スズケン・浅野社長 スペシャリティ薬トレーサビリティシステム 病院500軒超導入「約57億円の廃棄回避」
公開日時 2025/05/15 04:50
スズケンの浅野茂代表取締役社長は5月14日の2024年度決算説明会で、スペシャリティ医薬品トレーサビリティシステム「キュービックス」が24年度に医療機関522軒に618台(23年度457軒・538台)導入されたと報告した。このうちがん拠点病院は211軒で、がん拠点病院の44%にまで普及した。同システムは医薬品の品質や在庫状況などをリアルタイムに把握でき、自動発注や、期限切れ間近の製品の把握もできる。浅野社長は、「24年度に約57億円の医薬品廃棄を回避できた」と明かし、「高額医薬品の課題解決に向けた取り組みとして評価をいただいたいる」と述べた。今後も顧客の課題解決につながる提案を積極的に行い、薬価差以外の価値で顧客との信頼関係を高めていく。
◎スペシャリティ医薬品流通受託件数 24年度に39社70品目に 9割強が1社流通
スズケングループは、20年前からメーカー物流から流通までのトータル機能を整備し、スペシャリティ医薬品の国内への新規参入や新製品上市を支援する事業も展開している。キュービックスシステムを導入した医療機関からの評判も追い風となり、スペシャリティ医薬品の流通受託件数が伸びている。
同社によると、スペシャリティ医薬品の受託品目数は23年度が34社60品目だったものが、24年度に39社70品目に拡大した。この9割強は同社グループによる1社流通だという。浅野社長は、「スペシャリティ医薬品の受託実績は品目シェアで50%以上」になったと胸を張った。メーカー物流については、製薬企業からの保冷庫ニーズの高まりを受けて、25年度に22億円を投じて保冷庫の拡充を行う予定にしている。
なお、スペシャリティ医薬品流通受託事業の24年度売上は前年度比36.7%増の2954億8500万円。既受託製品の市場伸長や新規受託製品の増加により大幅増収となった。25年度は約10%増収の3260億円を目指すが、この数値には25年度の新規分は含まれていない。
◎取引先16万軒、医療・介護者30万人を統合した「グループ情報統合基盤」を整備へ
同社は新たな収益事業の創出に向け、デジタルを活用した情報ビジネスの事業化に挑戦している。浅野社長は、医療・介護事業者向け医療DX総合プラットフォーム「コラボポータル」の登録者数が30万ID以上に拡大したことを紹介したうえで、「当社が現在取引いただいている全国16万軒の『施設』とのつながりと、新たに構築した30万人の医療・介護者の『個』とのつながりを統合した『グループ情報統合基盤』の整備を進める」との計画を明らかにした。
そして、「当社グループが保有するデータを整理・統合し、世の中に広く提供していくことで、ヘルスケア業界における社会課題解決に貢献する健康創造事業体を目指す」と強調し、デジタルを活用した新たなマーケティング支援サービスにつなげる考えを示した。統合化されたデータにより、医療従事者の働き方改革への貢献、医療費削減への貢献、欠品・廃棄のない世界の実現、異業種との新規パートナーシップの実現、取り扱い商材の拡大、新規事業の創出――などが期待できるとし、実際、ヘルスケア領域に関心を持つ企業から相談が寄せられていることも明かした。
◎情報セキュリティガバナンスを強化 本社役員・幹部対象の生成AI研修など実施へ
今後データの利活用をより推進していくため、グループの情報セキュリティガバナンスの強化を図るほか、情報の組み合わせによる価値の検証などを行う「グループ情報統合委員会」とAIや最新ツールに代替可能かなどを検証する「生産性向上委員会」の2つの委員会を設置し、成長と生産性向上の両面から検討を進める方針。また25年度の重点取組みとして、▽本社役員・幹部を対象とする生成AIなどのDX研修、▽支店長を対象とする実戦形式の研修――を行い、「組織としてのDX対応力を高める」(浅野社長)としている。
◎24年度は増収増益 売上総利益率は0.25pt増の6.10% 浅野社長「粗利改善に努めた」
同社の24年度連結業績は、売上高が前年度比0.6%増の2兆3999億5200万円、営業利益は6.4%増の371億2500万円――。
このうち医薬品卸売事業は、売上高は0.6%増の2兆3139億6700万円、売上総利益は5.0%増の1412億5600万円、売上総利益率は0.25ポイント増の6.10%、販管費は5.0%増の1093億3900万円、営業利益は4.9%増の319億1600万円、営業利益率は0.06ポイント改善の1.38%――だった。新型コロナウイルス関連商材が落ち込んだ一方で、抗がん剤市場の拡大やスペシャリティ医薬品の寄与などで増収を確保。営業利益は増収効果に加え、流通改善ガイドライン(GL)を遵守した適正価格での取引推進やコスト抑制などにより増益となった。なお、流通改善GL遵守や利益重視の取組みにより売上には約208億円のマイナス影響が出た。
浅野社長は24年度業績について、「リベートやアロワンスが減少傾向にあるなか、荒利の改善に努めたことで、売上総利益率の改善につながった」と述べた。流通改善GLの重要性を顧客に丁寧に説明して「別枠交渉を粘り強く実施する」と同時に、出荷調整への対応やスペシャリティ医薬品・高額医薬品の廃棄ロス削減、デジタルの活用といった「お得意さまの課題解決につながる提案を積極的に実施した」と紹介した。
25年度の医薬品卸売事業は、市場伸長やスペシャリティ医薬品の寄与により3.0%の増収を見込む。利益面は、物価上昇や、ベア・委託費の値上げといった「社会的要請」への対応などにより販管費は増加を見込むが、流通改善GL遵守の取組みを徹底することで、コロナ関連商材を除き5.3%の営業増益を見込む。コロナ関連商材を除いても営業利益率1.0%以上を目指す。