
日本製薬医学会(JAPhMed)メディカルアフェアーズ部会IMEワーキンググループは7月25日、第17回学会年次大会で、独立医学教育プログラム(IME:Independent Medical Education)を認定する第3者認証機関「日本版ACCME」構築を提案した。IMEは、製薬企業等の資金提供を受けながらも商業的影響を排除し、教育ニーズに基づき独自に設定・実施する医学教育。概念的にIMEはCME(継続医学教育)に包含され、米国は企業コマーシャル活動から完全に切り離れたファイアウォールを設けて運営している。日本CME協会の寺本民生理事長は、現在検討中の「日本版CEM制度」に絡めながら、科学的中立性の担保が求められる重要性を指摘。「医師の行動変容を通じた間接的な効果を期待するもので、直接的な製品宣伝ではなく、医師の知識向上による適切な医療提供を目指したい」と説明した。
欧米のCMEは医師免許更新の単位付随が一般的。免許更新に必要なCMEにおいて企業による不適切な商業的関与を排除する動きが加速し、教育の独立性と透明性を厳格に確保するプロセスからIMEの枠組みが確立されたという背景がある。一方で日本は、専門医のニーズを満たす教育プログラムを維持するための資金的・人的リソースが不足しているほか、製薬企業の情報提供活動が、販売情報提供活動GL等で自社製品の承認範囲に限られており、他剤比較など臨床現場が求める情報が届きにくい構造になっていることがあるという。
米国のIMEは1981年にACCMEを設立したことに始まる。2004年には商業支援基準(SCS)を改訂し、教育の独立性、COI、企業の介入禁止を明確化。2010年にはSunshine Actで医師への支払い公開が法的義務化。2020年には新基準を発表し、マーケティングとの明確なファイアウォールを要求し、製薬企業等の商業的介入を排除した客観的で科学的な医療教育の質を保証している。なお、2024年の米国CME市場総収入は約37億USドル。内訳は、受講登録料が55%、企業からの商業的支援が22%となっている。
◎産業界による教育支援には課題が山積 企業側も社内理解不足やノウハウ不足も課題に
ただ、日本では産業界による教育支援に課題が山積している。JAPhMed・MA部会IMEワーキンググループの冨岡弘紀氏は、医療従事者側は企業に対する根強い不信感が存在し、2020年のデータでは企業CMEに対してバイアスがないと考える医師は24%にとどまっていると指摘する。一方で企業側も社内理解不足やノウハウ不足も課題となっていることを報告した。その上で冨岡氏は、IME定着・発展に必要な4つの要素を提示。①IMEの明確な定義と普及、②標準的評価基準の策定、③独立した監査体制の確立、④制度的保障の確立-が必要な要素として考察されており、それぞれについて詳細な検討が必要だと述べた。
◎日本版IMEの資金提供モデル Grant形式、データ購入形式、コンソーシアム型
また日本版IMEの資金提供モデルについて、企業は資金提供のみで教育内容に一切関与しない「Grant形式」、教育アウトカムを企業が購入する「データ購入形式」、複数企業が協力して教育プロバイダーを支援する「コンソーシアム型」などをあげた。さらに第3者認証制度「日本版ACCME」がなぜ必要なのかに触れ、生成AIの普及に伴い教育コンテンツの正確性・信頼性の担保が一層重要になると強調。多様な教育プロバイダー(非営利・企業含む)参入に基準が求められることなどをあげ、「日本版ACCME」構築の必要性に理解を求めた。
◎日本CME協会の寺本理事長 「医師の行動変容が期待できる」

この日のシンポジウムに登壇した日本CME協会の寺本民生理事長は、「CMEプラットフアウォールを設け、コンテンツの査読・承認、科学的エビデンスに基づく制作などのレギュレーション対策を行う。教育コンテンツの著作権はプラットフォームに帰属する。さらに、CMEプラットフォームの役割に、コンテンツプロバイダーの認定も含めた。
一方でCME実施による企業側のメリットにも触れ、自社重点領域の啓発活動や最新かつ科学的な情報発信。産学連携による研究開発力の向上、社会貢献による企業価値向上などをあげた。寺本理事長は、「適切な教育により処方内容の改善や患者説明の向上など医師の行動変容が期待できる」と強調した。
◎ディスカッション IMEとプロモーションの線引きについて
この日のシンポジウムは4月10日に開催されたJ-CME共催セミナーで講演した厚労省の佐藤大作審議官のコメントを踏まえて行われた。IMEとプロモーションの線引きについて、「製薬企業以外の第三者による提供で、目的が医学教育であることが明らかであれば、広告の3要件および販売情報提供ガイドラインの対象外」、「コンテンツの権利が製薬企業ではなく、独立した第3者(CME協会や医療機関等)に所属していることも、非該当と判断する上で重要な判断基準の1つ」という見解について各パネリストが発言した。
ギリアドサイエンシズの記村貴之氏は、「多くの企業では寄付・グラント形式でIMEの枠組みを持っており、教育プログラム実施団体からの申請を社内審査する体制が整っている」と説明。この審査過程では、コマーシャル部門は関与せず、プロモーションとは独立した社内審査体制になっていると強調した。
住友ファーマの仁田正弘氏は、社内でIMEを進める際のコンプライアンス課題について言及。一定の判断ができる枠組みができることの重要性を指摘し、「IMEを進める観点では大変ありがたい」とコメントした。
日本CME協会の寺本理事長は、第三者的組織としての日本版CMEの活用によってコンプライアンス課題をクリアできるとしながらも、現実的な課題として資金提供の額が低いことを指摘。企業のグラント形式では十分な評価が得られておらず、第三者的な教育機関への理解が不足していることを問題視した。
市立青梅総合医療センターの日下祐氏は、臨床現場の視点から診療ガイドラインの改訂が新薬の登場に追いつかない現状を説明。承認されていない薬について中立的な情報が得られることの重要性を強調し、IMEの推進を支持した。
横浜市立大学研究・産学連携推進センターの井上祥氏は、数年前の古くなった診療ガイドラインが医療訴訟に使われるケースがあることを指摘。さらに、日本医療機能評価機構のEBM医療情報事業(Minds)の資金削減などの課題を指摘した。また、リビングエビデンス(Living Evidence)からリビングガイドライン(Living Guideline)への展開の重要性を述べ、医学の進歩に追いつくためのサポートの必要性を訴えた。
北村聖氏は、生成AIの活用について言及し、製薬メーカーが正しい情報を公開することの重要性を強調。「情報を隠すのではなく、データがあればパブリッシュすることで、医師が適切に判断できる環境を作る」ことを提案した。また、医学教育の危機的状況について、企業の教育支援資金がプロモーションに集中せざるを得ない仕組み、学会や専門医機構の教育資源不足、生成AIのハルシネーションリスクへの対応方針の未確立、教育の科学的中立性や質を担保する審査体制の不在などが主要な課題としてあげた。