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【解説】仏サノフィの米ジェンザイム買収 ついに決着 その背景を探る

公開日時 2011/02/17 07:01

約半年近く混迷を続けたサノフィ・アベンティスのジェンザイム買収がついに決着した。2月16日、両社はサノフィがジェンザイム株式1株当たり74ドル、総額201億ドルで買収することで合意。さらに株主が1株当たり最大14ドルの現金を受け取れる「不確定価額受領権」(CVR)を付与することも決まった。結果的に当初、ジェンザイムが不服を示していた価格面の要求をサノフィ側はほぼ受け入れる形となった。(ジャーナリスト:村上和巳)


◎サノフィ側の執念 裏返すと焦りも


今回の買収劇は、10年7月上旬、ブルームバーグがサノフィがアメリカで200億ドル規模の買収を検討していると報じたことで表面化した。この段階ではターゲットは不明なままだったが、同月下旬になって、それがジェンザイムであると各紙が報道したことで関係者は騒然とした。しかし、報道をよそに両社は沈黙を守り、バカンス明けの8月下旬にようやくサノフィ側が1株当たり69ドル、総額約185億ドルでジェンザイムに買収提案を行ったことを公表したのだった。


ただ、この発表はある種異例ともいえる内容だった。通常のプレスリリースに添付されたのは、サノフィのクリストファー・A・ヴィーバッハー最高経営責任者(CEO)からジェンザイムのヘンリー・ターミアCEOへ宛てて送付していた買収提案書簡。


書簡は買収実現でジェンザイムはサノフィのグローバルプレゼンスと製造技術を得て、一層のマーケットプレゼンス強化と新興市場への進出に寄与すると強調。同時に買収後もサノフィグループ内の希少疾病部門の中核としてジェンザイムのブランドや研究開発部門、経営陣や従業員は重要な役割を担うことができるなどのメリットを列記していた。


企業間の半ばパブリックな文書とはいえ、水面下の交渉で提示した書簡を公にするというのは、やや強引ともいわれても仕方がない。実は似たようなケースは製薬業界では過去に少なくとも1度はある。99年11月に当時のアメリカン・ホーム・プロダクツ(AHP)と対等合併を決めたワーナー・ランバートに対して、ファイザーが敵対的買収を発表した時のことだ。


当時、ファイザーは過去数週間にわたりワーナー・ランバートのロドヴィック.J.R.デビンク会長兼CEOに対し、合併に関する具体的なコンタクトをとっていたことを明らかにしたほか、買収提案のメリットを強調するデビンク会長宛の書簡も併せて公にしている。だが、過去に実例があるとはいえ極めてレアケースであり、そこにはサノフィ側の買収にかけた執念、裏を返せば焦りがあったと思われる。


◎主力品の特許失効、ライセンス契約終了に悩むサノフィ


それは09年のサノフィの通期決算内容を見れば想像がつく。
同社の製品別売上高トップ10の製品のうち、09年通期では既に5製品が特許失効あるいはライセンス契約の終了により減収。


残る5製品のうち抗がん剤タキソテール(一般名・ドセタキセル)は10年末に特許失効予定、ARBのアプロベル/アバプロ(一般名・イルベサルタン)は、09年通期は前期比4.7%増収と主力品の中ではかなり好調だったが、ヨーロッパの一部でジェネリックとの競合が始まり、アメリカでは10年に入って同じARBのロサルタンカルシウムのジェネリック品が登場したあおりで売上伸長は鈍化していた。


だが、サノフィにとって痛恨の一撃となったのは、10年に入って製品別売上高第2位の低分子ヘパリン製剤・ロベノックス(一般名・エノキサパリン)のジェネリック品が登場したことだったろう。


09年通期売上高で約42億4500万ドルだったロベノックスは、そもそもアメリカで2012年までとされた特許を無効とする司法判断が07年に下っていたため、いつジェネリック品が登場してもおかしくない状況にはあった。
ただ、07年の司法判断後にMomenta Pharmaceuticals社が承認申請していたロベノックスのジェネリック品は安全性の不十分さなどを指摘され、承認が見送られていた。


こうした経緯も影響してか、Momenta Pharmaceuticals社が09年末に再びロベノックスのジェネリック品の上市を予告していたにもかかわらず、サノフィもそれほど深刻には受け止めていなかったようだ。09年通期決算発表会見時にヴィーバッハーCEOは「ロベノックスは特殊なバイオ医薬品であり、後発品がその安全性と有効性を担保することは困難。また規制当局が早期に承認するとは考えていない」と強調。同社の2010年の業績見通しでも、ロベノックスのジェネリック品との競合は考慮をしていないとの前提で1株当たりの利益で前期比2~5%増との予想を公表していた。この件について会見では、こうした業績予想を疑問視する質問が集中したものの、最終的にはサノフィ側がアナリスト達に「我々の方がこの件に関する情報に精通している」と一蹴していた。


◎ロベノックスのGE品問題とジェンザイム買収の時期がほとんど一致


しかし、10年7月、ノバルティスのサンド事業部とMomenta Pharmaceuticals社が申請したロベノックスのジェネリック品は承認を取得。サノフィは、FDAが先発薬とジェネリック品が同じ有効成分であることの確認を怠ったとして承認撤回を求める仮差し止め訴訟を米コロンビア州地区裁判所に提訴したが、8月末に同裁判所は訴えを却下する決定を下した。


製品別売上高トップ10の製品うち、トップのインスリン製剤・ランタス(一般名・インスリングラルギン)、第3位の抗血小板薬・プラビックス(一般名・クロピドグレル)、そしてロベノックスは、大型新製品の上市が思うように進まない環境では虎の子同然。しかも、ランタスは2014年、プラビックスは2012年に全世界で特許失効が見えているなかで、予想外に早い展開でロベノックスの減収に直面することになったのだ。同社は2010年第2四半期業績発表で、この点を織り込み、前述の2010年の1株当たりの利益を前期比0%から4%減と下方修正しなければならなくなった。


このロベノックスのジェネリック品をめぐる問題が噴出した時期と、サノフィがジェンザイム買収に動き出した時期がほとんど一致していることを単なる偶然と考える関係者はまずいないだろう。
09年に複数回にわたる製造施設問題が表面化したジェンザイムだが、オーファンドラッグ中心でジェネリック品との競合はなく、業績に速効性が期待できることを考えれば、サノフィにとっては何としても獲得したい存在だったに違いない。


10月に開始した敵対的買収から、これまでサノフィにとっては「買収不成立か?」と見られる局面が少なくなかっただけに、今回紆余曲折を経ながらも有効的に買収合意に至ったことに関係者は胸をなでおろしていることだろう。
とはいえ、サノフィにとっては安穏ともしていられないのが現状だ。売上高トップのランタスは、癌リスク上昇との関連をFDAが継続調査中で、同社のインフルエンザワクチンでの熱性けいれん増加についてもFDAは注視している。


また、ここにきて同社は、FDAが先頃、致死性の心室性不整脈リスクを高めることが示唆されたとした制吐剤アンゼメット(一般名・メシル酸ドラセトロン)を一部の国で販売中止することを決めた。


◎メガ・ファーマ全体にとってターニングポイントになる可能性も


一方、今回の買収成立は、メガ・ファーマ全体にとってある種のターニングポイントになる可能性も指摘されている。09年にワイス、シェリングプラウ、ジェネンテックがメガ・ファーマ各社に買収され、今回ジェンザイムも30年の独立経営に幕を閉じることが決定したことは、メガ・ファーマによる買収戦略が終焉に近づいていることも意味する。


過去15年ほどの間にメガ・ファーマ各社は、業界関係者ですら新会社の社名や由来を思い出すのに混乱するほど次々と合併・買収を繰り返してきた。


しかし、ジェンザイムがサノフィの傘下に入ったことで、一部の下位製薬企業やバイオベンチャーを除けば、もはや数百億ドル規模の「お手頃」に買える企業はなくなってきた。
そうしたことから考えるならば、メガファーマ各社に求められるのは、新薬創出が困難な時代にこれまで買収で得てきた規模・シーズをもとに、どれだけ画期的な新薬を生み出せるかである。まさにメガ・ファーマ各社の真価が問われる時がいま到来しているのだ。
 

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