イスラエル・テバ社が有言実行した「武田テバ」の全株式売却 JWPが目論むGEビジネス 次の”打ち手”
公開日時 2024/12/09 04:51
「2025年中の日本のジェネリック事業の売却を見込む」-。テバ社(イスラエル)のリチャード・フランシスCEOが日本のジェネリック事業に関する株式譲渡を発表したのは今年5月8日のこと。その言葉の通りテバ社は「武田テバ」の全株式をジェイ・ウィル・パートナーズ(JWP)が運営管理する「ジェイ・ケイ・アイ」に譲渡する契約を締結し、25年4月1日までに手続きを完了すると発表した。これに伴い武田薬品は同社保有の株式49%をテバ社に売却し、約550億円の配当を含む売却益を受け取る。今後注目されるのはJWPの動向だ。すでに日医工、共和薬品を傘下に収めているJWPは、メディパルHDに対し、先行2案件と同様のスキームによる共同出資を求め、同社も20%の出資を決定した。長引く供給不安など国内のジェネリックビジネスに変革が求められる状況下で、JWPの次の“打ち手”に注目が集まる。
「テバの成長戦略の一環として、当社はテバの国際市場セグメントの一部である日本でのジェネリック事業を売却することを決定した。2024年第1四半期に最終的に約6億ドルの減損費用が発生する。現在のところ、事業は来年中(2025年中)に売却される予定だ」-。テバ社のEli Kalif CFOは、5月8日にイスラエルで開催した2024年第1四半期の業績説明会でこう述べた。ただ、この日の説明会でリチャード・フランシスCEOは、日本からの撤退は否定、日本での新薬ビジネスも視野に、「利益を踏まえた重点的な資本配分に踏み切る」との考えも滲ませている。
◎武田薬品 保有株式49%譲渡で約550億円を受け取る予定
武田テバの設立は2016年4月1日。出資比率は武田薬品49%、テバ社51%。当時、武田薬品が合弁会社設立に踏み切った背景には、同社の長期収載品を新会社に移し、本体の事業をイノベーティブな革新的新薬の収益を安定的かつ継続的に確保することがあった。このため武田テバに対し、同社のMR約60人を出向させたほか、ブロプレス、タケプロン、ベイスン、アモリン、パンスポリン、ユーロジンなど、市場ポテンシャルの高い長期収載品を承継していた。
今回、テバ社が決定した株式譲渡について武田薬品は、「日本における医療用医薬品ビジネスの環境変化を踏まえ、当社およびテバ社の将来にわたる持続的成長を見据えた事業戦略を慎重に検討した結果、このたびの決定に至った」と説明している。保有する49%の株式(約550億円)をテバ社に譲渡し、同社の関連会社から除外することで、ジェネリック医薬品や特許期間を満了した医薬品ビジネスから一線を画すことになる。折しも武田薬品のクリストフ・ウェバー代表取締役社長CEOが5月に公表した「全社的な効率化プログラム」の戦略方針とも重なるところだ。
◎JWP 日医工と共和薬品は”協業を越えた再編”に 武田テバと日医工にビジネス実績あり
一方、JWPは、日医工、共和薬品の2社への共同出資でジェネリックビジネスでの実績を重ねている。JWPの傘下に入った日医工の岩本紳吾代表取締役社長は7月23日の記者懇談会で、「共和薬品とは、”協業を越えた再編”というキーワードをベースに両社で仕事をしていくことになる」と強調した。すでに製造面で共和薬品と連携し、品目の集約・統合を進める考えを明らかにしている。品目数を絞り、大量生産に舵を切ることで、生産効率の向上など期待されるところだ。この点で、武田テバの全株式譲渡について、先行2社と同様に、JWPがどのような協業体制を構築するか注目されるところだが、その伏線はすでにあった。
武田テバと日医工の関係をみると、2020年7月に日医工が武田テバの後発品事業の一部買収を発表している。2021年2月1日付で、武田テバの後発品486品目の製造販売と、岐阜県の高山工場とその従業員、同工場で受託製造している製品の委受託契約を日医工が承継した。その後、日医工は武田テバから移管された成分重複した一部品目について在庫消尽をもって販売中止する方針も公表しており、ビジネス環境で実績があることも見逃せない。
武田テバのJWPへの全株式譲渡は25年4月1日。社名変更(T‘s ファーマ、T‘s 製薬)は25年9月を予定している。武田テバの全従業員の雇用は継続されるほか、引き続き武田薬品の流通を介して製品提供することになっており。JWPが運営管理するファンドで設立した「ジェイ・ケイ・アイ」には、メディパルHDも20%出資することが決まっている。
◎カギ握るメディパルHDの役割 生産流通モデルの“さらなる前進に”
メディパルHDは、JWPが手掛ける日医工、共和薬品への出資を通じ、「品質システムの継続的な改善を行い、また計画生産等の取り組みを通じて、安定的かつ効率的に後発医薬品を 患者に届けるための生産流通モデルを構築してきた」と指摘。武田テバの全株式譲渡案件については、「本件出資を通じ、これまでの出資先との取り組みをさらに前進させ、必要な患者に品質の確保された後発医薬品を安定的に届けられる体制をより発展させることを目指す」と意欲を示した。
JWPの次なる“打ち手”だが、日医工、共和薬品に続き、武田テバの人財・資産を引き継ぐ最も大きなメリットは「人財」との見方がある。もともと武田薬品との合弁会社であることに加えて、ジェネリックビジネスに限らず、内資・外資を問わず新薬ビジネス全般に精通した人財の多い武田テバが強みになるというものだ。ジェネリックの安定供給などの課題解決が強く求められる中で、日本のジェネリックビジネスをいかに再編・統合に導くことができるか注目されるところだ。