薬協としては、「薬事制度や治験環境等の環境整備を進めるとともに、今回の薬価制度改革あるいは薬事制度の内容について、特に海外に向けて情報発信をしてまいりたい」とも強調。「こうした取り組みを継続的に行うことが重要であり、将来のドラッグ・ロス解消に確実につながっていく」と述べた。
なお、薬価制度改革については2024年度診療報酬答申書附帯意見では、「製薬業界の協力を得つつ分析・検証等を行うともに、こうした課題に対する製薬業界としての対応を踏まえながら、薬価における評価の在り方について引き続き検討する」と明記されており、“業界としての対応”が問われている。
◎26年度薬価制度改革へ「新薬の革新性に適した薬価制度構築を目指す」
26年度薬価制度改革に向けては、「24年度薬価制度改革の中で継続議論となった“薬価収載時のインベーションの適切な評価”が第一にあると考えている」と表明。「新規モダリティや、これまでなかった新薬の革新性に適した薬価制度の構築を目指し、26年度薬価制度改革に向けた議論を深めて参りたい」と話した。