米ベクトン・ディッキンソン（BD）から分社・独立して４月に誕生した糖尿病ケア専門企業「エムベクタ」の日本法人が６月７日、東京都内で事業説明会を開いた。エムベクタは、約100年に渡りインスリン注射器材を開発してきたBDの歴史と実績を受け継ぐ、世界最大の糖尿病ケアに特化した企業の１社。日本法人の吉原博明社長は、「糖尿病と共に生きる人々により良いソリューションを」との企業ミッションを達成するため、「柔軟な発想を持って、患者や医師の身近なニーズを拾い上げ、クイックに対応したい。新しいソリューションを提供したい」と抱負を語った。日本法人の業績目標は「５年で100億円」と話した。

1922年にインスリンが初めて注射された２年後の1924年に、BDが世界初のインスリン専用注射器を製造・発売した。エムベクタはこの歴史を受け継ぎ、2022年４月から事業を開始した。インスリン注射器材のグローバルリーダーとして年間76億個の注射器材を供給。100カ国以上の推計3000万人が同社製品を使っている。年間売上は11億6000万ドル（約1400億円）。

主要製品はペン型注射用注射針（ペンニードル）やインスリン用注射器で、いずれも国内カテゴリシェアナンバー１。国内で唯一、針刺し損傷防止機構付きペン型注入用注射針を供給する企業でもある。

世界に社員は2000人以上いるが、日本法人の社員数は約50人。それでも米国、中国に次ぐ３番目の売上規模で、成長率は米国などと比べて高いという。日本の成長率の背景には超高齢社会という市場環境もある。吉原社長は、「日本は超高齢社会ということもあり、これからのインスリン治療に関して世界に発信していく国。（グループ内の投資対象としても）日本の優先順位は非常に高い」と語った。

◎機器開発・イノベーション促進　地域包括ケア時代の自己管理のサポートにも注力

吉原社長は、患者や医療従事者から信頼されるパートナーとなるため、▽患者QOLを向上する機器開発・イノベーションの促進▽高齢化・地域包括ケア時代に向けた自己管理のサポート強化▽M＆Aや提携の推進により幅広い製品・サービスを提供――の３点に注力する方針を示した。

機器開発・イノベーション促進では、インスリン投与のためのパッチポンプの開発を推進するほか、患者ニーズに基づくより使いやすいペンニードルやインスリン用注射器、針刺し損傷を防止する安全機材を継続して改良・開発する。

高齢化・地域包括ケア時代の自己管理のサポート強化では、糖尿病専門医不在の施設やエリアであっても正しい注射手技指導につながる非専門医向けのサポートツールやサービスを拡充する。吉原社長は、具体的な取り組みとして、「地域のネットワークを通じて、専門医からかかりつけ医や看護師への情報提供のサポート」を例示した。また、患者やその家族のための「糖尿病ケアアプリ」を通じて、日々の生活や食事などをサポートするほか、インスリン注射手技に関するコンテンツも充実させて患者QOLの向上に貢献したい考え。

M＆Aや提携の推進では、日本やアジアパシフィック地域の現場ニーズを把握するためメディカル・クリニカルのスタッフを増員し、それぞれの国や地域の独自ニーズを踏まえたM＆Aや提携を拡大させる意向を示した。