新年度を迎えた4月1日、製薬各社は入社式を行い、経営陣が新入社員へ向けてエールを送った。「変化を恐れず、挑戦を」、「思う存分悩み、壁にぶち当たり、成功体験を積んで」―。グローバル人材、DX人材など働き方に対する価値観が多様化する中で、経営トップのあいさつには、変革期を迎えた製薬産業の歩むべき未来と、社員一人ひとりの成長や夢の実現に焦点を当てたメッセージが目立った。
◎武田薬品 新任の宮柱JPBUプレジデント 「世界をリードするデジタルバイオ製薬企業へ」
武田薬品は新卒新入社員36人を迎え、東京都内のグローバル本社で入社式を行った。会場とオンラインで約200人の従業員も参加。AIによる100年後の未来の従業員からのオープニングビデオメッセージなど、デジタルやテクノロジーを随所に活用した。
クリストフ・ウェバー代表取締役社長CEOはビデオメッセージで、従業員の成長への投資は「会社と従業員相互のパートナーシップだ」と説明。「タケダには思いやりの文化があり、誰もがその一員としてお互いをサポートし合い、理想的な働き方を実現しようとしている。多様な視点と多様なバックグラウンドを持つ人々が共通の目標に向かって協力し合ったときにこそ創造性とイノベーションが大きく開花する」とあいさつした。
4月1日付で就任した
ジャパンファーマビジネスユニット(JPBU)の宮柱明日香プレジデントは、創業から240年を超える武田薬品の強みとして「不変のタケダイズム・価値観を抱き、何よりも“変化を恐れないこと”、それに“挑戦し続けている”からだ」と強調。「世界をリードするデジタルバイオ製薬企業として、『データ・デジタル・テクノロジー』の力を活かし、さらなるイノベーションとなる新たな価値を世界中の患者さんへ届ける」と語った。
◎第一三共・奥澤社長 「トータルケアエコシステムで果たすべき役割考えよう」
第一三共の奥澤宏幸代表取締役社長は、成長を牽引する抗体薬物複合体(ADC)・エンハーツの伸展により、第5期中期経営計画で当初掲げた売上収益などの目標を、「大幅に上回る見通しだ」と述べた。中計最終年の2025年には「がん領域において世界のトップ10企業に名を連ねる」とした上で、さらなる成長へ向け、「多様なデータとデジタル技術を活用し、一人ひとりに寄り添った最適なサービスを提供するHaaS(Healthcare as a Service)のあり方について真剣に考えている。世界中の人々の健康促進、予防、治療、予後ケアにわたるトータルケア エコシステムの中で第一三共が果たすべき役割は何か、一緒に考えてまいりましょう」と呼び掛けた。
また、奥澤社長自身が大事にしている言葉として、当事者意識を持ち、主体的に行動する「アカウンタブル マインドセット」の考え方を紹介。「会社にパーパスがあるように、皆さんにもパーパスがあると思う。重なり合う部分を見出し、仕事を通じて個人的な夢も実現してほしい」と求めた。
◎中外製薬・奥田社長 働くことは社会価値創造へ通じる 「自分の価値を意識して」
中外製薬の奥田修代表取締役社長CEOは入社式で「働くことの意味」を投げかけ、「皆さんの価値を社会の価値へと転換する作業。最終的には医薬品とサービスを通じて、患者さんやご家族の幸せの実現に繋がっていく。まわりまわって社会価値の創造につながっている」と意義を強調した。新入社員へ向けて、「成長し、皆さんの価値が大きくなると、さらに大きい価値を生み出す原動力になる。ぜひ自分の価値を意識して働いてほしい」とエールを送った。
中外製薬グループの新入社員は233人。中外製薬は単体でMR18人を含む158人を採用した。入社式では、新入社員と役員によるパネルディスカッションも初めて行われ、お互いの理解を深めた。
◎エーザイ・内藤CEO レカネマブ成長へ「重要な年度」 経営哲学も訓示
エーザイの内藤晴夫代表執行役CEOは、アルツハイマー病治療薬・レカネマブ(製品名:レケンビ)の世界各国での承認取得や市場浸透に向け、2024年度を「重要な年度」と位置付けながら、「会社が大きく変容し成長する節目のタイミングでお迎えできたことを大変うれしく思う」と新入社員を歓迎した。
ビジネスのポイントとして自身の“経営哲学”も披露。「自分で見つけたものを自分で作り、届ける“Manufacturer”であれ」、「失敗なくして成功なし。失敗はつらいがカウント8で何とか立ち上がる」、「コンプライアンスは単なる法規の遵守にとどまらず、社会からの期待に応えることが重要」―などと訓示した。最後は「思う存分、悩み、壁にぶち当たり、成功体験を積まれていくことを心より期待している」と締めくくった。
◎小野薬品・滝野新社長 楽しみながら「真のグローバルファーマ」へ
小野薬品は滝野十一代表取締役社長COOが4月1日付で就任したことに絡めながら、「真のグローバルスペシャリティファーマ」に向けた成長を見据えた。滝野社長は67人の新入社員に対し、「『初心』を忘れず、『患者さん』本位で、『仲間とチャレンジ』することを、『ルール』を守りながら、『楽しむ』」と、五つのキーワードを使って訓示した。また、「之を知るものは之を好むものに如かず、之を好むものは之を楽しむものに如かず(物事をよく知る人は、それを好む人にかなわない。好む人もまた楽しむ人にはかなわない)」と論語の一節を読み解きながら、「皆さんと一緒に楽しみながら挑戦を続けていきたい」と期待を込めた。
◎大塚HD・樋口社長 「激動する世界」へ果敢に挑戦を
大塚ホールディングス(HD)の樋口達夫代表取締役社長兼CEOは、新入社員の活躍の場を「激動する世界」と表現。政治経済の不確実性や気候変動、地政学的リスクなどの課題の一方、AIなどテクノロジーの進化や人体の本質に迫る研究、多様性が導く力など「無限の可能性も併存している」と説明した。その上で、大塚HDが経営の神髄(企業文化)として掲げる「流汗悟道」「実証」「創造性」を挙げ、「新しい舞台で果敢に挑戦し、ともに世界に貢献する“なくてはならない企業”を目指していこう」と呼び掛けた。
◎住友ファーマ・野村社長 「困難を成長のチャンスと捉えて」
住友ファーマの野村博代表取締役社長は新入社員40人に向けて、「困難を成長のチャンスと捉え、前向きに進むことこそが様々なbreak-throughを生み出す」と強調。「働く皆さんが自律・自立し、前例にとらわれず柔軟な発想で何事にも取り組む必要がある」と求めた。
あいさつの中では次の成長ドライバーとして期待する研究開発の進捗も紹介。パーキンソン病を対象疾患とするiPS細胞を用いた再生医療等製品については「(2024年度に) 条件・期限付き承認を目指してPMDA に承認申請を行う予定」と説明。抗がん剤2製品についても「大変期待できるデータが得られている」として26、27年度の日米での承認申請へ見通しを示した。業績悪化も懸念される中で「有望な開発プログラムを着実に前進させ、結果として将来の成長が見えてくる」と巻き返しを誓った。
◎日本新薬・中井社長 「本気になって行動し挑戦しよう」
日本新薬の中井亨代表取締役社長は、社員が目指す行動・態度・意識を示す「NS Mind」を紹介。その中で「自分に、相手に、社会に本気になる」という3つの本気を掲げ、新入社員に「一人ひとりの個性や強みを発揮して、組織に新しい風を吹きこんでほしい」と求めた。
◎東和薬品・吉田社長 新たな産業構造へ「あらゆる角度から挑戦」
東和薬品の吉田逸郎代表取締役社長は、安定供給問題などで信頼が揺らぐ後発品業界の現状に触れ、厚生労働省の有識者検討会による議論も踏まえ、「新たな産業構造が完成していく中で、新しいポジションを確⽴するべくあらゆる角度から積極的に挑戦していく」と宣言した。工場の増設を含めた増産体制への取り組みや、ジェネリック医薬品事業以外のOTC医薬品などの新規事業展開、海外への新規市場開拓へ意欲を示した。
新入社員に向けては「ただ与えられた指⽰をこなすだけの『作業』ではなく、何のために業務をするのかなど、⾃分⾃⾝でも考えて『仕事』をしてほしい」と強調。「何にやりがいを感じるのか、何を成し遂げたいのか、何を目標にするのかなど自問自答しながらキャリアを積み重ね、10、20年後には牽引していく社員を目指してほしい」と求めた。